「スポンサーシップビジネスは、これからが面白い。」 シティ・フットボール・グループ 西脇氏が語るスポーツスポンサーシップの最前線。

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【シティ・フットボール・グループ】

企業法務とDXの側面からスポーツビジネスをリードする稲垣弘則弁護士が、スポーツ界を牽引するトップランナーを訪ね、日本スポーツビジネスの最前線と未来についてお届けするインタビュー/対談企画。

第2弾は、シティ・フットボール・グループ(以下CFG)の日本法人でパートナーシップ部門セールスマネージャーを務める西脇智洋氏をお招きし、「スポンサーシップとテクノロジー」「スポンサーシップと契約」をテーマにご意見を伺った。

PROFILE
西脇智洋(にしわきともひろ)
早稲田大学商学部卒業後、(株)大塚商会へ入社。5年間の営業を経た後に退社、リバプール大学でFootball Industries MBAを学ぶ。英国から帰国後、(公財)日本サッカー協会でサッカー日本代表のスポンサーシップを担当。その後TIAS、ニールセンスポーツ、MP&Silvaを経て2018年よりシティ・フットボール・グループ(CFG)の日本法人でパートナーシップ部門セールスマネージャーを務め、マンチェスター・シティや横浜F・マリノスの大型パートナーシップ案件を手掛ける。

留学、JFAを経てシティ・フットボール・グループへ。

まず初めに、西脇さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

大学を卒業して大塚商会に入社し、システムインテグレーションの営業をしていました。営業としての数値目標に対する完遂力、達成するためのプロセス、顧客思考を叩き込まれたので、それが今も生きています。2006年頃からスポーツ業界にキャリアチェンジしたいと思い、自分がどう貢献していこうかと考えた時に、当時の仕事が無形商材であるシステムや保守を販売することだったので、概念的なものやアイデアなどを販売していくスポンサーシップビジネスは自分の経験を活かせるのではないかと。

その一方で、無形商材を売ることに対してそれなりの慣れと経験があったのですが、当時はスポンサーシップビジネスに関する専門的な文献が日本にはなくて、何が成功モデルなのか、どういうビジネスをしているのか全体も部分も全くわからない状態でした。もともとサッカーをやっていて、サッカークラブのスポンサーシップビジネスをやってみたいとは思っていたのですが、業務経験もなかったのでまずはサッカーの本場イギリスへ留学をしてスポンサーシップビジネスを研究することにしました。

留学を経て、日本サッカー協会に入ってからは、まさに理論から実践の世界へ、スポンサーシップビジネスに本格的に携わっていく形になりました。また、放送権、スポンサーシップ権、商品化権など、一通りの権利ビジネスを経験させていただきましたが、その過程で、スポンサーシップのビジネスを専門的かつ多面的により深く捉えていきたいという思いがより強くなり、転職を重ねながら効果測定の方法を学んだり、ブランド側とスポーツコンテンツ側のエージェンシーという立場で仕事をしてきました。現在はCFGという、マンチェスター・シティ(英国)をはじめニューヨーク・シティ(米国)やメルボルン・シティ(豪州)や横浜F・マリノス(日本)など11のサッカークラブで構成されるグローバルスポーツ組織の一員として、パートナーシップ・セールスを担当させていただいております。


近年のテクノロジーの急激な発展に伴い、欧米でのスポンサーシップは戦略的なパートナーシップへと変容しているとも言われています。西脇さんのご認識として、テクノロジーの発展に伴いスポンサーシップはどのように変化してきていますでしょうか?

