【ラグビー/NTTリーグワン】45年ぶんの情念が、オレンジの歓喜に昇華。 その瞬間、悔し涙の上にうれし涙が加わった<埼玉WK vs S東京ベイ>

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 立川選手 【©JRLO】

【©JRLO】

マッチエピソード&記者会見レポート
埼玉WK 15-17 S東京ベイ

善戦するために、ここに来たのではない――。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)のキャプテン、立川理道がその胸中を具体的な言葉で表現したのは、決戦前日の会見のことだ。報道陣の質問に答える形で、静かな口調でこう語った。

「これまでのOBの方々の悔しい思いも背負って、明日はしっかりとプレーしたい」

チームをけん引してきた男の決意が読み取れる台詞。覚悟がなければ、口にできない言葉である。

その前身は、1978年に発足したクボタ東京本社の有志によるラグビー同好会。全国大会出場に至るまでに19年、日本選手権出場までには23年もの時間を要した。

ジャパンラグビー トップリーグでは優勝争いに指先が触れることもなく、2010年のシーズンは1勝1分11敗で下部リーグに降格。長く続いた苦難の道のり。悔し涙の歴史の上に、S東京ベイは成り立っている。

チームにとって初めての決勝戦、そして、初めての国立競技場。41,794人の観衆が見つめる中、S東京ベイは前半をリードして折り返す。だが、リーグワン初代チャンピオン・埼玉パナソニックワイルドナイツは後半になり逆転。ここから“王者の時間”が始まるものかと思われた。

しかし、あらためて言う。善戦するために、ここに来たのではない――。勝敗を分けたのは、後半29分に立川が放ったキックパス。歴史のバトンを受け取るがごとく、ルーキーの木田晴斗がキャッチ。劇的なトライを決め、結果的にこの5点が優勝を決定づけた。

チームが紡いできた反骨のストーリー。木田は高校時代、花園未経験の雑草系アスリート。また、残り時間1分、絶対に負けられないスクラムの最前列には、所属していた宗像サニックスブルースが活動休止となり、一時は引退を考えた加藤一希の姿があった。

それはまさに、はい上がってきた男たちの魂の逆襲劇。夢ではない。チームに関わってきたすべての人たちでつかみ取った、本当の頂点。その瞬間、創部以来、45年ぶんの情念は、オレンジ色の歓喜の声とうれし涙に昇華した。

報われない努力は、確かに存在する。それでも、最初の一歩を踏み出さなければ、階段は昇れない。そこでは階段全体を見上げる必要はない。重要なのは、その一歩を確実に踏み出すこと。そして、仲間を頼るのは、決して弱さではない。ときに暗いニュースの激流に溺れそうになるいま、S東京ベイは「ラグビー」をとおして大切な“何か”を示してくれた。

「あれはハルさん(立川)のトライでした。僕としては、ただ単にボールを持っていただけ。ああいった形で結果に結びついたのは良かったですが、もっと自分の力を出せるよう、来季も成長していきたいです」(木田)

優勝直後に早くも来季について語る木田のコメントに、S東京ベイの未来が見える。ここからチームの新たなチャプターが、幕を開ける。また会おう、この場所で。今日のこの感動が、偶然ではなく必然だったことを証明するために。

(藤本かずまさ)

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クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ

「コンニチワ!スペシャルな感情が湧いています。クボタという会社が時間を掛けてサポートしてくれて、また選手たちも家族を犠牲にすることがある中で、7年間やってきたことがここで達成できました。パフォーマンスに関しても、自分たちが80分間コントロールできました。先週の準決勝で得た学びを、しっかりと実践できていました。アグレッシブな部分をきっちりと80分間とおしてできたことはハードワークの賜物であり、それが結果につながったと思います。とてもハッピーです」

――先週のゲームから学んだことと、今週のこの試合に生きたことは?
「先週の準決勝では相手チームにレッドカードが出たところで、私たちに勢いのようなものはもちろん、あったのですが、コントロールの部分で自分たちのラグビーをしていなかったところが大きな反省点でした。あとは、ベーシックなことがどれだけきっちりできるのか。そうした修正をするのに重要なのは、メンタルの部分になります。今日は、そういったところをリーダーや選手たちがよくやってくれました。メッセージの伝え方も良かったと思います。キックゲームに関しても、今日は効果的に蹴れていたと思います」

――クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に来てから頂点に立つまでは、想像していたよりも早く到達できたのか、それとも時間が掛かったという印象か?
「まずは今季、優勝できたことに感謝したいです。いままで決勝には出られなかったですが、成長し続けてきたことが大事だと思っています。そこについては、私は全員を信頼していましたし、また全員に信念があったからこそ、今日こうやって優勝できたと思います。どれだけ時間が掛かったかは、あまり気にしていません。これまで積み上げてきたものが優勝につながったと思っています」

――プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた立川理道キャプテンの、選手としての評価は?
「彼とは長きに渡って一緒にやってきました。2015年、私がラグビーワールドカップでフィジー代表のコーチを務めていたとき、日本が南アフリカに勝ったことが私は信じられませんでした。しかし、実際に再放送でその映像を見たら本当にトライを取っていて、選手たちはその勝利を称え合っていました。後日、そのシーンの写真を見たら、抱き合って称え合う選手の一番上にいたのが立川選手でした。そして私がS東京ベイに入って立川選手と面談した際、あの写真に写っていた選手が立川選手だったと認識できました。彼の強みは、リーダーとしてメッセージを冷静に選手に伝えられるところです。今日の試合でも、そういった部分が求められた局面で、彼はしっかりと実践してくれました。それが勝利につながったと思っています。実際に試合が始まったら、コーチ陣は判断をグラウンドの選手たちに委ねることになります。そういったプロセスの部分を、今日は彼がしっかりとやってくれました」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 立川選手 【©JRLO】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン

「本当にうれしく思いますし、今季を締めくくる素晴らしいファイナルになったと思います。これももちろんクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)がやろうとしてきたラグビーができたのもありましたし、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)さんの時間帯もありましたし、ファンの人もレフリーもそうですし、すごくレベルの高い、いい試合ができたと思います。その中で勝ち切れたことは、本当にうれしく思います。会社の人たちのサポートも含め、根強くやってきてくれたからこそ、こうやって結果が出たと思っています。苦しい時代を知っているOBの人たちからもたくさんメッセージを頂いて、それも力になりました。『オレンジアーミー』の方々も本当に最後までずっと応援してくれて、それが力になって、最後勝ち切れたと思っています」

――今日はディフェンス面がすごく良かったが、その要因は?
「一人ひとりのタックルの精度も良かったと思いますし、正しいエリアでラグビーができていたからこそ、相手に少しずつプレッシャーを掛けられたのかなと思っています。あとはやはり、フィジカルの部分でも、フォワードが頑張って簡単にゲインラインを取られなかったのが、バックスも簡単にディフェンスできることにつながりました。フォワードの頑張りがすごく貢献しました」

――後半の木田晴斗選手のトライ直前の場面では、スペースが見えたからキックを選択したのでしょうか?
「(ボールを)キャッチした瞬間は、誰かにパスをするか、自分でキャリーをするかという判断だったのですが、横を見たときに木田が手を上げていたので、そこでいい判断ができたと思います」

―― 今日の埼玉WKにはミスが多かったが、ディフェンスや接点でプレッシャーを掛けることができているという感触はあったのでしょうか?
「相手のキックに関してはプレッシャーを掛けられていたと思っています。埼玉WKさんはラストパスを何本かミスをしたのですが、そこは自分たちのコントロール外というか、なぜミスしたのかは分からないのですが、僕らにとってそれはすごくラッキーなことだったと思います。一度は逆転されましたが、ゲーム中は常にリードを保てていたということは、プレッシャーを掛けられていたのかなと思っています」

――逆転されたときにチーム内でのコミュニケーションはあったのでしょうか?
「時間はあるというところと、ここで無理をして戦術を変えると逆に相手の思うツボになるところがあったので、あの時間帯でもキックを蹴って、それが結果的にうまく根塚(洸雅)と(ファウルア・)マキシがコンテスト(競り合い)してくれて、マイボールになってから、そこから木田のトライが生まれたので、ああいうところも無理して攻めるのではなくて、点差ではなく時間をしっかりと見ながらうまくゲームコントロールができたと思います」

――トップイーストでデビューしたときから こういった日が来るということをイメージできていましたか?
「まずはトップリーグに上がることが目標だったので、そこまでイメージはできていませんでした。でも、本当に近年は、プレーオフを戦いながら手ごたえを感じていました。勝ち切れない部分の原因にも毎シーズン、毎シーズン取り組んできて、ここ2シーズンくらいですがプレーオフで3位になり、そうした経験がセミファイナル、ファイナルで生きたと思っています。(フラン・ルディケ)ヘッドコーチが来てすぐのころも結果が出なかったのですが、積み上げてきたものがあったと思います。そういったものが形になったと思っています」

――トロフィーを掲げたときの心境は?
「今まで日本一を経験したことがなくて、どちらかというとトロフィーを掲げるのを見ていた側でした。だから、ものすごく感慨深いと言いますか。ただ、もちろん勝者もいますし、敗者もいます。そういったところでリスペクトは必要だと思っていますし、今日の試合を作り上げたのは(自分たちだけではなく)両チームだと思っています。そういうところにも敬意を表しながら、喜びたいと思います」

――これまで厳しいシーズンもあったが、ここまで頑張れた理由は何でしょうか?
「根本は、ラグビーが好きだからだと思います。あとは、このS東京ベイが好きだから。S東京ベイの人が好きで、チームが好きだから最後まで戦い続けたいと思いましたし、このチームで日本一(リーグワン優勝)を目指したいと思っていました」

――これまでのキャリアを考えた上で、今日はどのような1日になりましたか?
「恩返しできた1日なのかなと思います。トップイーストにいるときからの、会社の方々はトップレベルと変わらないサポートをしてくれました。選手たちも、少しでも順位を上げようと一生懸命取り組んでいました。そういう選手たちの思いを背負って、今日はピッチに立ったと思うので、優勝できて恩返しできたかなと思います」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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