【スペシャルインタビュー】「これは、勝つための話。タイトルを獲ることに関しては、全く別の話になってくる」マチェイ スコルジャ新監督の人物像や哲学に迫る

浦和レッドダイヤモンズ
チーム・協会

【©URAWA REDS】

2023シーズンより、マチェイ スコルジャ氏が浦和レッズの新監督に就任した。31年目を迎えるJリーグの歴史で初めてポーランドからやってきた監督。母国で4度リーグ優勝を果たし、サウジアラビアのクラブチームやU-23 UAE代表の監督も務めた指揮官は、どんな人物であり、どんなサッカー哲学を持つのか。

就任会見で自身のキャラクターについて問われた新指揮官は、「自分自身のことを表現するのは難しい」と答えに窮し、「友人が私についてどう言っているか」と前置きしながら、こう答えていた。

「彼らは『プライベートとロッカールームでは真逆の人間」と言います』

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事実、過去の映像やトレーニングで見せていたのは、厳格な表情だった。だから「真逆」については、にわかには想像できなかった。長身でがっしりとした体格に加え、強面に見えることも影響しているかもしれない。

しかし、インタビューの際にマチェイ監督が見せた言動は、彼の友人に同意できるものだった。表情は豊かで、しばしば柔和でもある。

「プライベートとロッカールームで真逆の人間になることは、特に意識していたわけではありません。でも、それに気付いたときにはもう後戻りができない状態になっていました」

そう話したときもマチェイ監督は穏やかに笑っていた。

意識していたわけではないが、そうなる理由は何となく分かっている。

「私は勝つことが大好きで、常にそれを目標にしていますし、その気持ちをロッカールームでも伝染させたいと思っています。その要素があるからプライベートと現場での違いがあるのだと思います」

常に勝ちたいという情熱は、同様に選手たちにも求める。

「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の決勝だから勝ちたいのではなく、毎日のミニゲームから勝ちたいという気持ちが必要です」

マチェイ監督はヴィスワ クラクフとレフ ポズナンでそれぞれ2度ずつ、母国ポーランドのリーグを制している。

いわば、勝つことを知っている監督である。そんなマチェイ監督が「勝つために大切なことは?」と聞かれると、試合前のロッカールームに入ったかのように、表情から柔和さが消えた。そして約4分間、捲し立てるように話を続けた。

「勝つということは非常に複雑な問題です。チームによってやらなければいけないことは変わってきます。どのようなスタイルなのか、ロッカールームでどのような姿があるのか、それによって変わります。2022年のレッズの試合を見ましたが、非常に才能溢れる、技術力のある選手がたくさんいると思いますので、試合を支配するというトライはできると思っています。自分たちがボールを持っているとき、相手がボールを持っているとき、そしてその切り替えのとき、それぞれの瞬間に何をやらなければいけないのかを理解しなければいけないと思います。そのためには私も選手たちに話をしますが、選手同士、そしてコーチと選手のコミュニケーションが重要になってくると思います。理解してピッチでプレーすることが要求されます。

ただ、しっかりと各段階でチームを分析しながら取り組んでいかなければいけません。私の中でいくつかのアイデアがありますが、それがこのチームに合うのかどうか。そういうことを慎重に見極めなければいけません。たとえばトレーニングキャンプで何かをやらせて、それが効果的なのかどうかを見ていきたいと思います。もし取り組んだとしても、このチームに合わないものでしたら、柔軟に変更していきたいと思います。勝つために今このチームにとって何が必要なのかを見極めることが重要です」

ここまでで約2分。そしてマチェイ監督は「But」と挟み、こう続けた。

「ただ、これは、勝つための話です。『タイトルを獲ること』に関しては、全く別の話になってきます」

勝つことの延長線上にあるものがタイトル。あるいはタイトルを獲るためには一つひとつ勝つこと。そう話す監督や選手は数多いたが、マチェイ監督の考えはそうとは限らないようだ。

「タイトルを獲るためには安定性が必要です。難しい時期、タフな時期でどのようなリアクションを見せられるかだと思います。チャンピオンになるためにはハングリーな精神が必要ですし、常に次の試合の準備ができる状態にしておかなければいけません。たとえ結果が悪かったとしても壊れないメンタリティーを持っていなければいけません。壊れないメンタリティーというのは、ロッカールームで求められる最も重要な要素の一つだと思います。指導者として、我々はその中でアドバイスしていきますが、選手自身がどのように考えるかということが大事になってくると思います」

