マイナビ仙台コラム vol.3 「課題を突きつけられた大敗。そこから力強く這い上がりつかんだ“逆転勝利”」

マイナビ仙台レディース
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【提供:マイナビ仙台】

「内容が伴わない勝利の“ツケ”。ギリギリの3連勝から0‐4の大敗」

 YogiboWEリーグ第4節、マイナビ仙台レディース(マイナビ仙台)はホーム・ユアテックスタジアム仙台に大宮アルディージャVENTUS(大宮V)を迎えた。開幕から3連勝を飾っていたマイナビ仙台。このゲームは11月の代表ウィーク(なでしこジャパンはイギリス、スペインとの国際親善試合を実施)による2週間の中断を経たリーグ再開の一戦で、“開幕4連勝”のかかった試合だった。

 しかし試合開始9分、マイナビ仙台に思わぬアクシデントが発生する。開幕からボランチの一角として先発出場を続けていたMF隅田凜が負傷交代。これを受けて松田岳夫監督は、急遽、同ポジションにMF西野朱音を投入した。「アクシデントがあった辺りから、リズムが狂った印象はある」(松田監督)と言う通り、交代直後にゲームが思わぬ方向に動く。前半13分に左サイドで高い位置を取った大宮Vの鮫島彩が裏にボールを出すと、これを受けた井上綾香が丁寧につなぎ、高橋美夕紀がゴール前に走りこんで先制点を決めた。更に前半17分には井上綾香の中央突破を許し、GKとの1対1を冷静に沈められ追加点。悪い流れは止まらず、前半終了間際には五嶋京香にもゴールを決められ、前半だけで3失点を喫した。
 後半開始には何とかリズムを取り戻そうと、ボランチ西野とCB市瀬菜々、またDFラインでも配置替えを行った。守備は安定したかに見えたが、後半21分にダメ押しの4点目を高橋に奪われ万事休す。マイナビ仙台は4失点、更に無得点と見せ場なく試合を終えた。

 「1対1で優位に立てない。予測ができず動き出しが遅くなった。相手のプレッシャーに押され、前に進めなかった。課題は多くあった」(松田監督)と、これまでの試合でも見られた課題がこの日は際立った。

松田監督が問題視したのは「ノーゴールで試合を終えた」という事実だった。「4失点受けたこともそうだが、1点も取れなかったこと。多くの方に見に来ていただいたのに、勝利やゴールするところを見せられなかった。そこが一番悔やまれるところ。勝利するために何をするべきなのか。選手、スタッフ共に考えながら次の1週間修正していきたい」と巻き返しを誓った。


※高橋美夕紀選手の「高」ははしご高が正式表記。

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「力を出せないのではない。我々はまだ持っていない」

 翌週のマイナビ仙台泉パークタウンサッカー場で、選手たちは厳しく練習に向き合った。松田監督が選手にかける言葉も、また厳しかった。「力不足ですよ。他のチームも一生懸命やってくる。それを打開するための力や武器をまだ持っていない。それを理解したら、足りないところを高めていくだけ。すぐには身についていかないけれど、『何かがおかしい』『上手くいかない』ではなくて、『自分たちはまだ。持っていない』と割り切ることができたら、やるべきことは変わってくると思います」。

 成功への近道などない。練習場で選手たちにも直接語り掛けた。「力を出せないのではない。我々はまだ持っていないんだよ」。現実と向き合わせる。それは苦しいことだが、避けては通れない道だった。「自分を理解することはとても大事。できるつもりになって、イメージだけを持っていると、高いレベルでものを考えてしまう。でもそんなレベルじゃなかったりする。そういうこともたくさんある。『自分はできないから、こうしたい』という思いを持っていた方が良い」(松田監督)

 次の試合までの短い期間で松田監督がフォーカスしたのは、課題を分析した上での「ボールの動かし方」だった。「良いポジションを取っているのにボールが入らないという状況が多々あった。その選手を生かすために、それぞれの基準や今まで持ってるものを取り払いながら、よりチャレンジし、リスクを犯すということも含めたイメージを持たせた」。自分たちにできることを整理し、頭をクリアにして、ノジマステラ神奈川相模原戦へと向かった。

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「途中出場の選手が躍動。今季2度目の“逆転勝利”」

 そして迎えた第5節ノジマステラ神奈川相模原戦はアウェーでの一戦。この試合では後藤三知、茨木美都葉が先発。開幕から先発出場を続けていたスラジャナ・ブラトヴィッチ、船木里奈はベンチスタートとなった。

