B2優勝クラブ分析「仙台89ERS」

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Bリーグマネジメントカップ2019以来、B2部門3連覇を遂げてきた仙台は、今期も見事なBM面の成績を収め、BMC4連覇を達成しました。そして、FM面でもレギュラーシーズンを全体の3位で終えると、プレーオフで同2位の香川を下し、悲願のB1復帰を達成しました。今回の仙台の優勝クラブ分析においては、仙台の壮大でありつつも緻密なBM戦略について、代表取締役社長の志村雄彦氏にお話を伺ったうえで、デロイト トーマツ グループ独自の目線で分析を行いました。

奏功した中長期目線のBM戦略

今期の仙台は、入場料収入が前年比+27百万円、スポンサー収入同+63百万円、物販収入同+12百万円と、大幅な収入増加を記録しました。この背景には、政府の新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針によるイベントの開催制限が段階的に緩和され、特に2022年3月17日に人数制限が廃止されて100パーセントの収容が認められるようになったことが大きく影響していると考えられます。

仙台にとっては、シーズン終盤、プレーオフへの進出争いで大いに盛り上がっている最中で緩和がなされたことになり、B1昇格に向けて取り組んできたチーム強化施策を、見事にBM面での成果につなげることができたといえます。実際に、本拠地ゼビオアリーナ仙台での入場者数は、3月までの1試合平均が約1,700人だったのに対し (上記イベントの開催制限に伴う入場制限の影響も含む) 、プレーオフ進出決定前最後のレギュラーシーズンホームゲームとなった4月17日の福島戦では約3,300人を記録しています。また、その後プレーオフ3試合をゼビオアリーナ仙台で開催する権利を得られたことで、その分の入場料収入やスポンサー収入がさらに上乗せされる結果となりました。

では、仙台では今期の成果を上げるためにどのようなBM戦略を立ててきたのでしょうか。この点、志村社長は「基本的に今期に限ったものは無く、来期B1に昇格してその後2026年シーズンの新B1入りを目指すための戦略を立てて、実行してきました」と述べています。あくまでも今期は中長期の戦略の中のステップの1つという位置付けだったということです。

まず、従前はコアファンのロイヤリティを高めることに重点的に施策を打っていましたが、今期からはライト層の獲得へと重心を移しました。これは、新B1の高い入場者数基準 (4,000人) を目指すためには、既存ファンの集客だけでは足りないとの問題意識が背景にあったそうです。昨年のBMCでも記載した宮城県内でのホームタウン活動の芽が徐々に出てきてクラブが地元に浸透しつつあるため、ファンベースを拡大しやすい状況が生まれてきています。この機を確実に捉えるため、過去の来場者に再びアリーナへと足を運んでもらう「掘り起こし」に重点的に取り組んでいることに加え、デジタルマーケティングの精度を向上させるためにチケットを極力電子チケットにして顧客の購買データを精緻に取得可能な体制を整えるなど、着々と布石を敷いています。

さて、先述の通り新B1入りへのステップとして行ってきたこの取り組みですが、B1再昇格初年の2022年シーズンに早速効果が現れています。ゼビオアリーナ仙台での試合には、3,000人を超える観客が集まるのが日常的となり、4,000人に至るケースも現れ始めています。新B1の入会基準は、①平均4,000人以上の入場者数、②売上高12億円以上、③新B1基準のアリーナ年間109日確保です。①②についての仙台の実績は、コロナ禍の影響が及ぶ前の2018年シーズンを見ても、それぞれ2,567人と4.3億円であり、基準達成は容易ではないと言わざるを得ない状況でした。ところが、2021年シーズンの実績と、B1再昇格後の2022年シーズンの入場者数の増加を踏まえると、実現も射程圏に入ってきているといえるかもしれません。志村社長は「B1再昇格は、仙台89ERSに携わるファンや地域の人々、そしてスポンサーの皆さまの思いがチームに乗り移ったことで達成されたものです。今後は、何としてでもB1を戦い抜いて2026年シーズンからの新B1入会を達成し、皆さまとともにさらに高いところからの光景を見に行きたい」と熱く語っています。