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ここまで話して約4分。マチェイ監督は一息つき、目線を左に移す。その先には、メモを取る羽生直行通訳がいる。そしてマチェイ監督はロッカールームからプライベートに戻ったように相好を崩した。

「大変だったら話の途中で割り込んでもいいよ」

そして通訳しながらメモを消していく羽生通訳を見ながら、「面白い」と興味を示していた。

それはロッカールームの雰囲気、そしてチーム内のコミュニケーションを重要視するマチェイ監督らしい言動と表現できるかもしれない。

では、ロッカールームの雰囲気は、監督も関与すべきだと考えているのだろうか。監督には選手と密にコミュニケーションを取るタイプもいれば、選手とは一定の距離を置くタイプもいるが、マチェイ監督はどうなのか。

「自分がリーダータイプであることは認めます。ただ、自分だけでその雰囲気をつくることはできません。そのような雰囲気づくりができる選手を見つけることも重要になってきます」

そして、その点においてマチェイ監督は始動日の時点で、好感触を得たという。就任会見では「今シーズン初の練習を行いましたが、非常に感触が良かった」と話していたが、その理由について詳しく説明してくれた。

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「トレーニングの初日で選手同士の関係が良さそうに見えたからです。もちろん数回のトレーニングで判断することは難しいですが、良いフィーリングがあります。私は選手をしっかりと納得させ、目標に向かって100パーセントで向かえるようにしたいです。そして、それを達成する力になるものは、ハードワークしかないと思っています」

目標とは何なのか。就任会見でも「野心的な目標」と話していたが、それは果たして。初めての来日は昨年の11月。それまで50年間一度も訪れたことがなかった極東の地での挑戦を決断したこと自体が、マチェイ監督の野心ではないか。

「もちろんです」

そう頷いた後、マチェイ監督は「浦和レッズにも野心があります」と続けた。

「ファーストコンタクトで『監督、優勝したいです』と言われました。一言目です。我々は目標を持っていて、優勝に向かって戦っていきたいと思っています。サッカーでは目標を必ず達成できるという約束はできませんが、非常に強いチームを作っていきたいと思っています。そのためにはたくさんの要素があります。目標に向かって戦っていけるチームをつくるために、一歩ずつ進んでいきたいと思っています」

就任する前にはレッズの試合をしっかりとチェックした。そして印象に残ったのは、ピッチ内だけではなかった。

「素晴らしいファン・サポーターの方々がいて、他のチームにはない独特な雰囲気をつくってくれていると思います。それはレッズのストロングポイントでもあると思いますし、それが選手のパフォーマンスに影響していると思います。満員のスタジアムでの応援があれば、選手たちもプラスアルファの力を発揮できると思います」

自身は満員のスタジアムや熱い応援によってモチベーションが上がるタイプなのか。そう聞くとマチェイ監督は即答した。

「もちろんです。ホームゲームでチャンスが訪れたときに素晴らしい声援がありますし、ゴールが決まったときは監督も選手も『このためにやっていたんだ』という雰囲気が出来上がります。それがベストな瞬間だと思います。その瞬間に近づくためにやらなければいけない全ての要素で頑張らなければいけないと思っています。試合でのパフォーマンスで人々を幸せにしたいと思います」

そんなファン・サポーターへ向けたメッセージをお願いした。するとマチェイ監督は「これは特別なメッセージになりますので、少し考えさせてください」と言い、口元に手を当てながら下を向き、しばし閉口した。

ただ思いついたことを並べるのではなく、しっかりとメッセージを伝えたいと考えたのだろう。それもまた、マチェイ監督の人柄が出た1シーンだった。

そしてこのメッセージはマチェイ監督がレッズの監督として初めて、ファン・サポーターの方々に向けて送ったものである。

「浦和レッズのファン・サポーターのみなさま、いつも100パーセントで応援していただき、ありがとうございます。今季はACL(AFCチャンピオンズリーグ)決勝を含む難しいシーズンになると思いますが、そのような経験ができるシーズンで目標に向かって努力していきたいです。今シーズン中に素晴らしい思い出をたくさんつくりたいと思いますので、チームのために祈ってください。ありがとうございます」

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著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

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