昌子源が復帰戦で見せた安定感。「すべてのミスが想定内」で無失点を遂げた裏にあった、唯一の想定外だったこと。

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

「すべてが想定内」だったケガ明けのパフォーマンス

 一本のパスがズレる。落下地点を誤る。あと一歩が届かない。

 1544日ぶりに深紅のユニフォームをまとい、ピッチ上で体を張ったケガ明けの昌子源は、自身のプレーをこう振り返った。

「すべてが想定内でした。パフォーマンスでいうと、万全でないのは自分が一番分かっていた。パスミス、落下地点に入るときの遅れ、体の重そうな感じ。バックパスの処理ミスもあったけど、あれもまったく慌てていない。想定していたすべてのことが、想定通りに起きました」

 0−0。復帰戦となった3月12日のアビスパ福岡戦、100%の出来から足りない自分を想定し、そのなかで対応し切ることで無失点に抑えた。

「これまで(植田)直通と(関川)郁万のコンビでやってきて、2人の出来が悪いから出場したわけではない。川崎F戦で終了間際に失点して大きなショックを受けながらも、次の横浜FC戦で崩れることなく、ダメ押しの3点目を取って勝ち切った。チームとしても上向きのなか、俺自身が出場したときにどれだけの違いを見せなければいけないのか。それは強く感じていました」

 強く意識していたのは、流れのなかから失点しないことだった。なぜなら今シーズン、福岡戦までの鹿島は流れのなかから失点がなかったから。すべて、セットプレーとPKによるものだ。

「そこはものすごく意識していました。昌子が入ったから崩れた、とは絶対に言わせたくなかった。そのなかで無失点で終えられたのは、勝てはしなかったのでベストな結果ではなかったけれど、ポジティブな面もありました」

 一つ、想定外のことがあった。2018シーズン以来、約5年ぶりにセンターバックのコンビを組んだ植田とのコンビネーションだ。

「鹿島を離れてから、お互いにいろいろな選手とコンビを組んで、いろいろな経験をしてきた。なんとなく、あのときの昌子・植田コンビはすべて分かり合っていいものだったけれど、“いろんなものが変わっているんやろうなあ”となんとなく思っていたんです」

 日本代表でプレーする機会もなかった。今年に入って同じチームになってからも、昌子はケガ明けも控え組でプレー。「(福岡戦まで)練習でも一緒にプレーしたのは10分くらい。ほぼぶっつけ本番」で臨んだ。

【©KASHIMA ANTLERS】

想定外だった植田直通とのコンビネーション

「どうなるかと思っていたところもあったけど、実際にプレーしたらまあ、昔のまんまやったね(笑)。めちゃくちゃ細かい話やねんけど……。」

 昌子のなかで「2人の関係で分かり合った瞬間があった」という。

「俺がマークしていたルキアン選手が裏に抜けた場面で、直通がカバーしてクリアして、それがまたルキアン選手に当たってGKのハヤ(早川選手)がキャッチしてマイボールにした場面があったんです。あれぞ、まさしく俺と直通のコンビやなと思いました」

 昌子がマークしていたルキアンがDFラインの裏に抜けていった。すると、相手も裏にパスを通してきた。

「普通にあの場面を見たら、ルキアン選手のマークを俺が離してしまった、サボってラインを下げなかったところを直通がカバーしたように見えるんです。でもね……」

 側から見えるセオリーの守り方ではない、2人だけのものがあった。

「あの場面、まったく喋ることなく昔にやっていた2人の守り方ができていたんです。相手が1トップのときによくやっていたのですが、完全に前と後で別れて対応する。相手のパスが前やったら俺、俺の背後に出たら直通。逆もしかりで、直通が前に出た場面があれば、そのときは俺が後ろを対応する。それを、ようやっていたんですよ。前に立った選手は後ろのことは何も考えなくていい。ルキアン選手が俺の後ろを取りにきたら、セオリーとしてはそのまま俺が後ろに下がるんです。でも、ルキアン選手が背後を狙った動きをしたのが分かったから、あえて動かなかったんです。“ナオ、後ろいったで〜”という感覚でした。俺のなかであの場面は、相手がボールを出す前からチェックメイトだったんです。どうなってもマイボールになると思っていた」

 ルキアンがDFラインの裏に走り込んだ。ボールが届いた先では、迷いなく動き出していた植田が先にボールへさわりクリアした。この変わらぬ感覚を思い出し、手応えを感じながらも、すぐ次に出た言葉は兜の緒を締めるものだった。

「でもね、これに関してはうまくいったけれど、まだ、ただの1試合なんです。すぐに次はくる」

 今日3月18日の対戦相手は、昨シーズン王者の横浜F・マリノスだ。

「アウェイに乗り込むということで、本当に当たり前のことですが、試合の入りはもちろん、常に戦う姿勢や球際の部分で戦えないといけない。勝負というのは、いろんなところで勝っていくことで徐々にペースを握るのか、握られるのかというものだと思います。個人のバトルや特徴で負けないようにしないと、勝つのは難しい試合になるのではないかと思います。当たり前のことなんですけどね」

 個人のパフォーマンスは「これからは上がっていくだけですから」と上を見据える。福岡戦でチームにもたらした安定感をもっと追求し、チームに還元するーー。

「僕らは間違いなくチャレンジャー」

 昨シーズン王者を相手に勝利を目指すアントラーズの中心に、深紅のユニフォームがもっとも似合う背番号3を背負って戦う、昌子がいる。

【©KASHIMA ANTLERS】

  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント