2023.5.19 J1第14節 北海道コンサドーレ札幌 vs 京都サンガF.C.

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チーム・協会

【2023.5.19 J1第14節 北海道コンサドーレ札幌 vs 京都サンガF.C.】

【これはnoteに投稿されたバルコンサベールさんによる記事です。】
札幌がホームに京都を迎えます。
札幌は前節と同じスターティングメンバー。最近3ゲームは固定ということになりました。ベンチメンバーも前節同様です。
京都は山崎、木下、豊川が前線に入ることが多いと思いますが、このゲームでは山崎と木下はメンバー外、豊川もベンチからのスタートです。前線にパトリック、WGには木村と山田が入りました。中盤以下は今シーズンのレギュラーと言えそうな並びです。

【バルコンサベール】

京都が守るところ、捨てるところ

京都は、札幌のピッチ中央方向へのプレーを優先して塞ぐことを意図していたように見えます。札幌の前進経路をブロックの外側へ誘導することで、時間がかかる遠回りのプレーを選択させる、その経路の途中で奪ったりエラーを誘う、できれば選択肢を狭めてボールを捨てさせる、という狙いでしょう。

京都は、札幌の4-1-5の配置に対して、4-3-3の基本配置を維持したまま高い位置からプレッシャーをかけました。
前線の3人は、札幌のGK+最後尾の3人のマークを担当します。WGの山田と木村がCB化した宮澤と岡村のプレーを制約しつつ、パトリックは横パスのコースを消しながら、菅野へのバックパスを狙います。前線の3人が札幌のプレイヤーを追いかけ、後ろでは4バックがオフサイドの適用される限界の高さにとどまると、その間にあるスペースは川崎、福岡、松田の3人に任されることになります。京都はこのエリアでは人を基準にするのではなく、3人でラインを形成してスペース管理的にアプローチしていました。中盤の3人は互いに離れすぎず、カバーし合えるような関係を作りながら、ボール周辺のスペースを消すように振る舞います。
札幌が4-1-5を崩さずにプレーしていれば、SB化した田中と福森、そして中央にいる荒野の3人の高さで、左右にスライドするイメージになります。京都の左サイドにボールがある状況であれば、田中と荒野を守備範囲に収めるところまでラインをスライドさせ、逆サイドの福森は捨てます。

【バルコンサベール】

このとき、ローカルには川崎が荒野、松田が田中を対人マークするような状況が生まれ、初期状態で監視する対象がない福岡にはスペース管理の役割が残されます。福岡の念頭にあるのは、川崎の背後のカバーと、逆方向から中央のスペースに顔を出してくる札幌の2列目のプレイヤーへの対応でしょう。
福岡が中盤でスペース管理的に振る舞うということは、京都はそのエリアに人数を余らせているということになります。その分、札幌のフィールドプレイヤー全員にはマークが行き届かないことになりますが、これは優先順位の問題で、反対サイドは捨ててでも札幌に中央を使わせない、という意思の表れでしょう。
またパトリックが菅野に対応するような形になっていると、フィールドの人数の関係はさらに1人分不利になります。京都としては札幌にキーパーを経由して楽にサイドチェンジをさせてしまうと、中盤にある大きなスペースの片側を捨てる対応が無意味になってしまいます。キーパーを含めて札幌の最後尾の経路を塞ぐことは、その意味で必要な対応だったでしょう。

【バルコンサベール】

京都は、リトリートした状況でも札幌の中央方向へのプレーを警戒します。札幌陣地側では大きなスペースを管理していた川崎、福岡、松田の3人は、今度は4バックの前のスペースを消す役割を担います。
サイドでボールを持つ札幌のアタッカーに対して、スライドした4バックと、戻ってきたWGが直接向き合いますが、それをピッチ内側から外側方向に向かってカバーするような関係を作って、札幌のパスやドリブルがゴール前に入ってこないように備えます。
このときも捨てているエリアが明確で、バックパスからの攻撃のやり直しや、縦方向へのドリブルは、ゴール前を直接脅かすプレーではないので許容するということでしょう。中央に人を置いて2重の防壁を作ることで、札幌をゴールに対して迂回させ続けます。