私自身、スポンサーシップの仕事は10年ほどの期間でしか携わっていませんが、スポンサーシップにおけるテクノロジー活用については、CFGに入ってから認識が高まりました。Amazonさんがマンチェスター・シティを題材に制作したドキュメンタリー映像『ALL OR NOTHING』はとても印象的な事例でした。我々のコンテンツによって彼らのプラットフォームが加速し、実際の我々のセールスグロースにも繋がる。ファンエンゲージメントの文脈が多いですが、テクノロジー企業とは数多く協業しています。

その他にテクノロジーを活用した事例としては、コロナ禍で無観客試合になりファンとの分断が進み、試合のコンテンツ価値が減ってしまう環境下で、どうやってお客さんと繋がっていこうかというところで、CiscoさんのWebexというオンラインツールを我々のファンエンゲージメントに活用させていただきました。『Blue Moon』という代表的な応援ソングがあるのですが、それをファンの人たちがWebexのシステムを使って選手へ声を届ける取り組みです。また、Intelさんのテクノロジーを使って360度、様々な角度でリプレイを見られるコンテンツも実施させて頂きました。

またコロナ禍で特にDXという言葉が流行ったように、最近はトークンやNFT、メタバースといった領域がバズワードになっています。この数年は、テック企業がスポーツのスポンサーシップを活用して独自のテクノロジーをスポーツ組織側に統合させショーケーシングとしてブランディングしていく流れが盛んになりましたが、これらの領域は今後それ単体でビジネスとして成立していく可能性もあり、まさに「パートナーシップ・共創」という側面が加速していくと思います。

シティ・フットボール・グループ 西脇智洋氏 【シティ・フットボール・グループ】

経営課題解決型のパートナーシップとは?

日本でもスポンサーシップが多様化しており、広告掲出などの露出型のスポンサーシップだけでなく、企業とスポーツチームが協働して企業の経営課題解決に活用し、企業価値の向上に繋げるという経営課題解決型や、広く社会全体の課題解決を目的とする社会課題解決型のパートナーシップ事例も増えてきています。そんな中で、西脇さんとしては、企業がスポーツチームと協働するメリットはどのような点にあるとお考えでしょうか?

水質計測機器の事業をしているXylemさんとマンチェスター・シティは「2050年までに世界が水不足になってしまう」という社会問題に対して、社会を変革していく次世代のヤングリーダーを育成しながら、社会課題解決プログラムを一緒に実践しています。Xylemさんとしては企業としての姿勢をマンチェスター・シティーを使って世の中に伝えていくことでブランディングを図っている訳です。世界的なスポーツチームを触媒にすることで、企業活動の延長線上ではリーチできなかった層に声が届くようになるのは一つのメリットだと思います。

世界中の多くの人が親しんでいるスポーツだからこそ、スポーツ団体が気候問題やその他社会問題に対してアクションしていくと身近に感じられますし、なぜアクションしていくのかという背景もスポーツを通じて人々にインプットされるので、結果として社会問題への理解が深まりやすいと思います。

サステナブルな社会をどう作っていくかと考えたときに、次の世代を担う若い人たちが社会問題を認識して、リーダーシップを持ってアプローチしていくことが非常に重要だと思います。また、そのような教育プログラムを通じて、SDGsの文脈とテクノロジーが交わるとより面白くなると考えていてます。

特に近年はSDGsへの貢献などのサステナビリティを企業が重要視する傾向がありますが、スポーツでもサステナビリティの実現に向けた取り組みが行われる流れがあるのでしょうか。

間違いなく、その流れはあると思います。先程のXylemさんのケースのように、パートナーシップの目的の一つとして社会問題に対してアクションするケースは増えています。また、スポーツ団体側も変わってきています。最近ではプレミアリーグが国連の行っている気候変動のフレームワークにサインして、「CO2を2030年までに50%削減、2040年までに0%にしよう」といったニュースもありました。マンチェスター・シティー自身もサステナビリティーの部署があり、我々も積極的に環境問題にアプローチしています。自分たちのリソースで対応できない部分でパートナー企業の力を借りながら、一緒に課題を解決していくような座組みのパートナーシップは今後どんどん増やしていきたい。世界各地で山積みになっている社会問題に対して日本の企業さんと我々が手を組み、問題解決にトライしていくパートナーシップをご提案させて頂いております。

なぜ、マンチェスター・シティーと組むのか。

海外のスポーツチームであるマンチェスター・シティが日本企業に価値を感じてもらい、スポンサーやパートナーになってもらうことはハードルが高いのではと思いますが、企業への営業や提案の際に工夫されている点はありますか?

仰る通り、国境を超えるグローバル・パートナーシップ・ビジネスは非常に難易度が高いと思っています。私自身、CFG傘下にある11クラブのパートナーシップのセールスを担当していますが、特にマンチェスター・シティーのグローバルパートナーシップ案件を3年間のうちに成立することを目標の1つに掲げていました。この3年間は苦労することも多かったですが、先日、ソニーグループ様とメタバースの分野でのイノベーティブなグローバル・パートナーシップ契約を締結することができました。この取り組みは、まさに、企業側とチーム側が双方のアセットを組み合わせ協働することで双方の経営課題を解決する先進的なパートナーシップになります。ぜひ今後の活動にご注目頂けたら嬉しいですね。

スポンサーシップの提案の話ですが、マーケティングで使える権利の部分に目が行きがちですが、まずは「なぜマンチェスター・シティーとパートナーシップを組むべきなのか」、その理由が完璧に腹落ちしている状態を作ることが最重要だと考えています。パートナーシップの契約をした後は様々なアクティベーションを実施していくことになるので、なぜこの企業とマンチェスター・シティーが組んでいるのかというストーリーや意義が常に問われるわけです。営業の場面では、企業のフィロソフィーやブランドパーパスをしっかりと捉えた上で、我々のアセットを使ってどんなパートナーシップを実現したいのか企画提案しています。企業としても大きなインベストメントになるので、海外クラブのプラットフォームを使ってもらうとどんなメリットがあるのかを理解いただけるようにご説明しています。そういう意味では、自分たちのクラブの特徴やポジショニングがしっかり定義されていて、それを100%理解できていなければ質の高い提案はできないと考えています。


企業への具体的な提案においては、フィロソフィーや企業理念の側面からアプローチされるのか、企業課題を具体的に解決するアクティベーションの側面からアプローチされるのか、という部分ではどちらなのでしょうか?

まずは企業理念です。志や価値観が、我々のクラブが目指す方向と合致しているのかどうかが重要です。例え完璧に合致していなかったとしても、彼ら企業側のパーパスに対して私らが貢献できるアセットを持っているのかを棚卸して、丁寧に擦り合わせながら提案を進めていきます。大前提はフィロソフィー(理念)のレベルでどのような親和性があるのかが重要だと思います。

契約締結後、パートナーシップは最低でも3年以上は続きます。クラブやチームのプロパティは、企業が企画実行するアクティベーションに対して柔軟に対応できる点が強みですが、数ある選択肢の中からなぜそのクラブ、チームでなければならないのか、パートナーシップ・フイットを明確にしなければいけません。一方、大会やリーグだと特定のスポーツ全体を後押しすることが一般的な理由になり、フイットの精度はそこまで求められません。数多くあるサッカークラブの中から特定のクラブへ投資するストーリー作りは非常に難易度が高いですが、仮にフイットの度合いが強いパートナーシップを組めれば、そのパートナーシップのストーリーは、大会やリーグのパートナーシップのそれと比較してはるかに力強いものになります。そこが、チームスポンサーシップの魅力ですね。

直近過去10年で5回プレミアリーグの優勝を成し遂げたマンチェスター・シティのサッカー、ラインを高く保ち、前へ前へ常に攻撃的にプレーするスタイルをグループ傘下の11の全てのサッカークラブで展開しています。我々はこのスタイルをビューティーフル・フットボールと呼んでいます。今シーズンの結果としても、11クラブ中5クラブが自国のリーグで優勝をすることができました。そして、ピッチ上だけでなく、ビジネスの場面でも、企業のグローバル・ローカルレベルのニーズに合わせながら11クラブのプロパティを複合的に組み合わせたパートナーシップビジネスを展開しています。例えば、マンチェスター・シティーというグローバルなプラットフォームとムンバイ・シティという今後成長が見込まれるローカルコンテンツを組み合わせることで、企業のニーズに対して深みのある取り組みが可能となります。さらに、国や地域の社会課題を解決するソーシャルグッド・プログラムを世界25ヶ所以上で実行しているフットボールクラブでもあります。CFGの特徴は、まさに、こうしたイノベーティブなアプローチができるところだと考えており、パートナーシップビジネスにも活かされています。

現在は約50社のパートナー企業(日本企業も3社)がいますが、契約更新率は75%程度となっています。他のヨーロッパクラブよりも最も高い結果を得られているひとつの要因に、パートナーシップビジネスの進め方があると思います。特徴としては、パートナーシップの契約前に、パートナー企業の価値感や理念、このパートナーシップ契約によって実現したい目的、その目的に沿ったKPIのすり合わせをするためのセッションを設けさせて頂いております。契約後も、目的に沿ったアクティベーションのアイデアを出して、パートナー企業と一緒にプランニングを進めています。こうしたプロセスを可能にする組織体制面が強みです。日本マーケットのために、自分も含めて3人の日本人を配置しているのもその表れかと思います。こうしたプロフェッショナルな体制面の結果として、他のヨーロッパクラブと比べて、最もアクティベーション・アワードを獲得したクラブになっています。

シティ・フットボール・グループ 西脇智洋氏 【シティ・フットボール・グループ】

日本と海外のスポンサーシップ契約の進め方の違い

マンチェスター・シティがスポンサー契約を締結されるまでのプロセスと、その中での弁護士の役割について教えて頂けますでしょうか。

営業・セールスのプロセスで言うとリードを取って、興味関心を作り、プレゼンテーションを行い、合意を形成し、基本契約の締結、本契約書の締結と進んでいきますが、リード獲得や提案の段階では、そこまで弁護士の知識やサポートは必要ないと感じます。一方で、当たり前ですが、本契約の締結プロセスにおいては、細かい条件面での交渉場面がかなり増えるので、当然スポンサーシップビジネスに精通した弁護士の力を全面的に借りて進めています。また、新しいビジネススキームを取り入れたり、スポンサーシップビジネスの大枠に関わることに関しては、弁護士のサポートは必要でしょう。


マンチェスター・シティが企業と締結されているスポンサー契約書は日本で通常クラブが締結する契約書よりはるかに分量が多く複雑であると伺いましたが、マンチェスター・シティにはスポンサーシップに精通している弁護士が在籍しているのでしょうか?

もちろん、スポンサーシップビジネスに精通した弁護士はいます。場面によって、例えば、契約カテゴリーをどうすべきか等については、弁護士も含めて多くの内部関係者と協議します。また、基本的な流れとしては、パートナーシップの目的やアクティベーションアイデアを明確にしていき、最終的に出てくるのが権利の部分になってきます。その情報をまとめた基本合意書をまず締結していく形です。

本契約書では、権利1つ1つに対しての詳細の条件などを明記していきますが、パートナー企業とは特にアクティベーションの定義などを入念にすり合わせています。アクティベーションは企業側がコストをかけて行うものだということは意外と理解されていないケースも多く、アクティベーションの定義を理解いただくことにも注力しています。

細かい1個1個の権利に対して、どの権利が本来的に企業側にて活用されるものなのか、どの権利がマンチェスター・シティ側で準備するのか細かい点も確認されますし、また、アクティベーションのコストがどこまでの範囲かという細かく定めいます。本契約書の中で「定義」に割くページはとても多く、本契約書全体のページ数も50ページ程ありますね。


日本のスポンサーシップの現場では、営業担当の方が雛形をベースに作った契約書を弁護士が最後にネガティブチェックのみを行う場合が多いと認識しています。欧米のスポンサーシップの現場では弁護士がやれる領域はより広いと思いますが、いかがでしょうか?

まず、マンチェスター・シティのスポンサーシップに関しては、契約書のドラフトは営業側では作成せず、マンチェスターにいる弁護士にて作成します。また、マンチェスター・シティのスポンサーシップでは必ず基本合意書を締結するステップが存在する点が、日本のスポンサーシップ契約の進め方と大きく異なります。基本合意書を結んでから、そこで明記されている項目をベースとしたロングフォームのスポンサーシップ契約を締結する流れになっています。日本では提案書を出して、提案書で合意したものを本契約書に移していく進め方が一般的ですよね。


日本では、例えばM&Aの場合は基本合意書を締結する場合が多いですが、スポンサー契約の場合に基本合意書を締結するケースはほとんどないと思います。西脇さんとしては、スポンサーシップにおいて基本契約書を締結することのお互いのメリットはどこにあるとお考えでしょうか?

我々の基本合意書には法廷拘束力がないと明記していますが、今までのアクティベーションの議論をもとに、最終的にどのような権利が必要なのか、早い段階で契約書の形でお互いに合意形成を図れることがメリットだと思っています。その基本合意に法的拘束力を持たせるかどうかは決めの問題ですが、どちらにしてもサインは行うので、法的拘束力はないものの心理的なコミット感は出てきます。当然、法務チェックもその段階で入ります。
基本合意書を締結すると、何を契約するのか骨子の部分がより明確になるので、日本の企業さんにとっても丁寧なステップになると思いますね。

マンチェスター・シティの本拠地 エティハド・スタジアム 【シティ・フットボール・グループ】

コロナ禍で競争が激化するスポンサーシップビジネス

今後の課題として、コロナ禍を機に企業がスポンサーとしてスポーツに対して投資する価値や意義が見直されており、具体的な成果が求められる傾向がより顕著になっています。そんな中、スポンサーシップの効果測定が重要なテーマになっていますが、西脇さんはスポンサーシップの効果測定についてどのようにお考えでしょうか?

マンチェスター・シティにおいては、基本的にはROI、ROOの考え方に基づいたスポンサーシップの効果測定を行っています。ROIはメディア的な側面を基準にすることが多いです。テレビなのかSNSなのか、オンラインなのかオフラインなのか、各メディア露出でのリターンがどれぐらいあったのかを測ります。最近はデジタルが主流なので、どれだけエンゲージメントがあったのかといった数値的な部分も計測の対象となります。

もう一つはROO、つまりパートナー企業が何を目的として、このパートナーシップに取り組んでいるのかという部分を、我々自身も調査しています。企業から事前に目的を聞いて、その目的に紐づいたKPIを一緒に作るケースもあり、何を評価指標にしますかという部分からご一緒しています。

実際には、我々自身が調査するパターンとパートナー企業が独自にリサーチをかける場合の2パターンがありますが、パートナーシップにどれくらいの効果があったのかを測定していきます。ブランド認知を指標に計測していくのか、ブランド理解までを指標にするのか、スポンサーシップを知っている人と知っていない人ではどのくらいブランドに対して好意度に乖離があるかというところを調べたりと、業種業態やパートナーシップの目的によってさまざまなケースがあります。我々としても、数多くのケースが溜まってきているので、見込まれるビジネスインパクトというのを事前に可視化できるようになってくると思います。


昔は、日本企業が欧州のサッカーチームのユニフォームの胸部分に社名が載ること(胸スポンサー)に価値を見出して高額な投資をしていた事例がみられたように思います。しかし、日本企業がそのような事例において十分な投資効果を見い出すことができなかった点や、提案を受けても社内で投資価値を説明できないという点が、日本企業による欧州サッカーチームの胸スポンサーに対する投資が進んでいない一因とも考えているのですが、西脇さんは胸スポンサーの投資価値についてどのようにお考えでしょうか?

胸スポンサーの1番の効果はブランドをグローバルに知らしめることができるという、そこへのインパクトが一番大きいと思います。マーケットリーダーとしてのポジション獲得ですよね。ですので、ブランドのROIでは何十倍という効果が出るわけです。ただブランド認知を広げた後に、BtoCの企業であれば効果的なコミュニケーションを行い、生活者を惹きつけ購買増に繋げることができるのかが重要になります。また、BtoBであれば最終的なプロダクトセールスに繋げていく必要があります。それらは胸にブランドロゴを掲出する権利だけでは実現できません。胸スポンサーというトップティアだからこそ獲得できる非常にユニークなその他の権利を活用することではじめて可能になります。

胸スポンサーは高額な投資判断になるので、評価指標はROIだけではなく、複数の目的を設定しROOの観点からも多面的に評価する必要があります。また、我々のようなチームの胸スポンサーになることでグローバルだけでなくローカルにも根ざしたコミュニケーションが可能になるのは、唯一無二の機会です。ただ、グローバルでの認知という面では効果的ということは間違いないですが、誰しもが知っている企業が胸スポンサーをする理由はあまりないですよね。コロナ禍で新しく発表された他チームの胸スポンサーの企業を見ると、メジャーブランドではなく新しい産業やスタートアップの企業が並んでいることからも、その点は一目瞭然です。そして、何より重要なことが消費者が機能的なメリットではなく、情緒的である面を重要視している点です。胸スポンサーになるというのは、本質的にどういうことなのか?パーパスが謳われている時代なだけにここが問われていると思いいます。


今後どういった日本企業が海外チームとのパートナーシップによって利益を享受できると思いますか?