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地域密着No.1を目指して

109万人の人口を擁する東北地方唯一の政令指定都市である仙台市には、多くのエンターテインメント企業が集積し、スポーツも例外ではありません。プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスと、Jリーグ・ベガルタ仙台という人気クラブが確固たる地位を確立しているため、後発のBクラブにとっては必ずしも簡単なマーケットとはいえないでしょう。では、仙台89ERSは彼らと差別化し、どのような立ち位置を目指しているのでしょうか。

この点について、志村社長は、「ホームタウンの人々にとって顔の見える存在になり、地域密着ではNo.1の存在となることが目標」と述べています。そのために地域貢献活動NINERS HOOPは欠かせません。2020年シーズンには、コロナ禍のためホームアリーナでの開催試合数制限 (B2は60%) が緩和され、なおかつ東日本大震災より10年の節目のシーズンだったこともあってクラブを支えてきてくれた地域の方々に感謝を伝えるために、本拠地ゼビオアリーナ仙台を出て宮城県内各地で試合を行う、いわば「出張試合」を、NINERS HOOPの目玉として行いました。この効果について、志村社長は次のように述べています。「出張試合をはじめとした各地での地域貢献活動やSDGsへの取り組みなども経て、徐々に仙台89ERSの浸透度が上がってきたと感じています。B1再昇格を果たした今、今度は皆さまにゼビオアリーナ仙台に来て楽しんでいただくフェーズと捉えています。そのための取り組みの1つとして、各地の子どもたちをゼビオアリーナ仙台に招待しています。」

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Bリーグクラブにしかできないこと

志村社長は、Bリーグの試合を「まち vs. まちの戦い」と表現します。全国各地が交通機関で高度につながり、オンラインでは国内はおろか世界中ともリアルタイムでつながることができる時代、我々は普段の生活でまちのアイデンティティを意識することはあまりありません。ところが、Bリーグの試合では、否応なしに自分のまちを意識させられます。アリーナでは、クラブ名に冠された街の名を叫んで応援することになるからです。志村社長はこの点に大きな可能性を感じているそうで、「ホームゲームでは、とにかく仙台のまちを前面に出すようにしています。それによって、地元のアイデンティティを感じ、地元を誇らしく思ってもらえればと考えています。」と述べています。

この方向が間違いないと実感したのは、2023年最初の試合・元旦のホームゲームだったと言います。元旦というレアな日程に行われたこの試合は、通常は見ることのできない観客層 (就職や進学で地元を離れたと見られる人々)が大勢観戦に訪れたそうです。彼らは、遠く離れた場所から地元に帰省するにあたり、愛着ある仙台を感じられ、仙台の家族や仲間たちと一緒に楽しむことのできる、仙台ならではのコンテンツを求めていたのではないでしょうか。

「正月はお節・初詣・夜の宴会を除けば、することはそれほど多くありません。そのため人々は意外と退屈を感じているのではないでしょうか。箱根駅伝、サッカーの天皇杯、高校サッカーなど、スポーツコンテンツに溢れているようにも思えますが、実は大半が東京 (首都圏) で行われており、地方では行われていません。Jリーグもプロ野球もリーグ戦はオフシーズンなので、仙台でのスポーツ興行は仙台89ERSにしかできない。だからこそ私は可能性を感じるのです。」志村社長は語ります。今後は、「正月といえば仙台89ERS」と地域の人々が地元への愛着と誇りを感じられる恒例行事に昇華させることを狙っているそうです。志村社長の目線は、スポーツにできること、地方クラブにこそできること、そしてBリーグクラブにしかできないことにフォーカスしています。仙台以外の多くの地方クラブにとっても、示唆に富んでいるのではないでしょうか。
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著者プロフィール

デロイト トーマツ グループは、財務会計、戦略、マーケティング、業務改革など、あらゆる分野のプロフェッショナルを擁し、スポーツビジネス領域におけるグローバルでの豊富な知見を活かしながら、全面的に事業支援を行う体制を整えています。またコンサルティング事業の他、国内外のスポーツ関連メディアへの記事寄稿などを通し、スポーツ業界全体への貢献も積極的に行っています。

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