西川周作J1リーグ通算無失点試合数新記録樹立記念、佐藤寿人氏スペシャルインタビュー

浦和レッドダイヤモンズ
チーム・協会

【©URAWA REDS】

浦和レッズが3-0でFC東京に勝利した10日の明治安田生命J1リーグ 第21節で西川周作がJ1リーグ通算無失点試合数の新記録を樹立したことを記念し、スペシャルインタビューを実施。

今回インタビューしたのは、佐藤寿人氏。
ピッチでは、チームメートとしても対戦相手としてもしのぎを削り続け、プライベートでは家族ぐるみでの親交がある佐藤氏に、本人との思い出や、J1リーグ通算得点2位の161ゴールを挙げたストライカーから見た「西川周作」について語ってもらった。

(西川周作選手が10日に行われたFC東京戦でJ1リーグ無失点試合数を170とし、J1リーグ新記録を樹立しました。公私共に付き合いが長く、仲間でもライバルでもあった佐藤寿人さんから見て、この記録はいかがですか?)
「本当に素晴らしい、その一言です。プロフェッショナルとして個人を高めることはもちろん、自然体でいることは一緒にプレーしていてすごく印象深いです。飾るようなことを特別にする人ではないですし、周囲で周ちゃんのことを悪く言う人を見たことがありません。みんなを虜にする人柄だと思います」

【©J.LEAGUE】

(寿人さんが初めて西川選手としっかりとコミュニケーションを取ったのはいつだったか覚えていますか?)
「Jリーグのオールスターだったか、日本代表だったか…。日本代表では周ちゃんが初招集のときも一緒でしたが、すぐに打ち解けました。ああいう性格なので、先輩と後輩はあまり関係ありませんでしたし、それでも当時は年下の振る舞いでしたが、それでも先輩たちにかわいがられていました」

(そのころはさすがに「ひー君」とは呼ばれていなかったのか?)
「もちろんまだでしたね。『寿人さん』と呼ばれていました(笑)」

(寿人さんが「ひー君」と呼ばれる印象はあまりありませんが、実はよく呼ばれているのでしょうか?それとも西川選手が特別なのでしょうか?)
「周ちゃんだけです。周ちゃんが呼んでいるから呼ぶという人も何人かいましたが、ずっと呼び続けているのは周ちゃんだけですね。僕も『周作』から『周ちゃん』になったので、そういう関係もあると思います。年齢だと僕がだいぶ年上ですが、もう先輩・後輩の関係ではありません(笑)」

(それだけいい関係を築けているということでしょうか?)
「家族ぐるみでの付き合いですし、家に遊びに行かせてもらうこともあります。僕の息子たちをすごくかわいがってくれていますし、次男坊は周ちゃんにかわいがってもらったおかげでGKをやっていますし、周ちゃんが広島でプレーすることがなければ、僕の次男はGKを志すことはなかったと思います。そういう人柄です」

(寿人さんの次男はそもそもGKをやっていて、その近くにたまたま西川選手がいたわけではなく、西川選手の影響でGKを始めたということですか?)
「完全に周ちゃんの影響です。僕がFWなので長男はスクールで何番を付けたいと聞かれたら11番を付けたいと言っていますが、次男も最初は気を使って11番を付けましたが、すぐにGKをやりたいということになりました。周ちゃんが広島に来てくれて一緒に優勝の喜びを分かち合いましたし、広島からレッズに移籍するときは僕もショックでしたが、僕以上に息子がショックを受けていました。本当に涙するくらい悲しんでいました。広島を離れるときは家族でご飯を食べて、周ちゃんが僕の次男にGKグローブなどをプレゼントしてくれました。いろいろなタイミングでいろいろなもの、日本代表のユニフォームやグローブなどを次男にプレゼントしてくれています。昨年末に僕と僕の息子2人と周ちゃんの4人で食事をしましたが、そのときも息子の名前入りのユニフォームを用意してくれていました。またこの記録のお祝いをしなければいけないですね」

(寿人さんの次男は西川選手のどんなところに憧れたのでしょうか?)
「周ちゃんはシュートストップだけではなくフィードや現代のGKに求められる要素を全て兼ね備えている選手だと思います。全てのGKに西川周作のようなプレーを求めることは酷だと思いますが、GKをやりながら、難しさも感じながら、それがなぜ必要なのかということを、周ちゃんを見ながら子供なりに感じていったのだと思います。ゴールを守るだけではなく、ゴールを生み出す最初のプレーをしているということも、息子は息子でGKをやりながら感じることはあったと思います。そういうことをトップレベルで見せてくれていますので、プレーに説得力がありますし、『こうなりたい』というGKとしていいお手本なんだろうと思います」

【ⒸURAWA REDS】

(寿人さんからすると、お子さんがそこまで他の選手にのめり込むことに嫉妬心はありませんでしたか?)
「嫉妬は全くありませんでした。それだけかわいがってくれていましたし、次男が周ちゃんを好きになる理由もよく分かります。僕はゴールを取ることが仕事でしたし、次男を相手にシュートを打つこともできますし、親子で対決できるのは息子がGKをやってくれたこそという気持ちもありました。息子が2人ともFWになってしまったらそれはできませんでしたから(笑)。あとは周ちゃんの姿を見ていて、道具を大事にすることを学んだと思います。周ちゃんが広島にいた当時からいろいろな話を聞いていましたし、次男もグローブやシューズの手入れをすごく大事にやっています。僕はグローブの手入れのことは分かりませんし、次男は素晴らしいお手本から見たり聞いたりしていたので幸せだったと思います。クラブハウスに遊びに来ると、次男は練習を見た後に周ちゃんと一緒にお風呂に入らせてもらったりしていました」

(寿人さんと西川選手はチームメートであったことも対戦相手であったこともありますが、西川周作というGKはどんな存在でしたか?)
「やはりキックは本当にずば抜けていると思います。周ちゃんを説明する上で、キックは欠かせないと思います。最初に驚いたのは、周ちゃんが大分ユースのときに、FKを蹴るGKがいるという話を聞いたときに、『もうそんな時代なんだ』と思いました。でも今もそんなGKは出てきていませんし、時代じゃなくて周ちゃんがすごかっただけなんですけど(笑)。狙ったところに蹴る正確性とそれに対するトレーニングのやり方、こだわりは特にチームメートになってからピッチレベルで感じました。対戦相手のときは前線からプレスをかけてボールを奪えることはほとんどありませんでしたし、相手のプレッシャーを剥がすことは周ちゃんの大きな持ち味です。何度も剥がされたり、飛ばされたり、対戦相手からすると一番嫌なGKです。プレスをかけても剥がされてしまいますし、ブロックしてもフィードでひっくり返されてしまいます。僕も相手としてそうでしたが、チームメートになってからは、対戦相手の選手を見ながら『かわいそうだな』と思っていました(笑)。そしてレッズに移籍してからはまた相手として戦わなければいけませんでしたが、奪えないと分かっているのでプレスに行きたくないんですよね。それがまたストレスでしたね」

【ⒸURAWA REDS】

(奪えないと分かっているのに監督からは「行け」と言われたりするのは大変だったのではないですか?)
「当時は最初からリトリートするということではありませんでしたし、先に点を取られてしまえば前から奪いにいかなければいけません。ただ、奪えないと分かっているのに奪いにいくほど無駄なことはありません。ミスを誘い出せる選手ではありませんので、嫌でしたね。一緒にやって一番うれしかったと思うことは、僕がゴールを取って正面のカメラから抜かれたときに、最後尾の周ちゃんがいつもガッツポーズしてくれているんです。僕のゴールだけではなく、チームのゴールをすごく喜んでくれるのは、ストライカー冥利に尽きます。最後尾ですごい選手が構えてくれている安心感は本当に大きかったです」

(シュートストップなど西川選手の守備に関してはどういう印象でしたか?)
「シュートストップの面に関しては、駆け引きも含めて楽しかったですね。一緒にやればやるほどお互いの特長を分かり合っていきますので、騙すことを考えないと、コースだけぎりぎりのところに打っても入らないんですよ。トレーニングではそういう駆け引きをする機会があまりありませんでした。試合のときは仲間ですし、紅白戦も同じ主力組で周ちゃんを相手にシュートを打つことがほとんどなくなっていましたので、シュート練習や居残りでの練習が楽しかったです。極端なことを言えば、周ちゃんを相手にゴールを奪うことができれば、他のGKから確実に奪うことができるという自信になりました」

(対戦相手としては西川選手が大分トリニータでプレーしていたころもレッズに加入してからもゴールを奪っていますよね?)
「そうですね。だから周ちゃんの奥さんと初めてお会いしたころは、憎い相手だと思われていました(笑)。ポジション柄、『申し訳ないです』という感じでした。『寿人さんは周ちゃんを相手にいつもゴールを取るから嫌いだったんです』と言われて、僕も『ごめんね。でもそれが仕事だからしょうがないんだよ』と返したり、冗談じみたことを言い合っていました(笑)」

