記者をグイグイ引き込み、公式会見で逆質問 米野球殿堂入りを果たしたイチローが持つ“圧倒的な言葉の力”

丹羽政善

米野球殿堂入りを果たし、記者会見に応じるイチロー 【Photo by Steph Chambers/Getty Images】

 1月21日午後5時(現地時間、以下同)から予定されていた会見だが、20分ほど遅れて始まった。

 直前、会見場の外で歓声が上がる。やがて「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」という懐かしい掛け声が聞こえてきた。球団職員が、廊下でイチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)を出迎えていたようだ。

 そのおよそ2時間前――21日午後3時17分、イチローが日本に続き、米国でも殿堂入りしたことが発表された。イチローのもとには午後2時15分ごろ、電話がかかってくる予定だったという。しかし、その電話もまた、少し遅れた。本人が明かす。

「2時15分から待機しました。これは電話がかかってくることが前提の準備だったので、15分を過ぎて電話が鳴らなかったときに、これはないんじゃないかと思ってすごく不安になりました。やったというよりも、もうほっとしたという気持ちの方が強かったですね」

 そうして始まった会見だが、日米合わせて、なんと約1時間に及んだ。

 終えて、何を思ったか?

 やはり、イチローには言葉がある――だった。

才能は、生かすも殺すも自分次第

米野球殿堂入りを果たし、マリナーズの職員から祝福を受けながら記者会見に向かうイチロー 【写真は共同】

 イチローがどんなことを話したかは、すでにさまざまなところで報じられていると思うので、ここでは深く触れない。

 会見へ向かう道中、車を運転しながら聞きたいことを頭の中でまとめた。

 まずは、改めてキャリアを振り返ったとき、野球とはこういうもの、という野球観。あるいは、打撃とはこうだという技術論。最終的に辿り着いたのは、どんなところだったのか。今、シーズン中は若い選手と汗を流し、合間を縫って日本の高校生(男女)の指導もしている。彼らには、たどり着いた境地をどう伝えているのか。

 するとその問いに関しては、先に米メディアが、「若い選手たちに伝えたいことは?」と聞いた。このときイチローは「僕なんか、とても比較にならないぐらい才能に溢れた人がいっぱいいます。でも、それを生かすも殺すも、自分自身だということですね」と答えた。

「自分の能力を生かす能力というのは、また別にあるということは知っておいてほしい。才能があるのに、なかなかそれを生かせないという人はいっぱいいます。怪我に苦しむ人もいます。自分をどれだけ知っているかということが、結果に大きく影響しているということを、知っておいてマイナスはないと思います」

 また、着ているTシャツの話題になったとき――それは白地のTシャツにドアのイラストが描かれていたものだが――その意図を聞かれると、こう明かしている。

「これ、ノブの部分が野球のボールになってるんですけど、自分が好きなことを見つけて、夢中になることに飛び込んでいこう、そのドアを開けてみよう、そういうメッセージが込められています」

1/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント