サッカークラブができるウクライナ支援と、新たに広がる支援の輪

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©KAWASAKI FRONTALE】

「支援はブームじゃない」

 川崎フロンターレでは、その合言葉を胸に「東日本大震災復興支援活動Mind-1ニッポンプロジェクト」を2011年に立ち上げ、継続的な活動を行ってきた。

 その中の一つに、フロンパークでの「陸前高田ランド」がある。
10月29日、ホーム最終戦となったヴィッセル神戸戦では「陸上」とのコラボイベント「Rick&Joe」同日開催ということもあり、「リック前高田ランド秋」と改名して開催。いつものように好評を博し、当日は多くの人で賑わっていた。

 そうした文化を築いてきたクラブから、また新たな支援の輪が生まれている。

 それがウクライナからの避難民の方への支援。
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が世界的ニュースとなって久しい。そんなウクライナに対して、現地への救援物資や、日本に避難して来たウクライナ人に住居を提供するなど、日本からも支援の輪が広がりつつあることを報道で知っている方も多いかもしれない。

 川崎フロンターレとしても、何か支援ができないのか。
こうした思いから、クラブは3月にウクライナからの避難民に対する支援を出入国在留管理庁に申し入れていた。

 そんな中、在日ウクライナ大使館から依頼を受け、首都圏近郊に避難してきた方々をこのホーム最終戦でサッカー観戦に招待することになった。支援の輪をつないだのは、NPO団体でもある株式会社コケナワの苔縄(こけなわ)義宗社長。ウクライナ避難民と地方自治体・企業を連携する情報サイトを運営し、幅広い支援を行っているのだという。苔縄社長は言う。

「日本全国でウクライナ避難民の皆さんに、『デジタル大使館』(下記関連リンク参照)というマッチングサイト支援の実施をしています。各社様からいろんな物資の支援をもらっていますが、その一つの川崎フロンターレ様からご厚意をいただき、今回はご招待をいただきました」

 支援物資の申し入れは多くの企業から受けてきたが、プロスポーツクラブから「デジタル大使館」へのこうしたアプローチは初めてだという。物資による支援だけではなく、心のケアも必要になっている時期でもあるため、スポーツ観戦はとてもありがたいと苔縄社長は言う。

「日本全国で催事に招待される機会はありますが、サッカーは初めてです。ヨーロッパはサッカー文化なので、プラットフォームを見て『ぜひ試合に行きたい』という声は多かったです。大変うれしい報告でした」

 現在、国内に避難しているウクライナの方々は2,000人近いと言われている。首都圏にいるのが約800人ほどでで、今回は関東圏や名古屋在住の方々など約30人が参加。集合時間になると、今回の参加者と思しき方々がフロンパーク近くの集合場所に集まってきた。

フロンターレのメインスポンサーである富士通株式会社の時田隆仁社長も、お見舞いの声をかけていた 【©KAWASAKI FRONTALE】

 参加する年齢層はバラバラで、家族連れもいれば、中年男性や若い女性もいる。ただ皆、フロンパークやスタジアム周辺がお祭りのように賑わっていることに驚いているようだった。彼ら・彼女らに通じて話を聞いてみると、この楽しそうな雰囲気に驚いたようだ。

「みんなすごくびっくりしています。ウクライナは日本よりサッカーの試合を観に行く人は少ないですし、家族と一緒に来る人はあまりいないです。もちろん、試合もすごく楽しみです」

 ある男性はかなりのサッカー好きなようで、「サッカーファンなので、日本のチームにも興味があります。イニエスタやいろいろなプレイヤーも知っています」と胸を張っていた。セルティックで活躍する古橋亨梧が対戦相手のヴィッセル神戸出身であること、同じくセルティックの旗手怜央が川崎フロンターレ出身であることを聞き、俄然興味を持った様子だ。

 もう一方の男性は「イニエスタは試合に出るのか?」としきりに気にしていた。スタメンではなくベンチスタートだと伝えられると、うなづきながらもメンバーに帯同していたことを喜んでいた。お目当てが川崎フロンターレではなかったのはやや複雑だが、世界的なスターのプレーを観られる機会を楽しんでもらえたら幸いである。

 ウクライナからやってきた彼ら・彼女らに普段はどんな生活をしているのかを聞いてみた。こちらの質問に対しては、総じて笑顔で話し始めてくれた。皆一斉に話し始めるため、通訳さんも大変そうだった、うまく総意をまとめて訳してくれたようだ。

「日本語を勉強して、アルバイトもしています。こちらは8月に来日して、私たちは7月です。日本語はわからないし、たくさん問題があって大変。でも日本人は素敵で親切で優しい。そして料理がとても美味しいです。だから日本は大好きです」

 ちなみに、「好きな日本料理は?」と尋ねると、「カツ丼!」、「寿司!」、「そば!」、「焼肉!」「うどん!」、「たこ焼き!」「餅!」、「抹茶!」とみんなが口々に楽しそうに叫び始めた。日本食が口に合うようで何よりである。

 集合した彼らには観戦チケットとともに、クラブからタオルマフラーもプレゼント。そして、せっかくならば川崎フロンターレ流の応援で楽しく観戦してもらおうと、フロンターレの応援団が駆けつけ、その場でタオルマフラーを使った応援の簡単なレクチャーをした。この場に立ち会っていた川崎フロンターレの企画担当の磯部容輔さんが言う。

「ヨーロッパで一番人気に上がるスポーツはサッカー。せっかくならばフロンターレ流の応援も楽しんでいただきたいので、皆さんにタオルマフラーをプレゼントしました。試合を見てもらうのもそうですが、これをきっかけに、日本のサッカー文化に触れてもらえたらうれしいですね」

日本特有の応援の仕方を教わり、皆さん楽しそうに記念撮影を行った 【©KAWASAKI FRONTALE】

 太鼓に合わせた手拍子のタイミングと「フロンターレコール」を学ぶと、あっという間にノリノリだ。サッカーを通じた盛り上がりは万国共通。周囲にいたフロンターレサポーターを巻き込んでいくのはさすがだった。

 また、この日に合わせて、川崎フロンターレだけでなくさまざまなJリーグクラブのサポーター仲間による、ウクライナの平和を願い寄付で作成されたミサンガがこの活動のサポーター代表者からウクライナ避難民の方々に手渡され、予想外のプレゼントの想いに喜びをあらわにしていた。

Jクラブのサポーター仲間の平和を願う想いのこもったミサンガを手渡す 【©KAWASAKI FRONTALE】

 この日の試合は2-1で川崎フロンターレが勝利。ゴールも生まれ、イニエスタも出場したので、きっと観戦した方々にも楽しんでもらえたことだろう。あとで聞くと、大満足で帰ってもらえたそうである。

 冒頭で触れたように、東日本大震災後、川崎フロンターレは「支援はブームじゃない」と掲げ、その活動を継続的に行ってきた。これと同じように人道支援もブームではない。ただニュースで扱われることも少なくなると、世間の関心も減り、問い合わせも大きく減ってきているのも事実である。苔縄社長は言う。

「以前に比べると、問い合わせは1000分の1になっていますし、アクセスも少なくなっています。でも長期化されることが予想されていますし、まだ多くの人が支援を求めています。サポートする仕組みとなるプラットフォーム(デジタル大使館)を作ったことで、支援する機会ができたので、知らせてもらえるとうれしいです」

 国内での避難生活を余儀なくされている避難民に対する人道支援は、クラブとして今後も続けていくつもりだという。

「スポーツの力で、人を、この街を、もっと笑顔に」

 このクラブミッションのもと、サッカーの力で新たな支援の輪をつなげていきたい。

(取材・文:いしかわ ごう)
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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