ウィザーズの舞台裏に迫る!第9回:ファンを知るために取り組むCRMとは

ワシントン ウィザーズ
チーム・協会

【ワシントン・ウィザーズ】

ワシントン・ウィザーズがお届けするインタビューシリーズ! 第9回はCRM部門のシニアディレクターを務めるジム・ミニチェッロ氏を迎え、組織の中でのCRMという業務について、そして他業種を経験する重要性についてなどさまざまな質問にお答えいただきました。

「CRMは市場内のあらゆる潜在顧客、顧客とのインタラクションを文書化することが可能となる。」

–––はじめに、これまでのキャリアについてと、『Monumental Sports & Entertainment(モニュメンタルスポーツ&エンターテインメント)』での役割についてお聞かせください。

私はスポーツ産業、そしてテクノロジーの世界に来るまでに、普通とは少し違う道筋をたどってきました。2008年にメリーランド州のロヨラ大学を卒業しています。英語と音楽をダブルメジャーで専攻していました。音楽と文学に情熱を持っていたのですが、大学を出てから仕事として何をするかは漠然としていました。それと、実はスポーツにもかなり熱心だったのです。ある晩、ワシントン・キャピタルズ対バッファロー・セイバーズのホッケーの試合を見ていて、ふと気付いたことがありました。私は生まれてからずっとスポーツを見てきたけれども、選手やコーチ以外にもスポーツの中に仕事があるなんて考えたことがなかったのです。スポーツのフランチャイズも、他と同じように経営されているビジネスなのだと気付いて以来、私はスポーツ産業で働こうと決心しました。そしてワシントン・キャピタルズでチケットセールスの仕事をするようになり、後にモニュメンタルスポーツ&エンターテインメント(MSE)の一員となりました。

セールスの仕事をして5年がたった頃、MSEのセールスフォースCRM(※)管理者に空席が出たのです。技術系の経験はなかったのですが、私は自分のスキルセットを広げたいと思っていました。経験を通して学ぶ私の能力を信じて、MSEはその仕事を任せてくれました。現在は4つのチームを管理しています。われわれはワシントン・ウィザーズ、ワシントン・キャピタルズ、そしてワシントン・ミスティックスを含むMSEの全プロパティ用に『Salesforce Lightning(セールスフォース・ライトニング)』というプラットフォーム上で、集中型CRMシステムを作り上げました。われわれのCRMシステムはチケット、ラグジュアリースペースとスポンサーシップの販売業務をサポートしています。

【訳注※:Salesforce(セールスフォース)は株式会社セールスフォース・ドットコム(本社:アメリカ・カリフォルニア州)が提供するクラウド型の営業支援ツール。CRMは顧客関係管理(詳細は後述)】

–––日常業務の内容と、スケジュールについてお聞かせいただけますか

私のチームは2週間の開発サイクルで動いています。2週間ごとにワシントン・ウィザーズのチケットセールス部門、『Capital One Arena Suites(キャピタル・ワン・アリーナ・スイート)』とMSEパートナーシップを含むMSE各部門の関係者たちとミーティングを開きます。そうしたミーティングの中で各部門の最優先事項を確認します。ミーティングの後はチームと私で対応策を設計し、プロジェクトタイムラインのスケジュールを決め、権限を委任し、プランを実行します。

開発サイクルは決まっているものの、プロジェクト内容はさまざまです。絶えず変わり続ける仕事ができるというのはとても幸運なことだと思っています。引き受けるプロジェクトはどれも新しいパズルのようなものです。われわれの前には2週間ごとにビジネスの新たな問題が提示され、そうした問題に対処する新たなCRMソリューションを設計する必要があります。仕事はいつもフレッシュで興味深いものばかりです。そのおかげで私は広範囲にわたる多様なスキルセットを身につけることができました。ある時、私はキャピタル・ワン・アリーナのスイート稼働状況を管理する財務報告システムを設計しました。また、ある時は、支払いをCRMのカスタマー記録と連動させるオンライン決済処理システムを実装しました。現在はわれわれの慈善団体『Monumental Foundation(モニュメンタル財団)』向けに寄付金追跡システムを設計中です。これらは私が取り組んでいる多様なプロジェクトのほんの一例に過ぎません。

–––CRMについて詳しくない人のために、それがどのようなもので、組織にどう役立つのかを簡単にご説明いただけますか

CRMとはカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(顧客関係管理)の略です。それによって市場内のあらゆる潜在顧客、顧客とのインタラクションを文書化することが可能となります。潜在顧客、あるいは顧客1人1人に関する記録がわれわれのCRMシステムの中に残されています。ワシントン・ウィザーズの販売員が電話をかけたり、メールを送ったり、市場内で誰かに会ったりするたびに、彼らはその人物とのインタラクションを文書でセールスフォースに残します。入社や退社によって販売スタッフのメンバーが入れ替わると、われわれは顧客を新しい担当者に引き継ぎ、担当者はセールスフォースに記録されている各顧客とこれまでに交わしたやり取りの履歴を読むことで、その顧客が過去にわれわれのブランドとどのような体験をしてきたかを理解することができます。これによって顧客がワシントン・ウィザーズのどの従業員と話しても、彼らにシームレスなサービス体験を提供できるようになります。

単にやり取りを文書化するだけでなく、CRMは他のデータソースと連結させることによって、各潜在顧客と顧客のデータプロファイルを作成するために利用することもできます。このデータは購入傾向を特定し、販売員がワシントン・ウィザーズのチケットを売るために潜在顧客に接触する際のヒントとして利用できます。

CRMというのは基本的に、販売員が現在の顧客の動向を追跡しながら、未来の顧客を探し出すことを可能にする組織的システムです。また、それを使って販売マネジャーが販売員の成果をモニターすることも可能です。

–––顧客のデータを得た後で、それを他部署にはどうやって与え、共有するのでしょうか

われわれのCRMは、販売員にとってデータウェアハウスへの窓口だと考えています。ファンの一人一人がCRMシステムの中に記録を持っていて、われわれはデータウェアハウス(※)で各ファンについての情報を受け取ると、それをCRMシステムの中でファンの記録として表示することができます。例えば、あるファンがワシントン・ウィザーズのメールに反応し、ウィザーズの試合のチケット購入に関心を示したとします。われわれはCRMシステム内でウィザーズのチケット販売員に通知を送り、そのファンに接触するように指示することができるのです。販売員がセールスフォース内でそのファンの記録をたどれば、好みの座席位置や対戦するNBAチームの好みなど、そのファンの傾向を把握することができ、個人としてのそのファンにより良いサービスを提供できるようになります。

【訳注※:データウェアハウスとは過去のデータを整理・保管するデータベースのこと】

–––顧客から得られるデータというのは、だいたいご自身の予想される数値に近いものが多いのでしょうか? 時には予想と全く違うこともありますか? 何か興味深い発見などがありましたらお聞きしたいです。

われわれが気付いた興味深いトレンドの1つは、ワシントン・ウィザーズのファンは試合でビールよりもリカー(蒸留酒)を購入する傾向があり、ワシントン・キャピタルズのファンは蒸留酒よりビールを購入する傾向があるということです。このデータには興味深い利用法が2つあります。広範囲なレベルでは、場内売店の提携会社『Aramark(アラマーク)』がその情報を使って試合の夜の仕入れを決定できるようになります。一方、個人レベルでは売店での個々のファンの好みを分析し、CRMを通じて顧客の好みを販売員に伝えることができるようになります。販売員は一人一人の顧客をより良く理解し、サービスすることができるようになるわけです。

–––入手されるデータは現在の顧客について学ぶばかりでなく、未来の顧客に向けたプランを描くことにもつながると理解していますが、正しいですか?比率的にはどのような感じなのでしょう?

われわれにはチケッティング・アナリティクス部門のシニアディレクター、アダム・フォークソン率いる非常に優秀なデータ分析チームがいます。アダムと彼のチームは収入、教育レベル、ブランドアフィニティーや過去の購入行動を含む特性を分析し、その人物がワシントン・ウィザーズのチケットを購入する傾向を把握します。われわれはアダムのチームがはじき出した数値スコアをセールスフォース内のファンの記録に追加します。これによって販売員は各潜在顧客に合わせたセールストークができるようになり、販売員が新たなチケット顧客を獲得できる可能性を高めます。

–––メールや、その他のメッセージングツールを通じて顧客と接触する際は、どのようにして彼らとクリエイティブにつながる方法を考えるのでしょうか。

メールマーケティング部門のシニアディレクターであるリア・ロイヤーの素晴らしい働きによって、この数年でMSEの全プロパティでメールマーケティング戦略が実行されています。リアはワシントン・ウィザーズのマーケティング、そして販売スタッフと密接に協力し、ウィザーズのファンベースに送る最適なコンテンツを決定しています。彼女はわれわれのファンベースを細かく区分し、ファンが興味を持つコンテンツのメールだけを受け取れるように気を配っています。私のチームはしばしばリアと協力し、メールのマーケティングキャンペーンからファンのインサイトを得て、われわれのCRMシステムを通じてワシントン・ウィザーズのチケット販売スタッフに提供しています。

–––責任が重く、多くの数字を求められるお仕事だと思いますが、あなたにとって成功の定義とは何ですか?

われわれは本当に多種多様なプロジェクトに取り組んでいるため、達成すべき細かい目標が多数あります。ですから物事をシンプルに保つため、私はチームにゴールは1つなのだと伝えています。毎日必ず、CRMシステムを前の日よりも良くすることがわれわれの務めです。

セールスフォースのプロセスを単純化して、販売スタッフ用のインターフェースを改善し、プロセス完了までに必要なクリックの回数を減らすことができれば、それを実行します。販売員に潜在購買傾向についてより分かりやすい情報を与えられる新たなリポートを作れるなら、それを実行します。決済方法のバリアを取り除き、顧客がもっと容易にセールスフォースから引き出した契約通りにオンライン決済ができるようになるのであれば、それを実行します。仕事に終わりはありません。どれだけのことをCRMシステムで達成しようとも、常に改善は可能です。そうした信念によってわれわれがスポーツ産業でCRMのリーダーになれればと考えています。

–––顧客を理解するための新技術は日々進化していますが、どのように最新情報を取り入れていらっしゃるのでしょうか。何か新しい最近のトレンドはありますか?

新しいテクノロジーソリューションについてはテクノロジーニュースを読み、セールスフォースのリリースノートを見て、スポーツ産業界の仲間たちと定期的に話すことによって最新情報を得ています。過去5年間、この産業で見られるトレンドの1つは、データウェアハウスの実装です。われわれの潜在顧客や顧客はソーシャルメディア、電子メール、ウェブサイト、モバイルやライブイベントへの参加を含む多数のチャンネルを通して、われわれのブランドとインタラクションを築いています。そうしたインタラクションの全てを1つのハブに集積することが重要で、そのデータを分析し、CRMシステムを通じてすぐに利用可能なインサイトをわれわれの販売員に提供するために使います。

–––スポーツ界と関わりのない経歴をお持ちですが、そうした経験が現在のお仕事にどのように役立ったとお考えですか? またCRMの観点から言うと、他のブランドとスポーツでは何が違うのでしょうか。

スポーツ産業が独特なのは、個人消費者とビジネスの両方を相手に販売業務を行うためです。さらに、チケット販売というのはハイボリュームなビジネスですが、商品には限りがあります。ワシントン・ウィザーズの試合の座席数は限られていますから、売れてしまえばなくなってしまいます。それ以上増やすことはできません。私の仕事のチャレンジは、D.C.とメリーランド、そしてバージニアの市場にいる何百万もの個人消費者と潜在的ビジネス相手を管理し、最もチケットを購入する可能性の高い相手を特定し、そうした潜在顧客を販売員に割り当て、潜在顧客について記録に基づいた十分なデータとインサイトを販売員に提供し、販売員が大勢の潜在顧客の間を早く、効率的に動き回れるようにすることです。各販売員が日々最大限の売上を確保できる力を彼らに与えなくてはなりません。

過去の経験がなければ、自分の仕事を達成することはできないでしょう。私は販売員として過ごした5年間で、販売員が顧客管理システムに何を必要としているのかを理解しました。販売員というのは電話で顧客に対応しながらユーザーインターフェースを素早く操作する必要があることを知りましたし、彼らが迷わず容易に顧客情報にアクセスする必要があることを知りました。

販売の経験以外に、大学で音楽と文学を学んだことはお話ししましたね。何だか直観に反するように聞こえるかもしれませんが、私がそうした科目にひかれたのは、数学、論理とデータ分析が非常に好きだからなのです。特に音楽理論には大いに関心を持っていました。基本的に数学と音楽構造で成り立っているものですからね。大学時代のプロジェクトでとても楽しかったのは、モーツァルトの交響曲のスコアを分析するものでした。私は音楽を聴くだけでなく、譜面の音符を見てパターンを特定し、作曲家がなぜそれを選んだのかを理解することに大きな喜びを見いだしました。こうした数字やパターン、構成の分析を好む私の傾向は、CRMアプリケーションやデータベーステクノロジーへと非常にうまくつながりました。そのおかげで私は合理化されたユーザーインターフェースを持つCRMデータベースをワシントン・ウィザーズとMSEのために設計することができたのです。
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著者プロフィール

アメリカプロバスケットボールリーグ・NBA所属のワシントン ウィザーズの公式日本語サイトです。監督、選手インタビューを含む試合前後のレポート、字幕付きオリジナルコンテンツも随時掲載。

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