天高く届け!大熊克哉のクライ

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、スピアーズ)の「愛されキャラ」を問えば、ほとんどのオレンジアーミー(※)は彼の名前を答えるだろう。
勝利ゲーム後の歓喜の歌「チームクライ」をリードする、大熊克哉選手だ。

チームメイトからカメラを向けられれば、千変万化の表情を見せて、レンズの先に待つファンを楽しませる。
試合中の真剣な横顔だけではなく、はにかむ笑顔もあざといキメ顔もいい。
そんな大熊選手の新たな表情を見ようと、『23の質問』を用意した。

(※オレンジアーミー:クボタスピアーズ船橋・東京ベイを支える選手・スタッフ・ファンの愛称。)

大熊克哉(おおくま かつや)/1995年12月23日生まれ(26歳)/長崎県出身/身長170cm体重95kg/長崎南山高校⇒近畿大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2018年入団)/ポジションはフッカー/愛称は「クマ、BEAR」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

「チームのために」考える

1.今季のチームの雰囲気はいかがですか?
相変わらず、すごく良いです。
チームのために、チームを強くするために、何ができるのかをスタッフも選手も主体的に考えています。
入団して5年目ですが、僕もその中に入れるようになってきました。年々良くなっていますよ。

2.入団前のスピアーズの印象は覚えていますか?
大学在籍中に何回か参加させてもらった練習がとにかくきつくて、「やばい、ついていけない」と思ったことが強く印象に残っています。
1つ1つのプレーの精度が「さすがトップリーガー(当時)だな」と感じて、スクラムやラインアウトのスローのことを当時のスクラムコーチの佐川(聡)さんに教わって、持ち帰って練習していました。近畿大学の同級生のキレ(喜連航平選手、横浜キヤノンイーグルス所属)やシンヤ(田中伸弥選手、三菱重工相模原ダイナボアーズ所属)とも、(それぞれが練習参加した)チームがどんな雰囲気だったのかということを話していましたね。
入団後に先輩になる方々が良い人ばかりだったので、「頑張らないとな」と思ったことを覚えています。

3.実際に入団してみていかがでしたか?
いざ入団してみたら、意外と練習にもついていけました。
2年目くらいには自分の持ち味を出して、リラックスしてプレーできるようになりました。

4.入団後、チーム環境に変化はありましたか?
ちょうど僕がスピアーズへのお誘いをいただいた頃が「入れ替わりの時期」と言われていたようで、色々なことが大きく変化しましたね。
例えば、合宿中のチームアクティビティ(※)の内容が濃くなっていったり、「チームのためにどうあるべきか」というようなラグビー以外のミーティングも増えたり。
今もチームの環境がどんどん良い方向へ変わっているのを感じます。
―――2018年入団で、ちょうど広報の岩爪(航)さんと入れ違いなんですよね?
僕は岩爪さんの12番のロッカーを引き継ぎました。
隣のハルさん(立川理道主将)から聞いた話では、引退前はロッカーの上の棚はサプリメントだらけだったとか(笑)。
岩爪広報:引退する時が現役時代で一番フィジカルが良かったんだよね。今はその時よりいいけど(笑)。

(※チームアクティビティ:結束を高める目的で行われる様々な活動。今季はゴーカートにも挑戦して話題となった。)

昨年の別府合宿でも多くのチームアクティビティが行われた。ミニチームに分かれてのクッキングバトルでは各選手が自慢の料理の腕を披露した。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

同期の退団後に支えになったのは

5.同期の少ない年ですが、影響はありましたか?
同期にはプロ選手もいましたが、大学を卒業して入団したのは、僕とスンギ(孫昇己さん、2020年退団)の2人で、3年目からは1人になりました。すぐに1人になっちゃったので、周りは先輩だらけで。色んな人に飲みや遊びに誘ってもらったりして、お世話になりましたね。