【©J.LEAGUE】

(寿人さんの21年のプロキャリアで西川選手とチームメートだったのは4年間でしたが、ここまでいろいろなお話をうかがっていると、寿人さんから自発的に出てくる話はチームメート時代のことが多いように感じます。それだけ仲間という意識が強いということなのでしょうか?)
「チームが変わっても食事に行ったりする仲でしたし、まず広島に来てくれて一緒に優勝しましたが、周ちゃんが来てくれたからこそ優勝できたというおもいがあります。その後に離れて、対戦相手として戦わなければいけなくなりましたが、その葛藤、悩み、広島に対する思いや、日本代表の正GKとしてワールドカップに出たいという気持ちも聞いていましたので、悩んでいる姿も間近で見ていました。でも今回、J1リーグ通算無失点試合数が170試合になったのも、いろいろなクラブで仲間に愛されて、関係性を築いて積み上げた数字だと思います。

特に感じるのは、レッズには若くて素晴らしいGKがいるなかで、いつポジションを明け渡してもおかしくない時期もあったと思います。プロフェッショナルな振る舞いをし、しっかりと勝負し、パフォーマンスでまたポジションを奪い返したと思います。昨年の西川選手と似た状況でそのままポジションを失う選手も多いと思います。周ちゃんから『苦しい』とかネガティブな言葉を聞くことはないと思いますが、内に秘めたものはあると思います。それでもトレーニングではGKが一つのチームとして全員で励まし合いながらお互いを伸ばしていくこともあると思います。今はチームメートではなく外から見ていて、またポジションを勝ち取って数字を残していき、パフォーマンスも本当に素晴らしい。西川周作らしいプレーが多い状況でそういう数字を残しましたので、あらためて素晴らしいと思います。ただ、170という数字で終わるわけではないと思いますし、これから一つでも多く積み上げてほしいです。まだまだ周ちゃんらしさを見せ続けてほしいと思います」

(「ネガティブな言葉を聞かれることはないと思う」というお話もありましたが、僕らには本当にネガティブなことを言いません。プライベートで寿人さんたちにもネガティブなことは言わないのですか?)
「言わないんですよ。そういう人間なんです(笑)。でも、誰しもが苦しさ、悔しさ、頭では理解していても複雑な感情があったりすることはあると思います。それはプロなので当たり前ですし、むしろ無くなったら戦えないと思います。でも、そういう気持ちも持ちながら、自分のやるべきこととしっかりと向き合えることは、周ちゃんの素晴らしさです。それと、僕もそうでしたが、体は年齢を重ねれば重ねるほど若いころと同じというわけにはいかなくなります。必ずどこかに痛みがあって、万全な状態で試合に臨むことがほとんどなくなってしまいます。GKは接触プレーが多いですし、一緒にプレーしているころは周ちゃんが怪我をして、痛みを克服していく姿を見ていました。若いころには大きな怪我もありましたが、年齢とキャリアを重ねた今でもピッチに立つ準備を毎試合行えるのは、周ちゃん自身の努力と家族、奥さんの支えと子供たちのパパへのエールもあると思います。そういうものが周ちゃんを駆り立たせる大きなエネルギーになっているのだと思います」

【©URAWA REDS】

(最後に、あらためて西川選手へのメッセージを)
「170試合という素晴らしい記録のうち、少しでも時間を共有できたことは僕にとっても幸せなことです。僕は一番前でプレーする選手として、これほど安心感のあるGKはなかなかありませんでした。純粋に仲間としてプレーできたことは幸せでしたし、ゴールを取って最後尾で笑顔になっている周ちゃんを見ることは僕にとっても一つのモチベーションでした。今はレッズのために、仲間がゴールをした際には笑顔で喜ぶ姿を見せてほしいですし、時にはキャプテンらしく叱咤激励する厳しい表情も見せてほしいです。これは本人には言ったことがありませんが、いつも笑顔の周ちゃんだからこそ、厳しい表情や怒りの表情を見せるときは、勝負の世界にいる男の顔だと感じますし、それが絵になります。そういう厳しさも時には必要だと思いますし、それも見せながら、でもたくさんの笑顔を見せてほしいと思います。

周ちゃんの話でしたら、何時間でもできますね(笑)。僕が先に引退しましたが、遠い未来に、また周ちゃんとボールを蹴りたいです。またシュート練習をしたとき、『ひー君、下手になっていますね』と言われないように僕も練習しておきます」

【©URAWA REDS】

  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント