育成のエキスパートによるGK解説(2)マヌエル・ノイアー

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【Getty Images】

アスリートとして傑出した最高のGK

長年にわたってケルンU-21および育成部門GKコーチを務めたエキスパート、田口哲雄氏がブンデスリーガで活躍するGKの特徴や凄みを解説する当連載。第2回はバイエルンやドイツ代表で数々の栄冠を勝ち取ってきたマヌエル・ノイアーを取り上げる。

ノイアーはもはや説明の必要のないGKだ。ドイツ国内でも長らくアンタッチャブルな存在と見なされてきた。しかし、2018年のロシア・ワールドカップを前にケガによる長期離脱を余儀なくされ、バルセロナで飛ぶ鳥を落とす勢いを見せるマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンを「ドイツ代表の正GKに」という待望論が巻き起こった。

ケガが癒えたノイアーはそのライバルに定位置を譲ることなく、ロシアW杯にレギュラーとして出場した。だが、プレー内容はいまひとつ。一部で「彼の時代は終わった」という声も挙がった。もっとも、一時代を築いたGKなど数えるほどしかいない。21世紀以降なら、オリバー・カーン、ジャンルイジ・ブッフォン、イケル・カシージャスくらいだろうか。ノイアーが彼らと肩を並べる存在なのは万人が認めるところだ。

世界の頂点を極めたノイアーだが、実はエリート街道を突き進んできたわけではない。10代半ばまで小柄で、シャルケU-16に第3GKとしてギリギリ残れたというエピソードは、ゲルゼンキルヘン界隈で有名だ。急激に背が伸びたのはそれ以降で、18歳になる頃にはユース世代のドイツ代表でも頭角を現すほどの成長を遂げた。当時の印象について、U-17まで代表の常連だったGKトーマス・ケスラー(現ケルン)はこう語っている。

「U-18になったら、シャルケから化け物が来た」

同年代のライバルを唸らせたノイアーは2006年8月にリーグ戦デビューを果たすと、ドイツ代表歴を持つフランク・ロストから瞬く間に定位置を奪った。そして、2009年6月のUAE戦でA代表初キャップを飾る。だが、当時はロベルト・エンケ(2009年11月に逝去)に加え、「ドイツGK育成の最高傑作」と称されていたレネ・アドラーの控え要員に過ぎなかった。

ドイツ代表での転機が訪れたのは2010年南アフリカW杯の直前だ。アドラーの負傷離脱により、正GKとしてW杯に臨むことになったのだ。その大舞台で見事な活躍を披露し、翌年に移籍したバイエルンで世界屈指のGKへと上り詰めたのは周知の通りである。

ノイアーの凄みをひと言で表現するならば、「アスリートとして傑出している」。193センチと大柄ながら、瞬発力をはじめとする身体能力が異次元。肩の柔軟性を活かし、違いを生み出すこともある。例えば、2014年ブラジルW杯の準々決勝・フランス戦だ。カリム・ベンゼマが至近距離から放った頭上を射抜くようなシュートを、ノイアーは右手一本で弾いてみせた。また、ライナーで50〜60メートル先の味方につなげるスローイングも圧巻だ。

的確な状況判断や独特のオーラもまた強みである。GKながらリベロの役割も担う活躍がクローズアップされたブラジルW杯以降、ノイアーが最終ラインの裏に出されたパスに反応してスタートを切った時点で、相手FWがボールを追うのを諦めるようなシーンがよく見られる。GK視点では少々リスキーなタイミングで飛び出したとしても、だ。

今季の第22節ケルン戦では判断の良さが光った。62分、ペナルティエリア外まで大胆に飛び出し、マルク・ウートの目と鼻の先でスライディングクリア。その後、ジョン・コルドバ、アントニー・モデストと1対1になるピンチを迎えたが、今度は飛び出すのではなく長くステイすることで圧力をかけ、最後は見事にセーブしてみせた。

ノイアーはまだまだ、バイエルンで代えの利かない存在であり続けるだろう。

解説=田口哲雄(JFAトレセンコーチ/元1.FCケルンU-21および育成部門GKコーチ)
文=遠藤孝輔

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