互いにチャンスを作りながら前半をスコアレスで折り返すと、ゲームは後半に動いた。後半開始直後、N相模原・伊藤珠梨のロングボールに杉田亜美が足で合わせ、このこぼれ球に詰めたのは18歳の笹井一愛。今季初の相模原ギオンスタジアムでの試合に、下部組織出身のストライカーがWEリーグ初ゴールを決める。会場は一気に盛り上がり、アウェー感は否が応でも高まってしまった。
しかし、マイナビ仙台はここでひるむことなく、後半からピッチに入ったブラトヴィッチと船木が大いに躍動。後半15分、宮澤ひなたが縦へ突破し、ブラトヴィッチへパスを送る。このボールは相手GKに弾かれるが、すかさず拾った船木が右足を振り、ゴール右端に突き刺して同点。尚も仕掛けるマイナビ仙台は、後半33分、ブラトヴィッチからのスルーパスに、船木がDFライン裏へ巧みに抜け出す。相手をかわすと、右足で流し込んで逆転に成功した。ブラトヴィッチはボールの出し手として、また味方を生かす“おとり役”としても卓越した能力を発揮。船木は開幕戦以来となるゴールで逆転勝ちに大きく貢献した。

「苦しい時間帯も多かったけれど、前半で代わった選手も含め90分トータルでゲームを戦うことができた。変わろうとしたチームの第一歩としては、非常に良いゲームだった。逆転勝ちは、最後まで諦めない姿勢が表れた結果」と松田監督もこの勝利を評価した。選手の意識を変えて挑み、それがプレーで表現され結果につながった。今季2度目となった「逆転勝利」、力強く立ち上がる姿を見せることもできた。

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「代表戦から学んだ“気持ち”を結果につなげる重要性」

 今季早くも3ゴール目を叩き出した殊勲の船木里奈は、自信に満ち溢れていた。ハーフタイムの最後に松田監督に呼ばれ、後半開始のピッチに立つと「どん欲かつ、無心に『勝つ』という気持ちでゴール前に入った」という。こぼれ球への準備もできていた。「打つだけだった」という位置に、迷うことなく入ることができた。
ゲームをひっくり返した2点目はさらに余裕を持っていた。「DFの裏に抜けたら、足の速さでは負けないという自信もあった。スラッキー(ブラトヴィッチ選手)からのパスでしたが、相手の裏に蹴ってくれたら、シュートを決めるという確信があった。しっかり決めきることができた2得点だった」と振り返った。ゴールへの感覚に優れた船木だが、この日のゴールへの過程は全て言葉を尽くして説明した。ラッキーで決めた得点ではない。取るべくして取った2ゴールだった。

 カタールワールドカップを戦ったサッカー日本代表からも大きな刺激を受けた。「(日本代表の戦いを見て)サッカーは気持ちが大事で、FIFAランキングは関係なく、メンタル面が勝負を決めると感じた。特別なことを考えず『点を取りたい』と試合に入ったので、それが結果につながり良かった」。相手が誰であろうと、船木は一歩も引かず向かっていける。この先まだまだゴールを重ねていくだろう。

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後輩たちにも良いニュースを届けたい。10月のリーグ開幕戦でゴールを決めた船木は「MVP賞」を受賞した。その際に獲得した賞品である「お米60Kg」を全て母校の仙台大学を運営する学校法人朴沢学園に寄贈した。11月に開催された贈呈式では「みんなで美味しく食べてもらいたいのはもちろんですが、母校に対して少しではありますが、恩返しができて嬉しく思います。これからもこのような機会を通して、母校へ少しずつ、恩返しできるようがんばります」とコメント。プロサッカー選手として輝き、育んでもらった地域や自身のルーツに貢献したい。後輩たちもそうした後ろ姿をしっかりと見つめている。

 大宮V戦の大きな負けは、苦いが良い薬となった。足元を見つめ、課題を一つ一つ克服しながら、選手たちは確かな力を手にしていく。松田監督に「出せないのではなく、持っていない」と言われた“勝ちきる力”を身につけ、積み上げた先に、確信を伴った勝利やもっと明るい未来が待っているはずだ。

【試合情報】
2022‐23 Yogibo WEリーグ第6節 
マイナビ仙台レディース 対 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース
日時:12月10日(土)13時03分キックオフ
会場:ユアテックスタジアム仙台

(マイナビ仙台レディースオフィシャルライター・村林いづみ)
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著者プロフィール

東日本大震災により休部した東京電力女子サッカー部マリーゼが移管し、2012年ベガルタ仙台レディースが発足。2017年に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結しマイナビベガルタ仙台レディースとなりました。 2020年10月にWEリーグへの参入が正式決定。2021年2月より「マイナビ仙台レディース」とクラブ名を改め、活動をスタート。選手達の熱いプレーが多くの方に届くような盛り上がりをともに作っていきます。仙台、東北から日本全国、全世界に向けて、感動や勇気を与え、WEリーグ優勝を目指し活動しています。

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