ごみの出し方を変えるだけでも、立派な社会貢献。
松田丈志(元競泳日本代表)×マシンガンズ滝沢秀一
松田丈志氏×マシンガンズ滝沢秀一 【HEROs】
こうした問題の解決に向けて私たちはどのようなことができるのでしょうか。ビーチクリーン運動やごみ拾いを競技化した「スポGOMI」アンバサダーとして活動する元競泳日本代表の松田丈志さんと、「ごみ清掃芸人」として知られるマシンガンズの滝沢秀一さんが身近なごみという視点から環境問題について語り合いました。
「日本一のごみ清掃員になってやろう」
マシンガンズ滝沢氏(以下、滝沢):僕は25年ぐらいお笑いをやっていますが、やっぱり芸人一本でやっていくのはなかなか難しい。36歳のとき、妻が妊娠したことをきっかけにアルバイトを探したのですが、なかなか雇ってくれるところが見つからなかったんです。そんな時に、知り合いから紹介しもらったのがごみ清掃員の仕事でした。
清掃員の仕事を始めた頃は、「ラッキー、これでお笑いを続けられる。お笑いで一発あててお金持ちになってやろう!」と思っていたのですが、続けていく中で「いつまでこんなことやってるんだろう」という荒れた気持ちも出てきました。
ちょうど、その頃に同期でM-1チャンピオンになったサンドイッチマンが、とある番組で司会者から1番遠いひな壇に座っているところを見て、我に返ったんです。「M-1チャンピオンに輝いたサンドウィッチマンがあそこに座っているなら、俺らの座る席なんてあるはずがない」って。
それをきっかけに、ごみ清掃員の仕事に対して「とりあえず目の前のことを一生懸命やろう」と考えを改めて、「日本一のごみ清掃員になってやろう」と思うようになりました。
松田:僕自身も環境問題に興味があって「スポGOMI」という活動などもやっているので、滝沢さんの業務内容にとても関心があります。現在もごみ清掃員として働いてらっしゃるんですか?
松田丈志氏 【HEROs】
松田:そうなのですね。分別を間違えられやすいごみとかってあるんですか?
滝沢:例えば、「ペットボトル」と言えば、みなさん同じものをイメージするから「間違えようがないんじゃないか?」って思いますよね。でも実際は、シャンプーや洗剤の容器や、「なんとなく似てるから良いだろう」と考えるのか、卵のパックが混じっていたりしますね。
滝沢:いろいろあるのですが、高級住宅街で大人3人でも持ち上がらないような立派な大理石のテーブルを見たことがありますね。どうやって出したのか不思議に思いました(笑)。
でも当然のことですが捨ててあるものなので、勝手に持って帰ると処罰の対象で最悪クビです。粗大ごみは出す方がお金を払っていますし、回収にも税金が投入されているので、勝手に持って帰ってはいけないのです。
松田:以前、滝沢さんが「お金持ちの人ほど無駄なものを捨てていない」といったお話をされていたのが非常に印象的でした。
滝沢:やっぱりお金持ちの人ほど無駄なものには1円も使わないっていう意思をごみからも感じますね。一方で、お歳暮でもらったであろうジュースや高級ゼリーセット、メロンなんかがが丸ごと捨ててあったりすることもあります。
マシンガンズ滝沢秀一氏 【HEROs】
ごみを通じて社会のさまざまな問題が見えてくる
松田:僕は宮崎県出身で海の近い街に住んでいたんです。だから、台風が来るとビーチにわーっとごみが流れついてくるところを子どもの頃からよく見ていました。「海にこれだけのごみが落ちてるんだな」ということをずっと感じてきたのです。
また、子どもの頃に友達の母親が小売店をやっていて、賞味期限の迫ったジュースやヨーグルトを分けてくれた思い出があるんです。そこで美味しく食べられるのに商品としては売れないものが世の中にたくさんあるんだなということを知りました。なので、今でも品揃えのよいお店にいくと、いろんな商品があって楽しい一方で「これ本当に全部売れるのかな?」と心配になってしまう部分もありますね。
滝沢:僕も環境問題の番組の取材などで、似たような話を聞くことがありますね。
例えば、ハロウィンなどのイベントに関連した商品って、そのイベントが終わると商品としての寿命は終わってしまう。今ではだいぶ少なくなりましたけど、以前はクリスマスケーキにもそうした傾向がありましたね。一切れ食べただけで捨てられてしまうみたいな。
松田丈志氏×マシンガンズ滝沢秀一氏 【HEROs】
滝沢:やはり食品ロスですね。日々ごみ回収をしていると、「これ本当にごみかな?」というものを見かけます。例えば粗大ごみの中に袋から出されてない自転車があったりする。それは捨てている人にとってはごみなのかもしれませんが、一般的に見たら「ごみではないんじゃないか」と思うんです。
その中でも食品は特に目立ちます。僕の仕事は「もったいない」と思うことではなくて、あくまでごみの回収ですから、清掃車の回転板のボタンを押して「まだごみじゃないかもしれないものが本当のごみになっていく様子」を見なくてはならない。
こうした状況がある一方で、世界には飢餓に苦しんでいる人がいるので、「食料が先進国に集中しすぎなのではないか」と考えたりもします。そんな風に、ごみを通じて世界とか社会が見えてくるという部分があるんです。
松田:僕は新潟の佐渡に毎年行って、トライアスロンやオーシャンスイミングの大会に出ているのですが、前日にビーチクリーン活動をしています。
そのときに、子どもたちに地元の漁師さんから海の環境の変化についても話をしてもらうようにしているのですが、だんだん海水温が上がってきて「本来もっと南で取れていた魚が網にかかるようになった」「そもそもの漁獲量が減っている」といった声を聞きます。
また、佐渡には中国や韓国のごみが流れ着いてくるんですよね。それは商品のパッケージを見ればわかるわけですが、逆のパターンも考えられます。つまり、日本のごみが韓国や中国に流れ着いている可能性もある。これは「海は一つなんだな」ということを、ごみを通して感じられるエピソードだと思いますね。
松田丈志氏 【HEROs】
「分別しなくてもいいだろう」という意識は伝染する
実際に清掃員の仕事をしていると、ものすごい量のペットボトルを見るので、少しでも減ってくれるといいなと思うんです。1日1本で365本、19年で3650本といったように塵も積もれば山になります。「自分一人やっても…」と思う人も多いかもしれませんが、そんなことはありません。
仕事中に「分別をしっかりしない地域」などに当たることもあるのですが、そういう意識って周囲に伝染するんです。分別してない袋があると、僕が開けて分別しなおしたりする。そういう作業をやっている側からすると、やっぱり一つでも減ってほしいと思います。
松田:高速道路の高架下にペットボトルが捨ててあったりしますが、あれも誰かが最初に捨てたのを見て、ほかの人が「ここはいいのか」と思って捨てていく。
だから僕自身も「自分ができることはわずかかもしれないけれど、それが誰かに伝播していくんだ」というのは常に意識しています。実際、僕がアンバサダーを務めているゴミ拾いを競技化した「スポGOMI」や、ビーチクリーン活動に参加した人はポイ捨てなんか絶対しないと思います。なぜなら、自分たちが拾った経験があるからです。
滝沢:子どもの頃に一度は経験したほうがいいかもしれませんね。そうすれば大人になってからポイ捨てをすることもなくなると思います。
松田:今の子どもたちは学校でSDGsについて勉強する機会などが多くあるので、環境問題に対する意識が高いと感じます。逆に大人たちは次世代への責任を背負っているわけですから、より言動で示していく必要があるのではないでしょうか。
滝沢:現実をしっかり見て、どういった社会構造になっているかを知ることは大切です。例えば、これから社会の高齢化がさらに進んでいくなかで、生ゴミを堆肥にすることで園芸セラピーのような活動に繋げることもできますからね。そういった活動が広がっていくと良いなと思います。
あと20年で埋立地がいっぱいに?!
実際、環境省によると2040年頃には、日本でも最終処分場(埋立地)がいっぱいになると言われています。現在が2023年ですから、あと20年足らずしかありません。まずはこうした実態を多くの人に知ってもらうことが重要だと思いますね。
環境活動に関心があっても、「何から始めたらよいかわからない」という方も多いですが、まず「仲間を見つけること」から始めると良いと思います。僕自身は仕事なので続けられますが、そうじゃない人は一人だとなかなか続かない。だからこそ、仲間を見つけて楽しみながら続けることが大事だと思います。
松田:仲間がいることは大切ですよね。ごみ清掃員として仕事をするなかで、滝沢さんでも孤独を感じられる時はあるのですか?
