選手権で輝いた富山第一・大塚親子の絆 いわれなき批判と母の涙が転機に

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全国の舞台で活躍した選手はどのような家庭環境で育ち、成長を続けたのか。ここでは全国高校サッカー選手権で親子鷹として注目された大塚一朗・翔親子の物語をお届けします。

サッカー一家の父子は名門校のコーチと選手の関係に

2011年4月、大塚翔は地元の富山第一高校に進学し、サッカー部に入部した。兄の俊氏が富山第一のOBで、父の一朗氏は当時、サッカー部コーチだった。

一朗氏はもともと富山第一のサッカー部出身。法政大学を経て古河電気工業サッカー部に進み、2年間プレーした後、イングランドでインターナショナルライセンス、UEFA公認A級ライセンスを取得した。

そんな父を持つ翔は物心ついた時からボールを蹴り、やがて地元のチームでプレーするようになる。2005年に一朗氏がアルビレックス新潟シンガポールの監督に就任した際には、母親や兄とともにイングランドにサッカー留学し、ウェストハム・ユナイテッドのアカデミーで1年を過ごした。高校進学の際、地元の強豪校に進むのは必然だった。

「(進路は)一択でした。親父がコーチを務めていることも、当時はそんなに深く考えていませんでした」と本人は回顧しているが、その後、大塚親子はさまざまな困難を乗り越えていくことになる。

翔は1年次からトップチームで試合に絡み、全国高校サッカー選手権大会の富山県予選決勝でも、1点ビハインドの後半途中からピッチに立った。終了間際、翔にビッグチャンスが訪れたものの、シュートはゴールポストを直撃して同点に追いつけず。選手権出場を逃してしまった。

「自分のミスで先輩たちの選手権への夢を台無しにしてしまったという気持ちしかなかった」。そう悔やむ翔を待っていたのは、インターネットの掲示板で巻き起こる誹謗中傷の嵐だった。“1年生ながら試合に出ているコーチの息子”は格好のスケープゴートとなる。「妻が自宅のパソコンで掲示板を見て涙を流していたんですよ」(一朗氏)。いわれのない批判は家族をも傷つけた。

この経験が一朗氏と翔を変えた。一朗氏は「息子がシュートを外して負けたと言われた。ならば自分が責任を取りたい」と学校側に直訴し、コーチから監督に昇格するのであった。翔は近所の小学校での朝練を始め、卒業するまで続けた。チームのトレーニングにも、それまで以上に熱心に取り組むようになったという。

コーチから監督へ、選手からキャプテンに関係性は変遷する

“コーチとその息子”から“監督とその息子”へと関係性が変わった2012年度、夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)では2回戦でPK戦の末に桐光学園高校に敗れたものの、高円宮杯U-18サッカープレミアリーグでは京都サンガF.C.U-18やセレッソ大阪U-18に勝利するなど、一朗氏をして「調子が良かったので自信があった」というほどの状態で選手権予選を勝ち上がり、本大会出場を果たした。

1回戦の相手は岡山県作陽高校。プレミアリーグでも対戦して勝利している相手だっただけに、翔も「自分たちのサッカーができればいけるかな、と思った」と振り返っているが、結果は1-1でPK戦となり、2-4で敗北。「雰囲気が違った」と翔が振り返ったように、選手権特有の雰囲気がいつものサッカーを許さなかった。

翔が最高学年となった2013年、親子の関係に再び変化が訪れた。選手間で実施した投票の結果、翔がキャプテンに就任したのである。2人は“親子であり、監督とキャプテンでもある関係”になった。

キャプテン就任について、翔が「注目されるし、何かあればたたかれるだろうし。母親と『やばいね』と言い合っていた」と語っているのに対し、一朗氏は「やるしかない、という気持ちだった」という。翔にとって最後の1年は、批判されるかもしれない不安を抱えながらスタートすることになった。

「デメリットしかないんじゃないか」と翔は当初、思っていたようだが、監督とキャプテンがコミュニケーションを取る上で、親子以上に最適な間柄はない。ましてや大塚家の場合、「兄貴も含めて3兄弟みたい」(翔)というほどの仲良し親子。密なコミュニケーションでチーム内の結束も高まり、インターハイやプレミアリーグで少しずつ自信を深めながら選手権を迎える。

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