6.同期入団選手を見送った時の心境は?
スンギが退団した時は、彼がプロとして他チームでラグビーを続けるってことだったので、寂しいというより「お互い頑張ろう」と見送った感じでした。
同じ時期に入団したナパルさんとカビリ先輩(羅官榮(ナ・グァンヨン)選手、バツベイ・シオネさん、いずれも2022年退団)の場合は日本からもいなくなっちゃうので、「とうとう1人なんだな」と感じました。
1年目の北見合宿の試合に4人で出た後に写真を撮ったことをよく覚えていて、「ここからは自分が頑張らないとな」と思いました。

7.先輩との思い出深いエピソードを教えてください。
いっぱいありすぎて・・・。
飲みに遊びに、色んな人に誘ってもらって、色んな人にお世話になりました。
でも、やっぱり、僕は(高橋)拓朗さんですね、本当に。
僕が入団してから今年拓朗さんが引退するまで会社の配属先が一緒だったので、仕事もラグビーもプライベートも、一番お世話になりました。
拓朗さんと過ごした4年ちょっと、色々と教わったことが僕の今に生きていると思います。

(高橋さんの「高」は正式には「はしごだか」)

8.後輩にとってはどんな先輩だと思いますか?
兄弟でも末っ子なので、どちらかというと先輩には良くしてもらえますが、後輩の面倒見が良いわけではないと思います。
僕自身も先輩面みたいなことは苦手なので、あまり先輩感は無いと思います。
同期がいないので、後輩から誘ってくれることもあったりして。
自分からグイグイ絡むこともあまりないですし、後輩から見たら不思議な感じだと思います(笑)。

9.近畿大学出身選手はチームにどんな影響をもたらしていると思いますか?
近大は昔から「いけいけラグビー」と呼ばれて、勢いがあって波に乗ったら本当に強いと言われています。それが1人1人の個性にも出ているのかな。
中島(茂)総監督からは「入団できたのは飲みの席の芸が達者やからや!」と冗談を言われましたが、僕も後輩も前に出て何かを出来るタイプ。
近大出身選手は、チームを盛り上げて活気をもたらすことができるメンバーなんじゃないかと思います。

入団直後、ファンへあいさつをする大熊選手とスンギ選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

愛すべき地元・九州

10.マイホームはどのくらい理想に近づいていますか?
もうすぐ築1年ですが、庭の雑草が大変なことになっていて、まだまだ理想にはほど遠いですね。
今はシーズン前で忙しいのですが、先日お隣さんが結構な範囲の草を刈ってくださいました。ありがたい限りです。
対策しようとホームセンターで道具を買ってきて、自分を奮い立たせている段階です。

11.シンボルツリーは決まりましたか?
まだ全然決まってないですね。(庭の状態が)ツリーにも辿り着けていないので。
ヤシの木みたいな大きなものが良いなと思って、たまに見に行っています。

12.オフシーズンは楽しめましたか?
長崎に帰りました。楽しかったですよ。家族みんなで集まりました。
父の初盆だったので、何年ぶりかに精霊流しをしました。地元の街を歩きながら、箱ごと爆竹を鳴らして。長崎ではお盆にはお墓で花火をするんです。
夕方になるとお墓の方から花火の音が聞こえてきて、「そろそろみんな集まってきたな」という文化です。
魔除けの意味など色々と謂(いわ)れがあるみたいですが、僕はにぎやかでいいなと思っています。
魚がおいしいので、刺身や寿司も食べました。
―――九州といえば、チームメイトの岸岡智樹選手主催のラグビー教室へも参加されていましたね。
会場となった大分のグラウンドは、僕が高校時代に九州大会や練習をした場所でした。
自分が子どもたちに教える側となって地元へ戻るというのは、いい経験になりました。

13.九州ラグビーへの想いは?
九州からラグビーチームが無くなっていっているのは僕もさみしく思っています。
でも、九州には強豪の高校が多いんですよ。
僕の母校の長崎南山高校は、最近はあまり花園に出場できていないので、もっと応援したいですね。

昨季の合宿中の2021年11月20日に行われた九州電力キューデンヴォルテクス戦後、別府の観客に応援への感謝を伝える選手たち。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

責任を楽しむ

14.今季チーム初得点の瞬間はいかがでしたか?
昨季もシーズン初得点を獲っていたので、「絶対に獲ってやろう」みたいなのはありませんでしたが、頭の片隅には「今年もあるのかな」と思っていました。
運よく目の前にボールがあってトライを獲れました。

15.プレシーズンマッチ前半の調子はいかがですか?
チームとしては、メンバーの組み合わせなどを色々と試している状態です。
結果以外のところでは、やりたいことが出来たり、新しい課題が見つかったり、と学びがあって良い感じです。
個人的にも過去数年間で結構良いと感じています。怪我でチャンスを失わないように、まずはグラウンドに立ち続けるということを頭に置いて、シーズンへ向けて頑張りたいです。

16.フッカー(以下、HO)のポジション争いをどのように捉えていますか?
マルコム(・マークス選手)がいて、そこにヒロさん(杉本博昭選手)と大塚(健太郎選手)と、今年はスカルク(・エラスマス選手)が入ってきて、(福田)陸人もHOに挑戦していて、1個のポジションを6人で争っています。
S&Cコーチの浦さん(浦山真吾さん)と話していた時に「『世界No.1のHO』と称されるマルコムは簡単に勝てる相手ではないけれど、捉え方を変えたら、マルコムさえ越えれば、お前がトップじゃん」と言われて。それから、「最終目標として的が絞れている」と考えるようにしています。
だからこそ、周りと同じことをやっていてもダメ。「他の選手よりもプラスワンとなる自分の強みを伸ばしていかなければ」と思っています。

17.ラグビーで一番好きなプレーや練習は何ですか?
コアな部分ですが、相手の隙を狙ってチャンスを生むようなプレーですね。
フェーズ(※)が続いてラック(※)サイドで相手のディフェンスが立ち遅れたところを頑張って走ってボールキャリーをしたり。
最近は意識して出来るようになってきたので、やっていて楽しいですね。

(※フェーズ:ボールが動いてラックが形成されるまでの一連の攻撃の数え方。)
(※ラック:ボールを争奪するために両チームの選手が組み合ったり、アタック側の選手が地面にあるボールをまたいで保持を図っている状態。)

18.HOならではの魅力は何ですか?
高校までは、ずっと1番プロップ(以下、PR)をやっていて、大学からHOに挑戦したんですね。最初は正直、魅力は何も感じていませんでした(笑)。
スローがすっごい苦手で、PRよりも運動量が必要だし、スクラムはフッキングして舵とって、それがすっごい嫌だったんですよ。でも、身体も身長も大きくないから、上を目指すために挑戦して。
チームからも「スクラムはちゃんと組んで、ラインアウトはしっかり投げて」というのが前提だと言われていますが、今は逆に、そういう色んな責任が魅力です。
スピアーズでは、「メンタルゲームでプレッシャーがかかった時に、プレッシャーの下になる『アンダープレッシャー』じゃなくて、『ウィズプレッシャー』にしてプレッシャーと共にゲームを進めていこう」と言い合っています。HOはプレッシャーがかかった時にもしっかりプレーすることが求められる。最近はそれを楽しめるようになってきました。
今は魅力と言えますが、始めたての陸人は難しく感じるプレーもあると思います。そこを苦手意識せずに楽しめたらいいんじゃないかなと思います。

スピアーズ今季初戦となる2022年10月22日の横浜キヤノンイーグルス戦では、今季チーム初得点となるファーストトライを決めた。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

寄り添い、支え合う

19.これまでに一番影響を与えた人は?
やっぱりフラン(・ルディケ)ヘッドコーチ(以下、HC)じゃないですかね。
本当にすごい指導者なんですけれど、「一緒にチームを良くするために何か良い案はないかみんなで考えよう」とちゃんと選手やスタッフ1人1人に寄り添ってくれます。
それでチームが年々どんどん良く変わっているので、すごい影響をたくさん受けています。

20.最も学びの多かった指導者からの言葉は?
挙げたらキリはないんですけれど…。
スピアーズに入って、フランHCの下で、今がすごくたくさん学んでいると思います。
「チームをどう良くするのか」についてすごく考えるようになったことは、スピアーズに入って良かったことの大きな一つにあります。「来年も絶対にチームは良くなっているだろう」ということを学んでいる段階。ラグビーのことはもちろん、ラグビー以外の物事の考え方を今も学び続けています。
できる限り長くスピアーズでラグビーを続けたいので、もっとチームの一員として学んでいきたいですね。

21.仲間から言われた一番印象的な言葉は?
昨年末に父が亡くなったのですが、11月の別府合宿で行われた練習試合に最後の力を振り絞って応援しに来てくれたんです。
数か月前に結婚式に来てくれた時は歩いていたのに、試合前に車いすで来るのが見えて。試合後に会いに行ったら、僕もう泣いちゃったんですよ、めっちゃ。その後にチームクライもあったんですけど、もう、なんか、涙が出てきちゃって。
その時に、拓朗さんが…、何も言われていないんです、その時は。何も言わずに、肩をポンポンとしながら寄り添ってくれて。
それを覚えていますね、印象的で。
それがあって頑張れました。その時に仲間っていいなぁと改めて実感しました。
―――本当にスピアーズは「家族」なんですね。
そうですそうです、本当にその通りです!
父が亡くなった後も、練習後に1人でぼーっとしちゃう時があったんですけど、何も言っていないのに、トゥパ(・フィナウ選手)やラピース(ピーター・ラブスカフニ選手)が横にちょこんと座ってくれて。「残念だったけど、大丈夫だよ」と話しかけてくれた時にも「あぁ、家族だな」と感じました。
すごく良い仲間です。

2021年11月26日の静岡ブルーレヴズ戦では、家族の前で大熊選手らしいプレーを見せた。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

「家族」へ送るクライ

22.スピアーズの一番の魅力は?
やっぱりチーム力ですかね。
チームの仲の良さ、ファミリー感は、ラグビーのプレー中もいっぱい感じてもらえると思います。みんなでトライを獲って喜び讃え合うセレブレーションもそうですね。普段のチーム感はグラウンド上でも表れる機会がたくさんあると思います。そこが魅力です。
チーム感といえば、2018年の東芝戦。終盤に逆転された後、スクラムでペナルティーを獲ってゴールキックで再逆転して勝利した試合のノンメンバーの写真がすっごい好きです。あれが僕がみんなに見せたい一番のチームの姿です。
当時も今も、そういうところは変わらずありますね。
チーム力の強さ、そこがスピアーズの一番の魅力です。

23.現在の個人的な目標は?
まずは公式戦にジャージーを着て出場することです。それに尽きます。
どれだけ練習を頑張っても、チームのために色々とやっても、まずは試合に出て結果を残すことがラグビー選手として大事だと思うので。
僕はもうここ何年も公式戦に出ていないので、「今シーズンは絶対に試合に出てやる」という目標はあります。
僕がシシさん(四至本侑城さん、2020年退団)からクライを受け継いでから、公式戦でユニフォームを着てクライの音頭を取ったことがないんです。ノンメンバーの立場でクライをリードするのが、すごいもどかしくて。
自分が試合に出て、ゲームに勝って、最後に自分が音頭を取ってクライをするというのも、今年は絶対にやりたいですね。
本当に頑張ります!!

2021年11月26日の静岡ブルーレヴズ戦後のクライ。大熊選手のリードに、チームメイトも熱く応える。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

今やオレンジアーミーの間では大熊選手の代名詞となった「あざとい」という形容詞は、紙一重で嫌厭(けんえん)されかねない、容易に成立しがたい魅力だ。
インタビューでは、ほとんどの質問に対して、思いついた答えが最適なのかどうか吟味するような「間」があった。
その一呼吸ににじむ優しさ、真面目さ、相手を慮る繊細さこそ、大熊選手にしか出せない、愛らしいあざとさの秘訣なのかもしれない。

えどりくの試合後は、自身の、仲間の、健闘を讃える熱い声に耳を澄ませよう。
「「We Are Spears !!」」
掲げられた拳は、天高く伸びている。



文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーターHaru
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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