いま波に乗っているスポーツ・パラサーフィンの世界
【photo by Hiroaki Yoda】
実は、パラスポーツでも盛り上がりつつあるのがパラサーフィンです。ロサンゼルス2028パラリンピックでは新しい競技として採用が検討されています。選手たちはどうやって波に乗るのか。そして、サーフィンの醍醐味とは? 編集部は日本初の大型パラサーフィンイベントに潜入。躍動感あふれる選手たちの姿をお伝えします!
初めてのパラサーフィンの世界
天候にも恵まれ、みんな笑顔、笑顔、笑顔 【photo by Hiroaki Yoda】
カラフルなサーフボードを車いすで巧みに運び入れるのは、日本代表として世界で活躍中のトップ選手、小林征郁選手です。
「サーフィンで世界一になりたいから、ほぼ毎日、海に入っています。ポイントは愛知県の伊良湖や内海とか。全国をちょろちょろしているかな。海に入っちゃえばずっと浸かっていたいくらい自由で最高。だけど、入るまでが……ね。駐車場から海まで近づけるところってあまりないけど、車いすでもアクセスしやすい場所は少しずつ増えているんですよ」
サーフボードを乗せてプールサイドへ。第一人者は「日本でこんなイベントができるなんて素晴らしいこと」と話します 【photo by Hiroaki Yoda】
腹ばいで乗る選手のボードには、体が落ちないように工夫が施されていました 【photo by Hiroaki Yoda】
車いすの選手たちはリフトを使ってプールサイドから移乗します 【photo by Hiroaki Yoda】
水陸両用の車いすでプールへ向かう藤原智貴選手。介助犬のダイキチが見送ります 【photo by Hiroaki Yoda】
トップ選手のライドを見よ
なかでも、パラサーフィン日本代表として知られる藤原智貴選手、伊藤健史郎選手、そして小林選手のパフォーマンスは、会場の注目を集めました。各クラスの優勝者でもあるトップ選手たちのライドを写真でお楽しみください。
Prone2クラスで初優勝を果たした藤原智貴選手のライディングは圧巻でした 【photo by Hiroaki Yoda】
Stand2クラスは伊藤健史郎選手が初代王者に輝きました 【photo by Hiroaki Yoda】
膝立ちのKneelクラスは小林征郁選手が優勝しました 【photo by Hiroaki Yoda】
見えなくても波に乗る!
この競技会には、なんと東京2020パラリンピックの水泳で3つのメダルを獲得した富田宇宙選手が出場しました。
「自然の中で行うスポーツで、水泳とは違う感覚を味わっています。まだ始めたばかりのため、波に自由に乗ることができないので、週1回くらいのペースで続けてうまくなりたいですね。視覚障がいがあると海水浴なんてなかなか行く機会がないと思います。そんな中、サーフィンって自然と触れ合いながら、そしてガイドやキャッチャーなどいろんな人と協力しながら行う独自の魅力があります」
そう教えてくれた富田選手。拠点とする神奈川県藤沢市の鵠沼の海水と、身体の浮きにくい静波のウェーブプールとの違いに戸惑いながらも、人工ウェーブプールならではのパワーがあって高い波に果敢に挑戦。「思い通りにならないところも楽しむのが、サーフィンの魅力なのかも」と笑顔で話しました。
富田選手にとって初めての競技会。まずは練習のためにプールへ。ガイドの葭原さんが先導します 【photo by Hiroaki Yoda】
富田宇宙選手(左)と葭原隆之さん。「こんなに高い波に乗ったことはない!」と戸惑いながらも、とても楽しそうな富田選手です 【photo by Hiroaki Yoda】
パドリングを始めるタイミングは「5、4、3、2、1」とカウントダウンで伝え、「あとひとかき」、「ちょっと右」というような言葉で指示をします。
※パドリング:サーフボードに腹ばいになって両腕を回し水を漕ぐこと
選手はガイドと一緒に波を待ちます 【photo by Hiroaki Yoda】
ガイドはパドリングの間も細かく指示を出し、波の乗る位置やタイミングを知らせます 【photo by Hiroaki Yoda】
うまくテイクオフできれば、仲間たちから歓声を浴びることができます! 【photo by Hiroaki Yoda】
ファミリーでできるスポーツ
34歳のとき、医療ミスにより右脚と左足首から下などにまひが残り、車いす生活に。パラ水泳でパラリンピックを目指した後、2010年に引退。今は千葉県の勝浦で家族とともにサーフィンを楽しんでいるんだとか。
「サーフィンは子どもにもやらせていて、今では共通の趣味です。美しい海を見てきれいだなと思う感性や自然を大切にする心が養われるスポーツだと思います」
秦選手が1本終えるたびに小学4年生の息子が歩くために使うストックを持って駆け寄ります。
「いつもやってくれるわけではないですが(笑)優しく育っているかな」
そして、第2回大会にもチャンスがあればまた出場したいという秦選手。「今日は緊張せず、いつも通りにできたことが何よりでした。めちゃくちゃいい波でした!」
テイクオフの瞬間、スタジアムからは歓声が沸きました 【photo by Hiroaki Yoda】
「この身体(機能障がい)でも水に入れば自由だし、幸福感を感じます」と秦選手(左)。傍には家族の姿がありました 【photo by Hiroaki Yoda】
4年生と1年生の息子も波乗り。「共通の趣味なんです」 【photo by Hiroaki Yoda】
サーフィンの魅力とは
ライド後はライバル同士でもたたえ合います。これぞ横乗り系スポーツの真骨頂です 【photo by Hiroaki Yoda】
サーフィンにハマる理由はどんなところなのでしょうか。
「大自然の中で行うスポーツで、動くフィールドが相手。いかにもハードルが高そうだけど、その分、海のすばらしさを感じられるし、他にはない魅力があります」
パラサーフィンの普及によりビーチの環境も良くなっていくことを願います。
いえーい! 笑顔全開の伊藤健史郎選手です 【photo by Hiroaki Yoda】
水に揺られる姿は本当に気持ちよさそうで、見ていた人たちも思わずプールに足先を入れてしまうほどでした 【photo by Hiroaki Yoda】
ゲストとして(写真右から)プロサーファーの3きょうだい井上鷹、楓、桜さんが登場しました 【photo by Hiroaki Yoda】
サーフボードの選択も、乗る体勢も……みんな違って、みんないい。それがパラサーフィンの最大の特徴かもしれません。
東田トモヒロさん(左)と歌うパラアスリートでレゲエアーティストのJahliさんもノリノリです 【photo by Hiroaki Yoda】
笑顔になるスポーツ
「僕もサーフィンが好き」。医療従事者として医学的安全性を担保しながら、さまざまなイベントを開催します 【photo by Hiroaki Yoda】
田中さんの言う通り、取材陣もたくさんの笑顔に出会うことができました!
東京パラリンピックパワーリフティング日本代表の三浦浩選手は競技会に出場。力強いパドリングはさすがでした 【photo by Hiroaki Yoda】
冬季のパラリンピアンで、障がいのある子どもたちを支援する活動をしている野島弘さんは自らも楽しむ姿勢を貫いています 【photo by Hiroaki Yoda】
車いすユーチューバーの渋谷真子さん。前言通り、3回挑戦してすべて波に乗ることができました。「楽しかった!」 【photo by Hiroaki Yoda】
車いすラグビーのパラリンピアンで現在は自転車競技者。一般社団法人ユニバ官野一彦理事はサーフィンの事故で頸椎を損傷しました 【photo by Hiroaki Yoda】
text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda
※本記事はパラサポWEBに2022年9月に掲載されたものです。
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