２０１３年１１月３日の事を佐々木朗希投手は、はっきりと覚えている。誕生日だったからではない。その日、楽天ゴールデンイーグルスが読売ジャイアンツを破り、初の日本一となった。マウンドには楽天のエース　田中将大投手がいた。１１年の東日本大震災から復興に向けて頑張っていた多くの日本人はこの時、プロ野球に感動し、勇気をもらった。震災の影響を受け、岩手で仮設住宅暮らしだった当時の佐々木はテレビでこの試合を見ている。

　「目標としている選手は田中将大投手です」

　２０１９年１２月の入団会見で憧れの選手を聞かれた佐々木朗希は田中将大投手の名前を挙げた。子供の時代に田中将大投手のレプリカユニホームを買ってもらい、その後も大事にしてきた若者にとって、それは必然の回答だった。震災直後に東北を本拠地とする楽天で活躍したエース。震災の１１年は１９勝。そして１３年は２４勝無敗という圧倒的な成績を挙げ、球団創設初のリーグ優勝に導くと日本シリーズでも活躍をした。

　特に両軍王手で迎えた日本シリーズ第７戦は伝説の試合となり、東北の人々の心に残っている。楽天３点リードで最終回となり前日の第６戦で１６０球を投げながら完投負けを喫していた田中が最終回のマウンドに姿を現した。まさかの連投。それは東北へのエールを込めた投球だった。その時の幼き思い出は今も佐々木の胸の中に鮮明に残っている。

　「震災で普通の事が普通ではないと知りました。お風呂に入る事や食事、学校に通う事。野球をすること。普通だと思っていたことがそうではなくなった。今でも普通の生活が出来ない人が沢山いる。野球が出来る今の幸せをしっかりと感じながら投げたいと思います」

　そう話す佐々木朗希の視線の先にはあの日、震災から２年後の誕生日に目にした田中の魂の投球がある。絶対的エース。チームを勝利に導く存在。そしてマウンドに上がる事で見ている人の心を動かし、感動を提供できる偉大さ。その投球に多くの人は悲しみを希望へと転換させた。楽天ファン、野球好きの人だけではなく日本人の心を揺らした。

　「これまで多くの人に支えてもらいました。そして助けてもらいました。日本だけではなく世界中の人に支えられました。自分は野球で恩返しをしたいと思っています」

　目標は明確であり目指す姿は具体的だ。子供の時に田中将大から夢をもらったように、今度は自分自身が多くの子供たちの夢となりたい。２０２１年５月１６日、佐々木朗希が一軍公式戦のマウンドに初めて上がる。背番号「１７」の挑戦が始まる。

文　千葉ロッテマリーンズ広報室　梶原　紀章