コロナ禍に人々の行動洋式がかなりデジタルにシフトしたので、テクノロジー企業とのスポンサーシップは今後増えていくのだろうと思います。加えて健康への意識も高まっているのでそのような企業とのコラボレーションも増えていきそうです。

スポンサーシップビジネスはクライアントの業種や企業に限らず、コロナになってより一層競争が激しくなっていると感じます。企業の投資判断やその効果測定など、スポンサーシップによるインパクトをきちんと可視化できることがよりシビアに求められていると感じます。また、試合以外の場面でもパートナー企業側のストーリーをどのように具現化できるのかが重要です。

この環境下でパートナー企業とファンの関係を強固なものにしていくためには、より創造的なアプローチが必要と感じています。また、ファンから共感を得て、ファンとの関係を強くしていくためにも、パートナーシップの取り組みの先進性やメッセージ性が求められています。もちろん、それを表現するクリエイティブも大切だと思います。特に、コミュニケーションはどんどんデジタルになっていくので、デジタル上でのクリエイティブの質の向上はマストですよね。我々もクリエイティブを最高の環境で作ることを目的に、マンチェスター・シティのトレーニング施設に併設する形でスタジオを作りました。


最後に、西脇さん個人のビジョンや目標について教えてください。

マンチェスター・シティのパートナービジネスを通じて、自分なりに掲げているミッションは、日本企業ひいては日本人のプレゼンスをグローバルに伝えていきたいということです。また今回オファーいただいたインタビューしかり、様々なメディアで発信するのも日本のスポンサーシップのビジネスをより夢のある仕事、サステナブルなビジネスにしていくためだったりします。そのためにも、チーム側と企業側双方にあるべき姿を伝えていきたいと考えています。

スポンサーシップビジネスを拡張していくためには、スポンサーシップの特性を深く理解していることに加え、人的ネットワークがあるということが重要です。ディシジョンメーカーが誰なのか、キーマンが誰なのか、そのキーマンがどの企業からどの企業へ転職したか等、あらゆる情報を含めたネットワーク資産が共有化されているかと言われると、現状そうではありません。その点でも、フラットな中立的な環境でスポンサーシップビジネスに興味がある人が多方面から集まる良質なコミュニティーをどう作っていくのかが重要だと思っています。そのような意味でもSPOTRTS TECH TOKYOさんは良いベンチマークとしていつも参考にさせていただいています。同じような志の方がいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡を頂けますと幸いです。
インタビューアー:稲垣 弘則
西村あさひ法律事務所・弁護士。2007年同志社大学法学部卒業、2009年京都大学法科大学院修了、2010年弁護士登録。2017年南カリフォルニア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2017年〜2018年ロサンゼルスのSheppard, Mullin, Richter & Hampton LLP勤務。2018年〜2020年パシフィックリーグマーケティング株式会社出向、2019年〜SPORTS TECH TOKYOメンター、2020年〜INNOVATION LEAGUE ACCELERATIONメンター、2021年〜経済産業省・スポーツ庁「スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」委員。スポーツビジネスにおける実務経験を活かしつつ、日本企業やスタートアップを含めたあらゆるステークホルダーに対してスポーツビジネス関連のアドバイスを提供している。

執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。

執筆協力:大金拳一郎
1997年生まれ。フリーランスのフォトグラファーとしてスポーツを中心に撮影。競技を問わず様々なシーンを追いかけている。その傍ら執筆活動も行なっており、スポーツの魅力と美しさを伝えるために活動をしている。
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著者プロフィール

SPORTS TECH TOKYO

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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