【サーフィン】五輪期間中の経済効果は10億円以上?サーフィン競技会場、千葉県一宮町の現在(後編)
【THE SURF NEWS】
2017年に東京都オリンピック・パラリンピック準備局が公表した試算結果によれば、東京五輪の経済波及効果は約32兆円。
競技会場の整備や大会運営に関わる直接的効果が約5.2兆円と、インフラ整備や会場利用、観光客数増加など大会後も続くレガシー効果の約27.1兆円の合計額となる。分析対象期間は2013年〜2030年となっており、その効果は大会後実に10年間続くとされている。
この東京大会で五輪デビューを果たすサーフィン。前編では会場となる志田下こと釣ヶ崎海岸を有する千葉県一宮町の現在の姿についてレポートしたが、今回は同町における経済効果について考えてみたい。
なお、五輪期間中の一宮町における経済効果について、一宮町が過去に行った調査結果と、THE SURF NEWSの聞き込み調査をもとに編集部で試算を行ったが、その範囲は五輪期間中の町内需要に限定しており、五輪後のサーファー客増や移住者数増などのレガシー効果は含んでいない。また、五輪本体の会場設営や運営、会場内での消費等も対象外としており、あくまでも「五輪期間中に町にどれくらいの効果があるのか」という観点から推計を試みた。
一宮町のサーフォノミクス、平常時の経済効果は年間32億円
そのサーファー達が町に来ることによる経済効果について、同町は2016年度に「一宮町サーフォノミクス調査」を行い、年間32億円と試算した。そのうち、サーファーからの直接消費が25億円、波及効果を7億円としている。
調査内容としては、海に来たサーファーに対してアンケートを行い、宿泊有無と居住地(県外・県内)で分類し、それぞれに町内での消費金額を尋ね、これを年間60万人の来訪サーファー数に当てはめた。
【(図)2016年度「一宮町サーフォノミクス調査」を元にTHE SURF NEWSが作成】
一方で、消費単価はサーファーの実感に比較的近い数値と思われる。町内での消費にはサーフショップでのレンタルや購入、お土産等も多少含まれるはずだが、大半のサーファーにとっては飲食代、駐車場代、ガソリン代、(宿泊客の場合はプラス宿泊代)が主な支出であることを考えれば、妥当な数値と言えそうだ。
五輪の経済効果
・宿泊料は大幅な値上がり
五輪期間中、特に宿泊料金は著しく値上がりしていることが分かっており、THE SURF NEWSは独自で聞き込み調査を行った。
一宮町が把握している町内14件の宿泊施設に、比較的客室数の多い新規ホテル等2件を加えて、全16件を対象に客室数・収容人数・宿泊単価を調査。今回、民泊は調査対象外とした。
合計すると約280室、880人が収容でき、2019年12月までに五輪期間中はほぼ全ての施設が満室だったことが分かっている。その殆どが大会関係者の予約とみられており、宿泊単価については大人一人1泊30000円前後の施設が多かった。
・観戦客による消費額
五輪の観戦客数は1日あたり6000名。町内の宿泊施設はほぼ関係者の予約で埋まっているため、一宮町にとっては観戦客=日帰り客として計算すると、8日間で1.2億円の消費があると試算できる。
観戦客数 6000人 × 競技日数 8日間 × 日帰単価 2500円 = 1.2億円
※消費単価は「一宮町サーフォノミクス調査」より平均値を算出
五輪の観戦客は、基本的に電車または車でJR上総一ノ宮駅に行き、そこから会場直通のシャトルバスに向かうことが想定されている。
観戦客は、サーファーではない人も多く含まれると予想され、サーファーであっても通常時よりはお土産や飲食代など多く消費すると考えられる。一方、交通手段などを考えると五輪会場内または駅周辺での消費に偏る可能性もあり、町にどれほどのお金が落ちるかは未知数だ。そこで、観戦客の消費単価は、一旦、上記調査の日帰単価平均額と同等と仮定した。(民泊や町外の宿泊施設などに泊まる観客もいるはずだが今回は割愛した)
外国人観光客からのリクエストを受けてSURF GARDENは鳥居をあしらったオリジナルキャップを制作 【THE SURF NEWS】
組織委員会によれば大会関係者数は約1000人おり、6億円超の消費を生むと試算できる。
具体的には、町内の宿泊施設の収容人数は880人程度であることから、880人を宿泊客、120人を日帰り客として計算。日帰り客は町外宿泊か地元ボランティアなどと想定する。また、関係者は7月後半〜8月上旬にかけて長期滞在をすることが分かっているため、訪問日数は21日間と仮置きする。
関係者・宿泊 (30000円+2500円)×880人×21日間=6億円
関係者・日帰 2500円×120人×21日間=630万円
※消費単価は「一宮町サーフォノミクス調査」より平均値を算出
釣ヶ崎海岸目の前のグランドヴィュー一宮は、大会組織委員会が一部の部屋を除き一棟借上げており、期間中は全室が2人部屋となり1泊1室5〜6万円と通常の10倍近い宿泊料が設定されていたが、周辺のホテルのなかには更に高い宿泊料を設定しているところもあった。
ちなみに、この宿泊予約は来年に繰り越しとなっていて、万が一中止になった場合は、キャンセル料が発生し組織委員会が支払うことになっているというが、今回の延期については特に変更費用等を徴収していない。延期決定後、通常の予約を受け付け始めたが埋まり切らず、今年春〜夏の売上は例年の2割にまで落ち込んでいるそうだ。
話を戻すと、大会関係者による町内での宿泊需要は長期間かつ高単価となり、それだけで約6億円の効果があると推定できる。
会場の釣ヶ崎海岸を一望できるグランドヴィュー一宮 【THE SURF NEWS】
単純計算ではあるが、上記を合計すると五輪期間中の直接的な町内需要は7.2億円。今回割愛した民泊需要や、町の調査における波及効果の割合などを加味すると一宮町内だけでも期間中に10億円近い効果があった可能性がある。
冒頭でも述べた通り、今回の試算はあくまでも五輪期間における一宮町内での需要に限定して算出を行っている。五輪を行うことによる経済効果は10年続くと言われており、これまでの準備期間における需要や、地価の上昇、五輪後に想定されるサーファー来訪者増や移住者増、周辺地域への効果などを含めれば、より大きな経済効果が見込まれる。
アメリカ代表が宿泊予定だったペンション・サードプレイス 【THE SURF NEWS】
来年、その先に向けて
自身もサーファーの生田氏 【THE SURF NEWS】
一宮町についても、五輪延期により宿泊施設の今夏の予約が埋まり切らない等のダメージは受けているものの、前編で述べた通り、6月頃から町にサーファーが戻ってくるなど比較的早くから回復傾向を見せている。今夏前年以上に売り上げが出ているサーフショップもあり、日本屈指のサーフタウンとしての強さも改めて示されたように思う。
一宮町秘書広報課の生田修大氏は、改めてサーフタウンとしての一宮に期待を寄せる。
「五輪当日に盛り上がることももちろん大切ですが、一宮町には年間60万人のサーファーが来てくれており、その方たちによる経済効果はもっと大きいのです。五輪の会場になったということは、その期間の来訪者が増えるだけでなく、長期的にサーフタウン一宮としてのブランド力があがることだと思っています。その点では既にある程度効果はでていますし、五輪が来年開催できれば効果は変わらないと思っています。」
五輪に向け数年越しで準備を進めて来た町の人達にとって、延期は心が折れる思いだったはずだが、全てが水に流れたわけではない。五輪にあわせ、宿泊施設の多くも来年に予約がスライドされている状態で、既に各所では準備が進められている。
2021年開催はちょうど1年ずらし、2021年7月25日〜8月1日にサーフィン競技が行われる予定。世界的に新型コロナウイルスの感染者数は未だ収まる気配がなく、IOC調整委員長は「今年10月頃に東京五輪の開催可否を評価する」との考えを示しているが、早く事態が収束し無事に行われることを願うばかりだ。
執筆:THE SURF NEWS編集部
本来は競技が行われていたタイミングで、志田下で千葉テレビの取材を受けていた稲葉玲生 【THE SURF NEWS】
競技予定日には組織委スタッフが、毎日海で波や風をチェックし来年に向けたデータ取りを行っていた 【THE SURF NEWS】
大会エリアの警備等を行う海上保安庁も競技予定日にオペレーションを確認していた 【THE SURF NEWS】
7月1日に開設されたJR上総一ノ宮駅の東口。これにより踏切を渡らなくても海岸側にアクセス可能になり、五輪会場へのシャトルバス発着場にもなる予定。 【THE SURF NEWS】
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