もう“未完の大器”とは言わせない。力と技を兼ね備えた「世紀末覇者」杉本裕太郎、覚醒の理由は?
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プロ6年目・30歳のシーズン、4番を務めるまでに急成長
中嶋聡監督の昇格が、杉本選手にとっても大きな転機に
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2018年終了時点で、一軍で記録した5本の安打が全て長打という驚きの成績に。その一方で打率は低く、プロ入りからしばらくは、当たれば飛ぶが確実性に欠ける部分も目立っていた。その影響もあって2019年までは一軍定着を果たせず、いわば「未完の大器」となりつつあった。
しかし、2019年途中から中嶋聡二軍監督(当時)が一軍の監督代行に昇格したことが、杉本選手にとっても転機となった。二軍で指導を受けていた中嶋監督の就任後に一軍で重用されるようになると、課題だった確実性にも改善がみられるように。同年は本塁打こそ2本にとどまったものの、打率や安打といた各種の数字は、過去5年間における自己最多の数字を記録した。
そして、2021年は元来の持ち味だった長打力も復活し、先述の通りにすばらしい活躍を披露。昨季に引き続いて高い出塁率を記録しているだけでなく、長打率も.500を超える高水準で推移。各種指標の面でも、主軸の座に相応しい成績を記録している。
2020年の課題だったハイボールへの打率が、2021年は大きく向上
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その一方で、2020年は高め以外の内角のストライクゾーンは2カ所とも打率.500以上と、インコースを得意とする傾向にあった。今季は前年に得意とした内角低めに対する打率は大きく下がっているが、外角のボールに対しては、ボールゾーンに落ちる球も含めて、いずれも一定以上の数字を記録している。
それに加えて、アウトコースのボール球に対しては、コースの高低を問わずに優れた打率を記録している。こうした傾向から、長いリーチを生かしてボールコースの遠い球でも安打にできるという、新たな特色を獲得しつつあることが見えてくる。前年は苦手としていた低めのボール球への対応力も向上し、より打ち取りづらい打者となっている。
速い変化球への対応力に加え、速球そのものにも強くなりつつある
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また、昨季は苦手としたカーブやスライダーに対しても、今季はそれぞれ一定以上の数字を記録。一方でフォークとチェンジアップの2球種は打率を落としているが、苦戦していた球種を克服しつつある点は、杉本選手の対応力や向上心の高さを示しているとも考えられる。また、2年続けて打率が極端に悪く、継続して課題となり続けている球種が1つも存在しないことは、それだけ弱点が少ないということにもなるだろう。
引っ張っての本塁打が増えた一方で、長距離砲としての引き出しも増加している
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同様に、これまで杉本選手が本塁打を記録した球種と、本塁打の打球方向についても確認したい。
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打球方向に目を向けると、レフトへ引っ張って本塁打にする数の増加が目に付く。この点は杉本選手のパワーがより生きるようになったことの証明だが、2020年まではわずか1本だった右方向への本塁打が、今季は6月上旬の時点で既に3本記録されている点も見逃せない。
ライトへ流して打った3本塁打は、いずれも速球を打って記録したもの。コースの面でもアウトコースが2つ、真ん中高めが1つと、先ほど紹介した今季の得意コースの傾向に合致するものだ。引っ張るだけでなく、流し打ちでも持ち前のパワーが打球に伝わるようになった点にも、杉本選手の打撃の進化が如実に表れている。
杉本選手の進化は、各種の対応力が向上したことの表れでもある
大卒社会人として、ドラフト10位という指名順位でプロ入りしてから6年。急成長を遂げて主力の座へと這い上がった杉本選手は、その巨躯どうりの大器としての才能を、ついに花開かせた。「ラオウ」の愛称よろしく相手バッテリーへ恐怖を与える迫力満点の打棒を武器に、今後も打撃タイトルを争うような活躍を見せ、オリックスの主軸として覇を唱えられるか、ファンならずとも要注目だ。
文・望月遼太
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