MLBポストシーズンレポート2024

「前回優勝時にも肩を脱臼した選手がいましたよね」 負傷を吉兆と捉える、大谷翔平のメッセージ【WS第3戦】

丹羽政善

勝利に貢献するために

WS第2戦に出場したミゲル・ロハス。左内転筋を断裂しながら、強行出場を続けている 【Photo by Mary DeCicco/MLB Photos via Getty Images】

 傍目から見れば、無謀とも映る。レギュラーシーズンであれば、確実に欠場しているレベルのケガだ。フレディ・フリーマンもそう。彼はきょう、捻挫している右足首に自打球を当てた。しかしその後、内野ゴロの併殺崩れで一塁に残ると、次打者の中前安打で三塁まで走っている。

 大谷にしても、フレディにしても、いったいどんな力が働くと、無理かもしれない――の先に、挑めるのか? それを超えられるのか?

 大谷に聞くと、「それはフレディに聞いてもらって。僕は彼ではないので、彼の状態は分からない」と言いつつも、自分のことも含めてこう推測した。

「こういう舞台だとアドレナリンが出て、ある程度の痛みには耐えられるのかもしれない」

 二人の思いを、やはり左内転筋を断裂しながらプレーを続けている、ミゲル・ロハスが代弁した。

「それが、このチームのキャラクターだ。この時期になると、誰だって多少のケガを抱えたままプレーしている。無理をしてでも、という表現が正しいかどうか分からないけど、プレーできるのであれば、少しでも勝利に貢献できるのであれば、チャレンジを恐れない」

「チームの士気だけは下げたくない」

 ところで試合前の会見で、左肩を亜脱臼した日の夜、大谷が選手全員のグループチャットにテキストメッセージを送ったことを、マックス・マンシーが明かした。

「空港へ向かう途中、翔平から『大丈夫だ』というメッセージがきた。『プレーするつもりだ』と。それで、よし、という感じになった」

 大谷もそのことを否定していない。

「出られるという気持ちを(送った)。実際に検査を受けて処置をすれば出られる状況ということだったので、それに対して自分のベストを尽くしますと」

 時間は限られている。しかし、しっかり治療をすれば、出場を断念するほどのケガではない。ならば、治療に専念し、最善を尽くすと伝えたかった。

 もちろん、メッセージの内容はそれだけではなかったよう。大谷は、こんなニュアンスの一文も添えたという。

“前回(2020年)、ドジャースが優勝したときにも、肩を脱臼した選手がいましたよね”

 それはコディ・ベリンジャー(現カブス)のことで、昨日の記事でも触れたが、大谷は自分の負傷を吉兆と捉え、ポジティブに変換してしまった。
 大谷はメッセージを送った理由を「チームの士気だけは下げたくなかった」とも説明したが、意気に感じた選手は少なくなかった。

 トミー・エドマンは、「あれを受けとったとき」と言ってから、言葉を継いだ。「みんな、盛り上がった」。

 さて、あと1勝である。そのまま決めるのか。

「もちろん明日決められるに越したことはない」と大谷。

「あと1つ勝てるように、明日の試合に今は集中したい」

 当然明日も、大谷は出場するつもりだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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