【浦和レッズスペシャルインタビュー】試合から遠ざかる『浦和のエース』興梠慎三の今、そして胸に宿す愛
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興梠慎三がボレーシュートを放つ姿を見ていた宇賀神友弥が、微かに笑みを浮かべながらつぶやいた。
「むちみたいだな」
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思い切り振るのではなく、速く振ることを意識する。ボールを当てる位置はアウトサイド、かかとの外側のイメージだ。
だが、最も重要なことは、天武の才とも言える要素だ。
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だから練習すれば誰にでもできるわけではない。
「みんな言うんだよね、『あれをやりたいけどできない』って。俺しかできないだろうね」
当たったボールは本人もどこに飛ぶのか分からないことがある。だからGKが分かるはずもない。主な狙いは、振りに反して速度が遅く、GKのタイミングを外しながら頭を越えるシュート。だが、時にとてつもないスピードでゴールネットに突き刺さることもある。
「それは完璧にミートしたときだね」
そのシュートで完璧にミートされてゴールの隅に飛んだボールをセーブできるGKは、日本だけではなく世界を探してもいないだろう。
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年間2桁ゴールは昨年で9年連続となり、記録を更新。そもそも8年連続も自らが作ったJリーグ最長記録だった。
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そのエースが、苦しんでいる。
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昨年12月に右腓骨筋腱脱臼の重傷を負い、手術を行った。接触プレーによる仕方のないケガだったが、手術の影響で今年の1月から2月にかけて行われたトレーニングキャンプでは別メニュー調整が続き、チームに復帰した後も出場時間は限られた。
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出場機会についてリカルド ロドリゲス監督と話したことはないのか?そう問われると興梠は、その質問自体に不満があるかのように表情を曇らせ、こう言い放った。
「逆に監督に言いに行って試合に出られるようになったら、それはそれでどうなのかなと思う」
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若手とはあまり話さない。だが、小泉佳穂の様子がどうしても気になった。最近の試合で自分の力を出し切れていない小泉は、見るからに落ち込んでいた。だから声をかけた。
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ミスが多くなるとボールをもらいたがらなくなる選手も少なくない。だが、小泉はミスが続いてもボールを引き出し続けた。その姿は興梠の目にもたくましく映った。
「確かにミスは多かった。でも、お前の気持ちが折れずに、それでもボールを引き出そうとし続けていたのは良かったよ。ミスが多いなんてこと、何試合もやっていれば必ずあること。そんなに落ち込むことでもないし、そこからボールを受けなくなったら終わりだぞ」
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興梠は、「あいつはあいつで頑固なところがあるので、どう受け止めるか分かりませんが」と笑いながら、表情を緩めながら続けた。
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興梠自身がそうだった。かつて前線の起点になり、ポストプレーヤーとしての役割を一身に負っていたとき、ミスが失点に直結したことは一度や二度ではなかった。それでも興梠はボールを受けることをやめなかった。やめないどころか、必ず結果で名誉を挽回した。
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ピッチでは異彩を放つが、サッカーから離れれば、インターネットのこともよく分からない。ビデオ・オン・デマンド・ストリーミングは契約しているし、アニメを見ることが家での時間の過ごし方の一つだが、エラーが起きれば簡単なことも自分では解決できない。
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「へへへへへ」
それを伝え聞くと照れくさそうに笑った。
「自分が試合に出られなくてもこうやって冷静にいられるのは、そういうファン・サポーターがいるからかもしれないですね」
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しかし、そんなときに脳裏に浮かぶのは、愛する家族の顔であり、愛するレッズのファン・サポーター、真っ赤に染まった埼玉スタジアムのスタンドだ。
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訂正しなければならない。興梠が「浦和のエース」と呼ばれるのは、単に数多くのゴールを決め、何度も勝利をもたらしてきたからではなかった。応援という恩を結果で返してきたからだ。チームのために、応援してくれる人たちのために、浦和のために、満身創痍の体で文字通りに身を粉にしてでも闘ってきたからだ。
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昨年の新型コロナウイルス感染拡大の影響による自粛期間中には、馴染みの飲食店が困っていることを聞き、少しでも売り上げに貢献できたらとさまざまな店をまわり、テイクアウトする日々を過ごした。
無骨で不器用なアナログ人間、だけど真っ直ぐに受けた愛情を愚直に応えてきた。
「僕もレッズに来て9年目になりましたし、鹿島より長くレッズにいます。でも鹿島にいたときの方がタイトルを獲っていました。だから、タイトルの数でも上回りたい。個人の成績はレッズに来てからの方が上ですけど、チームを考えたときにやっぱりタイトルが少ないので、タイトルは多く獲りたいですよね」
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「やりたいですね。出たいです」
言葉は短かったが、思いは深い。
J1リーグは残り6試合。天皇杯は決勝に行けば残り3試合。22日に埼玉スタジアムで行われる明治安田生命J1リーグ 第33節 柏レイソル戦【MATCH PARTNER メディカル・ケア・サービス】に出場できるかどうかは分からない。自身は、その可能性は決して高くないと感じている。
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「現状よりもコンディションを落とさないようにしないといけないとずっと思っています。試合に出られなかったら、試合に出ている選手たちよりもトレーニングしないといけないと思いますし」
特長の一つである相手のディフェンスラインの背後に抜け出すスピード、切り返しの深さと鋭さは増してきている。試合に出ていなくても、コンディションは維持するどころか、上がっている印象だ。
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「俺が試合に出てゴールを決めます、と言いたいよね」
興梠らしい、興梠にしか決められないゴールを決め、チームや応援してくれる人々に変わらぬ愛を伝えられることを期している。
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