早大野球部 「当たり前のことを当たり前じゃない情熱で」 第113代主将の野球にかける思い/森田朝陽

チーム・協会

【早稲田スポーツ新聞会】

番記者の目
【早稲田スポーツ新聞会】記事 吉岡直哉、写真 藤田珠江、玉置梨沙子

 先月、来年度の主将として森田朝陽(社3=富山・高岡商業)の就任が発表された。指揮官に「お前の言動を見て決めているから、力を入れなくていいぞ」と言わしめた、森田の野球に対する誰よりもひたむきな姿勢、そしてその原点とは。

――突然の就任発表 「優勝」への思い
 「今は春のリーグ戦で優勝することしか考えていないです」。悲願へのまっすぐな思いを語る目には、迷いがない。同郷・同学年の記者に対し、終始柔らかな口調で話してくれた新主将だったが「優勝」の二文字を口にするときだけは、決まって引き締まった表情を見せた。

森田ならではのリーダー像

 主将への任命は、森田にとってサプライズだった。「前を向いたまま聞け。来年からキャプテンをやるぞ」。指揮官からそう告げられたのは、守備の練習中。突然の宣告に驚いたというが、少し間が空いたのち「はい」と応えた。

 新4年生は、下級生の頃からリーグ戦で活躍してきた選手がそろう代だ。しかし、森田は3年春にリーグ戦初出場、秋も代打出場がメインと、チームの主力としてプレーしてきたわけではない。それでも「とにかく誰よりも一生懸命ボールを追って、走って、投げてというところを監督さんには評価していただいた」と、主将に選ばれた理由を分析する。「口でどうこう言うタイプではない」と話す森田に目指すリーダー像を尋ねたところ、20秒ほど考えたのちにこんな答えが返ってきた。「『あいつがやってるなら俺もやってやろう』と、みんなが同じ気持ちで戦ってくれるリーダーが素晴らしいリーダーだと思っています。『誰よりも全力で、誰よりも声を出して』という自分の良さを1年間貫いていきたい」。森田に求められるのはチーム全体に優勝への強い思いを伝播させ、一つの方向に向かわせることだろう。「『まとめる』というよりも、『まとまる』というか。1人1人の意識の集結がチームを作るものだと思っています」。

ワセダへの思い

全力プレーでチームを引っ張る 【早稲田スポーツ新聞会】

 中学時代から六大学でのプレーを志していたという森田は、奇しくも早大とユニフォームが似ている地元の強豪・高岡商業に進学。高3の春までは別の大学の推薦入試を考えていたが、早大卒のプロのスカウトが高校に見に来ていたこともあり、それまでぼんやりと憧れていたワセダの門を叩くことを考え始める。実力不足を感じ、半ば諦めていた早大への進学だったが、自己推薦入試で学科を変えれば3回受験することができることを知ると、自分にもチャンスがあると受験を決めた。そうして念願の早大進学を果たすと、2月からは野球部の練習に参加。憧れの舞台でプレーすることに胸を躍らせていた森田だったが、春を迎える前に新型コロナウイルスが流行し始める。チームの練習は停止になり、自身は富山に帰ることを余儀なくされた。夏前まではソフトボール経験のある妹に手伝ってもらいながら、近所のグラウンドで個人練習を積み重ねる日々を送った。

憧れの舞台を夢見て、もがき続けた

背番号10をつけ、憧れの舞台で躍動する 【早稲田スポーツ新聞会】

 多くの人にとって失われた年となった2020年。しかし森田はこの大学1年次のシーズンを「80から90点」と高く評価する。憧れ続けてきた神宮の舞台で戦うという目標を見失わず、地道に練習に取り組み続けた森田。秋季フレッシュトーナメントでは、晴れて神宮デビューとなった法大戦で決勝の2点本塁打を放つなど、成果が現れ始めていたのだった。確かな手応えを得た1年を終え、迎えた2年生のシーズン。番記者の私はリーグ戦デビューを期待せずにはいられなかった。しかし、終わってみればリーグ戦出場の機会が訪れることはなく、森田にとっては「0点に近い」ものだったという。埼玉西武ライオンズに入団した蛭間拓哉(スポ4=埼玉・浦和学院)を筆頭に、福本翔(令4社卒)や鈴木萌斗(令4スポ卒=現明治安田生命)など経験豊富な上級生ががっちりと固める外野陣。さらに同期の野村健太(スポ3=山梨学院)や一つ下の吉納翼(スポ2=愛知・東邦)が先にリーグ戦出場を果たすなか、森田は「実力不足を感じる、悔しい、苦しいシーズン」を送った。だからこそ、もっと努力して認められようという思いがわき上がった。

チームを勝たせるという自覚

充実のラストイヤーへ 【早稲田スポーツ新聞会】

 2年秋のリーグ戦後、7カ月で8キロの増量をした森田。「スイングのキレが上がり、足も速く」なったという実感を持って今シーズンを迎えた。春にリーグ戦初出場を果たすと、その後はスタメンに名を連ねる試合もあり、打線に欠かすことができない存在に。秋も代打の切り札として、勝負を左右する場面で起用され続けた。「去年の秋の早慶戦、個人的にとてもお世話になった小野さん(小野元気、令4人卒)が最後のバッターで。あの場面で打つということを1年間、毎晩想像していました。小野さんのためにも、自分のためにも、チームのためにもという思いで、この1年間は考えていました」。チームが優勝すること、ただそれだけを考えている。だからこそ、今秋明大1回戦の7回裏、1点ビハインドで迎えた好機で凡退したことが何よりも悔しかった。「1本出ていれば、点が入って勝っていた、優勝できていたかもしれない。来年になんとかつなげて、絶対やり返してやろう、見返してやろうという気持ちです」。

野球ができる日常への感謝

チームをプレーで引っ張る 【早稲田スポーツ新聞会】

 「上位を打って、活躍してチームが優勝すること。チームが優勝すればなんでもいい」。4年生が最後に残した必死な姿、食らいつく姿勢をつないでいくという森田。これほどまでに野球に対して熱い思いを持つのは、高校生の時の大ケガがきっかけだった。高校1年の冬、手首の骨折と足首の靱帯のケガで約5カ月の間練習することができなかった。入院中、恩師の吉田真監督から読むように言われた本の中に「当たり前のことを当たり前じゃない情熱で」という言葉があった。それまで当たり前だった毎日の練習や日常が奪われた森田は「野球をやれているだけでありがたいんだな」と思い直したという。それ以来「いろんな方と素晴らしいところで野球ができていることに感謝して」、誰よりもひたむきに野球に取り組んできた。高校時代の恩師から受け取った本の言葉は、今でも森田を支えている。

「優勝することしか考えていない」

早大を日本一に導けるか 【早稲田スポーツ新聞会】

 タレント揃いの新チームの強みは新4年生を中心に元気が良く、前向きなところだ。副主将になり支え合っていくこととなる熊田任洋(スポ3=愛知・東邦)とは、プライベートでも仲が良い。「熊田のことは頼りにしています。技術的にも精神的にもチームの柱というか、チームを引っ張ってくれている男」と、全幅の信頼を寄せる。チームの目標は、日本一。「今は春のリーグ戦で優勝することしか考えていないです」。野球ができる喜びを噛みしめながら、新たな早大野球部のリーダーは目指す高みへと歩を進め始めた。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント