エヴェラウドの原動力とは。クリスティアーノ・ロナウドのゴールパフォーマンスに込める親子の絆。

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

 エヴェラウドにとって、もっともシビアで身近な評論家への恩返しだった。

 10月24日、明治安田生命J1リーグ第24節サンフレッチェ広島戦。

 後半31分、自陣にいた三竿健斗からのロングフィードを胸でトラップして相手DFと入れ替わると、右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。サポーターの前で高く飛んでから、仁王立ちのゴールパフォーマンス。

 試合後は場内を一周してサポーターに感謝の意を示した。メインスタンドに差しかかったときのこと。エヴェラウドの視界に観客席で懸命に手を振る4歳の息子の姿が見えた。彼に向かって、もう一度ゴールパフォーマンス。その瞬間、カシマスタジアムはゴールの余韻を感じさせる大きな歓声が再度起きた。

「4歳の息子はクリスティアーノ・ロナウド選手がものすごく好きで、毎日動画を見ているし、ゴールパフォーマンスをよくマネしているんです。その息子から“次に点を決めたらそのパフォーマンスをしてほしい”とリクエストがありました。日本に来ていろいろと慣れないことも多く大変であろう彼を喜ばせることができないかと思い、あのパフォーマンスをしました。あの日はインタビューを受けてサポーターに挨拶をして、家族が見ているところで投げキスをしたら、息子がまた同じパフォーマンスをやっていた。だから、僕もやったらサポーターの皆さんからも歓声をいただいたんです」

 異国で暮らすことの難しさ。エヴェラウド自身、これまでメキシコ、サウジアラビアでのプレーを経験している。まだ幼少期の子どもに対して心配する父親の顔が見える。

「息子は、僕にとって一番シビアな評論家。ミスをしたらかなり怒って指摘をされるし、得点できなければこうした方がいいと言われる。逆にいいプレーをすれば、ほめてくれるし喜んでくれる。僕にとってはかけがえのない相棒です」

 家族を支え、支えられることで、自身のプレーの充実へとつながっている。

リーグ3位となる4ゴールを奪っているヘディングゴールは相手の脅威になっている 【©KASHIMA ANTLERS】

献身的プレーの理由

 2020明治安田生命J1リーグ16ゴール、得点ランク2位(第29節終了時点)。得点を取ればチームは負け知らず、11勝3分。エヴェラウドは1年目にして結果を残し続けている。

 ピッチ上では、前線から恵まれた体躯を生かしてチームのためにチェイシングする姿が、目に焼き付いている方も多いことだろう。活躍した選手を対象に行う試合後のメディア向けオンライン取材では、決まって「自らのゴールよりもチームの勝利がうれしい」と口にする。この献身的な姿勢の背景には、プロになる前の経験が起因しているという。

「僕はもともと裕福な家庭ではなかったので、いつも土の道路にサンダルを置いてゴールに見立ててサッカーをしていました。そこでさまざまなドリブルやボールタッチ、ずる賢さなどクリエイティブなプレーを学びました。それからブラジル国内のチームに入ったわけですが、そこで一番学んだのが、“サッカーが団体スポーツである以上、チームが勝つこと、チーム一丸となることが大切”ということでした。チームが活躍すれば、自然と個に注目が集まる。この考えをプロになる前に学べたのは大きかったと思います」

 FWというポジション柄、ときにエゴイスティックなプレーが求められるもの。ただ、それだけでは結果が出ないという考えが、自身の経験から染み付いている。いつも自らに目を向けて努力し続ける。試合になればチームのために戦い続ける。その先に、自らの評価はついてくるものだと。

「僕自身、“プロになるんだ”と、まず自分に言い聞かせることから始めました。15歳くらいのときですかね。ブラジルでは18歳が成人なのですが、それまでにサッカー選手になると決めた。自信というよりも、自分に要求し続けた結果です。それは忘れずに常に心がけていることです」

いつもカシマスタジアムへ見に来てくれる、家族が支えに 【©KASHIMA ANTLERS】

愛息の”お手本”であり続けるために

 どんな状況でも、常に今以上を目指す。その姿勢はアントラーズに加入してからも変わらない。今シーズン初めは結果が出なくて苦しい時期もあったが、日々チームメートと相互理解を進めることによって、状況は上向いた。

「すべては練習で全力を尽くすことだと思います。確かにシーズン当初は僕自身、チームや日本のサッカーにフィットしていませんでした。期待されている結果を出せなかったけれど、(新型コロナウイルス感染症による)中断期間にみんながお互いを理解することができた。その意味では時間が解決したとも言えるかもしれません。ただ序盤のとき、調子が悪いからといって僕は練習を怠らずに続けてきました。やるべきことをやり続ければ身になる。きちんとやり続けるということは、サッカーの世界では鉄則。中途半端に練習をしている選手はケガをしたり、結果が出ないもの。僕自身、サッカー選手でありながら1人の父親です。子どもたちには、どんなことでも手を抜かずに取り組んでほしい、そうあってほしいと思っています。僕がどういう振る舞いをするかが、今後の彼らの人生において大事になってくる。彼らにとって僕はお手本となる存在。その姿を見せ続けないといけません」

 今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、イレギュラーなシーズンとなっている。外出も制限され、リフレッシュできるのは、愛する2人の子どもと過ごす時間だ。

「2人ともまだ小さいので、エネルギーが有り余っていて、(ドラゴンボールの)スーパーサイヤ人のようなんです。試合で不在のときも多いので、一緒にいるときは、いつも元気玉のようにパワーをぶつけてもらっています」

 今季のリーグ戦も残り3試合となった。アントラーズは、そのすべてをホーム・カシマスタジアムで戦う。優勝は逃したものの、3位以上に与えられるAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得と2位で出場可能となる天皇杯の優勝を目指している。

 いつもカシマスタジアムのスタンドで見守る2人の愛息、ファン、サポーターの前で、背番号9は両手を広げ、雄叫びを上げることを誓う。チームの目標達成、そして、すべては勝利のために。


PROFILE
エヴェラウド。FW。1991年7月5日生まれ。 181cm、80kg。ブラジル出身。2020シーズンより鹿島アントラーズへ加入。右足、左足、ヘディングと、どこからでもゴールを狙える万能型ストライカー。母国ブラジルでプロデビュー。その後、サウジアラビア、メキシコでのプレー経験を持つ。
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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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