【バルコンサベール】

札幌のマークの背後を連続して使う

京都は攻撃においても、札幌の得意なシチュエーションにハマらないよう、チームとして慎重にプレーしていました。
札幌はどのチームが相手であれ、ビルドアップに対するプレスとそこからのショートカウンターを狙っています。京都はパトリックへのロングフィードでそれを避けて安全に前進する方法も使ってはいましたが、機をみてボール保持へ移行します。札幌のマークに対してその裏を狙う、というと凡庸なアイディアのようですが、京都は札幌の最終ラインめがけて大きく蹴るだけではなく、小さな規模で、連続的にそれを実行していました。特に中盤では、札幌のマンマークに負荷をかけるアイディアも持っていたように見えます。

自陣の深い位置では、麻田と井上が左右に大きく開いて自陣中央にスペースを作ると、そこを川崎と福岡が使ってパスの中継点を担うようなプレーをしていました。札幌のマンマークは、前向きには判断することが少なく強いのですが、初期配置から大きくズレていく横方向の移動には、マークを受け渡すかどうか判断が発生し、その判断の遅れや不一致から問題を生じやすい傾向があります。(ゴール前の逆サイドでマークが外れてしまうのが典型例です)
このゲームの札幌は、駒井の初期配置を2列目の左として、ディフェンス時にはひとつ下がって川崎を担当する関係を想定していたと思います。宮澤と荒野が福田と松田、という関係は札幌の初期配置に近く、明確です。この初期の想定からの移動がどのようなものになるかが、札幌に負担が生じるかどうかに影響しますが、福岡が川崎と同じ高さまで下がり(駒井に接近する)、かつ川崎が逆サイドへ流れていく(駒井から離れていく)と、宮澤と駒井は判断を迫られます。基本的には元のマーク対象についていくのが札幌の原則だと思いますが、それでも移動量が多いとマークをスイッチして効率化したい、という判断は出てきますし、移動についていくために要する時間のぶん、マーク対象にプレーするための空間や時間を与えることになります。

【バルコンサベール】

福岡と松田、川崎は、マーカーの守備範囲のボーダーまで移動して、中盤で札幌にストレスを与え続けました。ここで京都がマークから逃れる瞬間を、右WG山田が狙っています。パスが出ると同時かその前に札幌の背後へランニングを行い、札幌のDFを一気に後ろ向きにさせるトライに移行します。

【バルコンサベール】

札幌を帰陣させることに成功して、SBが移動を終えると、今度はサイドでの遅い攻撃に移行します。SB、IH、WGの3人がローテーションしながら、札幌の守備の後ろのスペースへランニングして裏返すタイミングを狙います。
ここで重要なのは、3人の形成する三角形の各辺がパスコースでありつつ、ランニングによってその三角形を変形させることができるということです。DFとしてはパスに反応するためには辺にとどまりたい、しかしランニングに対応するには進行方向に立ちたい、そのどちらも選んでもアタッカーには選択肢が残るジレンマに陥ります。結果、京都のアタッカーはスピードアップするタイミングの主導権を得て、DFにリアクションを強いることができる状況になります。京都はSBのドリブル突破、スルーパスなどで札幌陣地の一番深いエリアへ入っていきます。

【バルコンサベール】

京都がサイドで裏へ抜けると、ゴール前にいる札幌のDFはクロスが来るのか、ドリブルで入ってくるのか、見極めるためにボール周辺の状況を注視せざるを得ません。そのため逆サイドで待つ京都のプレイヤーはフリーになりやすく、クロスが逆サイドまで到達すると高確率でチャンスが訪れます。

【バルコンサベール】

京都の想定内の展開

ゲームは、京都のプレスによって札幌が押し下げられる展開で始まります。パトリックと山田、木村のプレスで岡村と宮澤に前方向のプレーをさせず、川崎も荒野にアプローチして中盤の出口を塞ぎます。札幌はゴール近くに押し込められながら小柏や金子へのフィードで脱出を図りますが、キックモーションが制約され、かつDFとってはタイミングの読みやすいプレーになるため、京都の4バックが対応できる範囲に留まります。
ほぼ京都が準備してきた通りの状況で、あとは福岡と松田が、中盤で福森、田中、駒井、浅野の動きにうまく対応できるか、という問題のように見えました。

【バルコンサベール】

しかし6分、札幌が先制します。京都の攻撃が終わり、札幌の自陣からのカウンターになりかけた場面からでした。カウンターそのものは浅野に対するファウルで止まりましたが、札幌がバックパスで素早くリスタートすると、京都はプレスに出るのか、体制を整えるのか中途半端な状況に陥ります。この状況で岡村が京都のブロックを越えるフィードを選択すると、金子がこれを拾ってドリブル。一気に京都をゴール前に置く状況まで持ち込みます。金子が佐藤との1on1から縦に抜けてクロスを送ると、ニアで受けようとした小柏を麻田が倒してPKの判定に。金子がこれを決めて1-0としました。