滝沢:「『ごみを減らそう・分別しよう』というメッセージにはほとんどの人が賛同してくれるはず」と思うのですが、SNSなどで反論してくる人を見た時なんかは特に感じますね。でも、一方でそういう人がごみを分別してくれるようになるには、どうすればいいのか?ということも考えます。
僕自身も最初は清掃員の仕事に前向きに取り組んでいたわけではなかったんです。最初の数年間は歩いているだけで熱中症になりそうな炎天下の中でごみ収集をしていて、分別をしていない人がいたら、腹立たしく思っていました。ガス缶とかが入っていると、「俺の命が危ないわ」みたいな。そうやってさまざまな問題に追いかけられているときは、楽しくないんですよね。
でも、「日本一のごみ清掃員になろう」と思った時から、自分でいろんな工夫をするようになりました。「どうしたら分別してくれるかな、SNSで発信してみよう」「すれ違う人に挨拶したらクレームが来なくなるんじゃないか」といったように問題を追う側になってみたら、精神的にも楽になったんです。
マシンガンズ滝沢秀一氏 【HEROs】
特にたばこの吸殻は高ポイントなので、見つけた人は「よっしゃ!また吸い殻を見つけた」と前向きにごみ拾いをできるようになります。単純に「ごみを拾いましょう」だと目標がないので、どうしても後ろ向きな気持ちになってしまいやすいですよね。
また、「スポGOMI」はチーム戦なので、先程滝沢さんがおっしゃった仲間と励まし合いながら取り組むことができます。全国で開催できますし、約1時間程度から参加できます。今年は世界大会もやるので、気軽に参加してほしいです。
滝沢:僕も今度ぜひ参加させてください。
松田:ぜひぜひ!
滝沢:僕は、今芸人3人でごみを拾って、「どんな人が落としたのか?」を想像する番組をやってるので、今度ゲストで来てください!
松田:面白いですね、そちらもぜひ(笑)。
※リンク先は外部サイトの場合があります
一人一人が変わらないと解決に向かわないのがごみ問題
松田:現在、JOCの理事を務めているのですが、現代スポーツの在り方として、単に「強い」というだけだとダメだと思っています。強いことプラス「どれだけ世の中にポジティブな雰囲気を発信していけるか」というのも重要になってきている。
なので、現在JOCの各連盟のアスリート委員会で、環境問題に対して、ポジティブなインパクトを与えられる活動を連携して行なっていきましょうという働きかけをしています。
松田丈志氏 【HEROs】
松田:アスリートの影響力を活用していくべきだと思うんです。
滝沢:僕は中日ドラゴンズファンなので、子どもの頃から落合博満さんの言動を真似したりしていましたから、やっぱりアスリートの影響力は強く感じますね。
松田:環境問題は、確かに個人でできることは限られているかもしません。でも逆に一人一人がやらないと解決に向かわない問題でもある。まずは、個々人が環境に対して関心を持って、余計なごみを出さないようにすることが重要だと思います。
僕が今携わっている「スポGOMI」というイベントは、本当に老若男女、年齢やハンディキャップの有無を問わずに参加できるので、多くの人にごみ問題への関心を持つきっかけにしてほしいですね。
滝沢:環境問題というと、ガソリン車をEVに変えるみたいな大きなことをイメージするかもしれませんが、シンプルに「ごみを減らす」というのが最も身近な環境問題だと思います。
ごみを運ぶのにもCO2が発生しますから、できるだけ少なく軽くしたほうが環境に良い。それこそ生ごみなんてほとんどが水分ですから捨てる前にぎゅっと絞って軽くするだけで全然違うでしょう。清掃員だって濡れると嫌な気持ちになりますし、焼却炉の効率だって悪くなります。ちょっとしたごみ問題を意識してもらうだけでも、余計な税金を使わなくて済むでしょうし、環境にも良い影響があることを知ってほしいですね。
松田丈志氏×マシンガンズ滝沢秀一氏 【HEROs】
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