【2022 SEASON REVIEW】#003 ー 劇的な昇格決定、クラブ6年目は新たなステージへ
間もなくスタートする新シーズン。神奈川県リーグ1部という新たなステージでの挑戦が始まる創設6年目の開幕を前に、劇的な昇格を果たした昨シーズンの戦いを振り返る。
(文・本多辰成/スポーツライター)
悲願の県リーグ1部昇格へ、4度目の挑戦
勝ったチームは神奈川県リーグ1部への昇格が決まる2部優勝決定戦。最終節までもつれ込んだ僅差の争いを制してブロックAの首位となった鎌倉インテルは、もう一方のブロックBを制したエブリサ藤沢ユナイテッドと一発勝負の「優勝決定戦」を戦うことになった。
ブロックAは最終節まで3チームによる激しい首位争いが続き、最後は得失点の差で鎌倉インテルが辛くも2部優勝決定戦への出場権を獲得。対するエブリサ藤沢ユナイテッドは、15試合で84得点11失点という圧倒的な得点力を武器に14勝1敗の戦績でブロックBを制していた。
鎌倉インテルを率いて2シーズン目の河内一馬監督は「エブリサはすごく強いチームという印象を持っていた」と警戒しながらも、運命の決戦へ向けてチームのムードはよかったと振り返る。
「ブロック優勝を決めて優勝決定戦までの2週間ほどは自然と練習にも熱が入りましたし、あと1つでチームとして1年間求め続けてきたものが手に入るという意識は当然ありました。それに対してビクビクするというよりはワクワクしているようなチームの雰囲気だったと思いますし、僕自身も早く試合が始まってほしいというような気持ちでした」
クラブ創設1年目に県リーグ3部から2部への昇格に成功したものの、その後は3シーズン続けて1部への昇格を果たすことができず。コロナ禍もあってイレギュラーなかたちでのリーグ戦開催が続くなか、チームは県リーグ2部で足踏みを続けてきた。
そんななかで2021年シーズン途中には待望のホームグラウンド「みんなの鳩サブレースタジアム」が完成するなど、クラブとしてはさまざまな面で進化を遂げて迎えた昨季。クラブ創設5年目のシーズンは、4度目の挑戦となる県リーグ1部昇格という目標へ向けて苦しみながらも歩を進めていった。
開幕ダッシュに成功も、ブロック優勝争いは三つ巴の争いに
ホームグラウンド「鳩スタ」の完成によって練習環境が整い、トップチームは前年まで週3日だった練習日を週5日に変更して練習量を大幅に増加。さらに、2020年まで3シーズンに渡ってJ3で活躍したMF小谷光毅を筆頭に有力選手たちが次々と加入し、昇格へ向けて着々と準備が整えられたなかでの好発進だった。
しかし、そのまま勝ち点を失うことなく突き進めるほど神奈川の戦いは甘くなかった。開幕5連勝を飾ったあと、第6節の南FC戦では0対0のスコアレスドローで開幕からの連勝がストップ。開幕から6戦で5勝1分けの戦績は十分に好成績と言えるものだが、16チームによるブロックリーグで首位となることが昇格への必須条件であるため、取りこぼしの許されない厳しい状況が最後まで続くこととなった。
7月に入ると新型コロナウイルスの第7波の影響で試合は延期となり、約2カ月間に渡ってリーグ戦が中断。その間にチームは上位カテゴリーに属する強豪とのトレーニングマッチをこなしてチーム力強化をはかったが、9月のリーグ戦再開後も厳しい戦いは続いた。リーグ戦再開後の初戦はその時点で暫定2位だった横須賀マリンFCを1対0、FC ASAHIを逆転で3対2と下したものの、続くホームでの六浦FC戦は3対4で落として痛い初黒星を喫した。
ホーム「鳩スタ」でのリーグ戦初黒星となった六浦FC戦の敗戦で、昇格への道はより険しいものとなっていく。ブロックリーグ全15試合中、11試合を消化した段階で9勝1分1敗の勝点28(得失点差+23)で暫定首位には立っていたが、同2位には試合消化数が1試合少ない状況で同勝点(得失点差+22)のFCSC、さらに鎌倉インテルと同じ11試合の消化で勝点26(得失点差+15)の六浦FCも続く混戦模様。ブロックAの優勝の行方は3チームによる三つ巴の争いで終盤戦に突入した。
苦境を乗り越え、最終戦はベストゲームでブロック優勝
その時点で相手よりも消化数が1試合多い状況で、勝点はともに28。鎌倉インテルとしてはなんとしても勝点3が必要な一戦だったが、結果は1対1のドローで自力でのブロック優勝の目が消滅してしまう。残り3試合を全勝したとしても、昇格への絶対条件であるブロック優勝の行方はライバルチームの結果次第という窮地に追い込まれた。
さらに、FCSC戦では攻守の要であるMF小谷が負傷で途中退場。同じく小谷とともにダブルボランチとして君臨してきたMF内藤洋平も負傷で戦線を離れており、ひとつも勝点を落とすことのできない重要な局面で、チームを支えてきた中盤の絶対的な存在を欠くという苦しい事態となった。
しかし、そんな状況下でも河内監督は不思議と昇格へ向けて自信のようなものを感じていたと言う。
「勝たなければいけなかったFCSC戦が引き分けに終わって、試合直後は落胆があったんですが、10分、15分と経って冷静になると不思議と『これはもしかしたら昇格できるかもしれない』と思えてきました。その試合でも選手たちのパフォーマンスはよくてすごく逞しく見えましたし、自力優勝がなくなりはしましたが必ずチャンスは来るだろうと。小谷選手、内藤選手の2人を欠いたのも、新しい可能性を広げられるとポジティブに捉えていました」
実際、チームは小谷、内藤のダブルボランチが欠場した次戦のFC AIVANCE横須賀シティ戦を苦しみながらも2対1で勝利すると、続くFCコラソン・プリンシパル戦も3対1で勝利。その間に首位に立つFCSCが勝ち点を落とし、再び2部優勝決定戦進出の可能性が現実味を帯びてきた。しかし、もうひとつのライバルであった六浦FCが得失点差を大幅にプラスして首位に浮上。鎌倉インテルがブロックAを制すためには、最終節のパジャッソ戦で3点差以上での勝利が求められる展開となった。
普通に考えれば決して簡単ではない条件ではあったが、ブロックリーグ最終戦を前に河内監督は「そこでシーズンが終わることは全くイメージできなかった」と確信に近い自信があったという。その言葉の通りに、試合は今季最高の出来と言ってもいい内容で5対0の快勝。小谷、内藤の両選手もスタメンに復帰し、シーズンの集大成とも言える見事なゲームでブロック優勝を決めた。
劇的な昇格決定、クラブ6年目は新たなステージへ
「エブリサの試合は何試合か見ていて、すごく強いチームで勝つのは簡単ではないという印象を持っていたんですが、最後に見たONODERA FC戦はそれまでの試合とは印象が違いました。ONODERA FCはそれまで見た試合の対戦相手とは違ってボールを保持する戦い方をしていて、そういう相手に対しては弱みも見えた。結果的にはエブリサが3対0で勝ったんですが、その試合を見たことで『これは行けるかもしれない』と感じました」
試合は11分に相手フリーキックの流れからミドルシュートを決められ、序盤で先制点を与えてしまう。しかし、その後は鎌倉インテルが落ち着いてボールを保持して攻める時間帯が増え、後半に入ると完全にゲームを支配する展開となる。そして50分にMF芹澤徹郎のミドルシュートで同点に追いつくと、69分には相手選手がレフェリーへの異議により2枚目のイエローカードで退場。その3分後にはコーナーキックからDF北村万宙が強烈なヘディングシュートを決めて逆転し、それが決勝点となった。
チームは2部優勝決定戦進出が決まってからは練習時に必ずPK戦の練習も行うなど、ギリギリの勝負に備えて入念な準備を行ってきた。クラブとして求め続けてきた昇格への執念が結実し、鎌倉インテルは一発勝負の「優勝決定戦」を制して最高の形でシーズンを締めくくることに成功した。
ブロックリーグ最終戦ではホームの「鳩スタ」に過去最高となる400人を超えるサポーターが集結し、2部優勝決定戦でも12月の冷え込む夜にもかかわらず多く人々が昇格の瞬間を見届けた。劇的な昇格で幕を閉じた2022年シーズンは、クラブが追い求めてきたものがひとつの形となった手応えを感じられたシーズンでもあったと河内監督は振り返る。
「自分たちがアイデンティティとしている『CLUB WITHOUT BORDERS』を体現したスタジアムを90分間でひとつにするサッカー。選手、スタッフ、フロント、そして会場にいる全ての人たちが感情を共有するためのサッカーというものを掲げてやってきましたが、その点に関してはある意味では実現できた1年間だったと思います。ただ、今後はステージが上がっていくにつれてまた難しくなっていく部分もあると思うので、そこは新たに毎年毎年、挑戦だと思っています」
神奈川県リーグ2部を制し、1部昇格という最高の形で終えた2022年シーズン。クラブ創設6年目を迎える新シーズンは、また新たなステージでの挑戦が幕を開ける。
開幕戦はみんなの鳩サブレースタジアムで4月2日(日)午前11時45分キックオフ!
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