京都はプレスの準備が整っていない状況から失点でしたし、時間帯としても、ゲームプランの変更は頭にないようでした。引き続き札幌を押し込もうとしますが、札幌が次第にこれに対応できるようになっていきます。ポイントになったのは、京都がうまく管理しようとした札幌のSB(田中と福森)のところで、札幌がボールを簡単に放棄しなかったことにあるように見えました。
田中の周辺のエリアに浅野がサポートに降りてくると、松田はひとりでは対応しきれません。逆サイドの福岡も、ラインの意識があるため川崎を飛び越えてはサポートに行けません。そのため、左WGの木村が松田を助けるために岡村へのマークを曖昧にしつつ、このエリアの助けに入る場面が生まれていました。田中、金子、浅野と松田、木村、佐藤の3vs3の状況ですが、京都は、同数では必ずしも奪いきれません。また、前方では岡村と菅野に対するマークも曖昧になります。京都がサイドで奪いきれないと、札幌にはバックパスの経路が生まれていました。これは京都が一番避けたかった状況で、逆サイドでは福森、菅の2人がフリーになっています。

【バルコンサベール】

札幌がサイドを変えると、京都は急いでボールサイドに移動してプレスをかけますが、この移動の時間があると札幌は十分な体制でサイドチェンジのキックを蹴ることができます。逆サイドでは金子と田中がフリーになっており、キックが成功すれば高確率で金子が縦方向のドリブルに移行することができます。

【バルコンサベール】

しかし京都も、高い位置のプレスがいつも成功するとは思っていなかったでしょう。京都は、札幌の陣地で奪いきれなくても、素早く帰陣して中央を封鎖する守備に移行することができていましたし、それに備える意識もあったように見えます。リトリートした状況で金子と佐藤が向き合う場面が何度も生まれ、そこからのクロスで何度か札幌にもチャンスが訪れますが、内側へのドリブルやバイタルエリアで浅野や駒井に前を向かせる、というプレーはさせていなかったように見えます。京都のCBにとっては、クロスボールの出どころを視界に入れた状態をチームに作ってもらっている状況ですから、あとはマークを外さなければ札幌のFWに十分な体勢でシュートを打たせることはない、ということになります。チームとしては札幌の動きを想定内にとどめて、うまく守れている状況があったと思います。

前半を通してプレスを続けた京都は、全体的には札幌をゴールから遠ざけることに成功し、機をみてボール保持に移行しながらチャンスも作っていました。主に山田のランニングを使って右サイドから押し込むと、白井がサポートしてクロスまで持ち込みます。特に、クロスボールが流れて逆サイドまで到達した場面がいくつかあり、松田や木村がフリーに近い状況でシュートチャンスを迎えました。ここまでは狙い通りだったと思いますが、シュートが外れるなど、この形からの得点は生まれません。
しかし40分、京都が同点に追いつきます。左サイドでのボール保持が詰まった状況から自陣に戻し、札幌のプレスが中途半端になったところで、CBからパトリックへの縦パスを通します。パトリックが柔らかいポストプレーで川崎に落とすと、右サイドで山田がすぐにスプリントへ移行、白井を経由して山田にボールが渡ります。山田がゴール前に送ったボールをパトリックが押し込み、1-1としました。

個人がなんとかしなければならない範囲

札幌は前半のプレーで痛んだ宮澤がハーフタイムで交代になります。中村を左CBに入れ、宮澤のいた左CHには荒野、左CBにいた福森を右CHに移動させます。また中盤のマークの曖昧さを解消するため、駒井を1列下げて川崎の担当とするように確認したようにも見えました。福岡や松田が動いても、マークの関係を崩れにくくします。
一方、京都は前進の方法に変化を加えます。松田と入れ替わるように木村が低い位置まで移動して、ポストプレーを試みます。ここにCBやGKから鋭いボールが入っていました。松田の空けたスペースに田中が引き出され、難しい体勢での対応を強いられます。

【バルコンサベール】

後半も京都のディフェンスの狙いと、それを上回ろうとする札幌の拮抗した展開が続くかと思われましたが、58分に田中が痛んで馬場と交代。馬場はそのまま右CBに入りましたが、これによって札幌の振る舞いは大きく変化することになります。
ビルドアップの経路として馬場はあまり選択肢に入っていないようで、札幌の前進は馬場のいる右サイドを省略しがちになり、最終的には縦に急ぐ傾向が強くなります。小柏と浅野を走らせることで陣形が縦長になり、前半のようなサイドチェンジによる揺さぶりが見られなくなります。京都もポストプレイヤーを2人に増やしている状況で、札幌も前に急ぐようになると中盤を省略したカウンターの応酬にゲームは傾いていきました。

追加点がどちらに入ってもおかしくない展開でしたが、71分に得点したのは札幌でした。京都が右サイドでスピードアップしたところをルーカスが奪い返すと、逆に札幌のカウンターの展開に。トランジションの最中は中盤のフィルターがきかず、札幌は簡単に中央のスパチョークを経由して右サイドの金子までボールを到達させます。金子が木村との1on1を突破してクロスが入ると、ファーサイドに入った浅野が井上のマークを外してヘディング。これが決まって2-1としました。
京都としては札幌のカウンターに対して7人が戻っており、ボールを奪われた白井自身も4バックに合流するまでスプリントして帰ってきている状況でした。木村が金子に縦方向に抜かれたとはいえ、内側を切る最低限の仕事はしています。視野の中で上がってきたクロスに対して、あとは中央で競り勝つのが京都のディフェンダーの仕事です。失点場面においても京都はチームとしてのプライオリティを守って機能していたと思いますが、最後は個人の駆け引きに負け、浅野をフリーにしてしまいました。チームとして狙った状況に持ち込んだとしても、その状況を使って得点する、それでも失点を防ぐのは個人の働きです。その差によって、得点機会では必ずしも上回ってはいなかった札幌が追加点を挙げました。

最後はビハインドの京都が攻勢を強めます。序盤から続いた駆け引きで疲弊し、田中を失った札幌はなかなか有効な攻撃ができずに防戦一方になりますが、1点のリードを守って逃げ切り。2-1で札幌の勝利となりました。

感想

札幌の得点は、いずれも京都が攻撃に出た後、ディフェンスがセットされる前の状況から生まれています。それでも京都は破綻していたわけではありませんが、対人プレーのクオリティに影響したことは確かでしょう。
また、木村選手は、前半は背後をカバーしながら高い位置からプレス、後半は中盤に下がりながらのポストプレーでゲームを作る活躍を続けていましたが、一方で、前半にあった決定機を決めきれず、後半はポストプレーが成功した後にプレーを急いで前線に繋げられない、など重要な場面でのプレーが後一歩及ばなかった印象です。京都は攻撃面でもかなりの程度チームとしての狙いを表現できていたと思いますが、局面で必要なひとつのプレーがなかったために、それを得点に繋げられなかったという面がありそうです。
曹貴裁監督のコメントを読むと、チームとしてやるべきことはきちんとできていたが、そういう土壇場で我慢できる、得点まで持っていける力がまだ足りない、という気持ちが読み取れました。まさにそういうゲームだったな、と思います。結果は札幌に転がり込みましたが、札幌の振る舞いを前提に組み立てられた京都のプランが機能し、拮抗したゲームだったと言えるんじゃないでしょうか。札幌の選手たちはゲーム後座り込んで、疲れ切った様子でしたが、それも納得です。チームの狙いが噛み合った好ゲームで、見ていてとても楽しかったです。

得点を重ねている浅野選手ですが、どのゲームでもそれほどチャンスの場面は多くないと思うのですが、それでもしっかりシュートを枠に飛ばしていてすごいなと思います。シュートの前に必ずディフェンダーの体勢を崩す工夫も入っています。ボールの移動中にディフェンダーの視界の後ろに逃げたり、ディフェンダーの重心の逆側にボールを動かしたり。必ずやってます。こういった駆け引きが入ると、ディフェンダーは動かせても自分の体勢も崩れてしまってシュートが乱れる、というのが並のアタッカーだと思うのですが、シュートモーションまでの体の動かし方がスムーズで、そのあたりが非凡だなと感じます。ボールを受ける前の状況の把握が正確で、決断も早いんでしょう。札幌の攻撃力がすごい、と言いますけどかなりの部分、浅野選手の少ないチャンス場面でのクオリティによっていると感じます。

それから、京都の中盤はすごいなと思います。京都の振る舞いを図に描くのは簡単で、スペースを管理するなんて書いてますが、実際のピッチはものすごく広いです。攻守に中盤3人の運動量がなければ成り立たないプランですが、京都のプレーは水準に達していました。肝心な場面のもう一歩のクオリティ、と言えるところまで持ってきているのがすごいです。おわり。

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