高校野球と人権

高校野球の丸刈りは人権侵害? 過去の判例から弁護士と考える

中村計 松坂典洋

「坊主やめるか?」という圧力

中村 「校則=強制」なのだと思っていました。

松坂 とまでは言えません。もちろん、校則に違反していたら教師から「短くしてきなさい」くらいの指導は受けると思います。そう言われたら大抵の生徒は従いますよね。内申点を下げられたら嫌だなとか思って。

中村 実質、強制。

松坂 なんですけど、法律的には校則として丸刈りが存在することと、それを強制することでは次元が違うんです。丸刈りではないからといって、先ほども言いましたが、その場で先生にバリカンで刈られるわけではないので。

 そこは学校側も心得ていて、校則においても「強制」と捉えられるような書き方はしないものなんです。訴えられたとき、そこを突っつかれると不利になるので。タバコや飲酒に関しては、はっきり禁止と書いてありますが、身だしなみなどの規定はあくまで努力義務的に書いてあるところの方が多いと思います。「全国校則一覧」というサイトがあるので、一度、確認してみてください。文章の最後は「努力する」とか「努める」みたいな感じで書いているところが多いと思います。

中村 でも、この前、大阪の私立高校のハンドボール部でありましたよね。指導者がバリカンで選手の頭を刈っている写真が新聞に載っていました。

松坂 ありましたね。しかも、それが学校サイドからの口頭による厳重注意のみで片付けられてしまっていることに驚かされました。選手本人は納得していたとのことですが、納得せざるを得ない状況をつくっていた可能性は否定できません。

中村 昔は教師が無理やりバリカンで刈るなんてこと、普通にありました。頭の上に手を置いて、指の間から髪の毛がはみ出たら「俺が刈ってやる」みたいな。悪さをして、見せしめのように衆人環視の中で先生に刈られている生徒もいたくらいです。そういうことが微笑ましい光景のようにも見られていた記憶があります。同じノリなのでしょうね。

松坂 でも、生徒の内面まではわからないじゃないですか。顔は笑っていても、恥ずかしくて仕方なかったかもしれない。ものすごい屈辱感に苛(さいな)まれていたかもしれない。むしろ、それを悟られないように笑顔をつくっていたとも考えられます。

中村 そういうケースが蓄積してきて、こういった人権問題は少しずつ表面化してきたわけですもんね。

書籍紹介

【(c)KADOKAWA】

日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える

甲子園から「丸刈り」が消える日――
なぜ髪型を統一するのか
なぜ体罰はなくならないのか
なぜ自分の意見を言えないのか
そのキーワードは「人権」だった
人権の世紀と言われる今、どこまでが許され、どこまでが許されないのか
高校野球で多くのヒット作を持つ中村計氏が、元球児の弁護士に聞いた
日本人に愛される「高校野球」から日本人が苦手な「人権」を考える
知的エンターテインメント

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント