SVリーグ開幕を選手はどう見たのか サントリー主将が味わった「今までにない感覚」

田中夕子

敗戦も「プレーできた喜び」

 ライトアップされたコートへ、オーケストラの生演奏に合わせて入場する。スターティングメンバーではなかったため、試合中から「これだけの観客がいる前、このコートでプレーしたい」と思い続けながらアップゾーンにいた。そして第1セット終盤、後衛の3ローテで投入され、第2セット中盤からはデ・アルマスアラインに代わり、第3セットはスタートからコートへ。試合終了までプレーした。序盤からブルテオンのサーブに狙い通り崩され、攻撃に展開できない状況を打破すべく、フローターサーブはオーバーハンドでのサーブレシーブで返球。立て直すべく奮闘したが、終始、サーブからのディフェンス、オフェンスで勝ったブルテオンがストレート勝ちを収めた。

開幕前の記者会見に主将として臨んだ藤中謙也(左) 【写真は共同】

 試合後のミックスゾーンを通過するのは敗れた直後。当然、悔しさを滲ませながらも、藤中は素直な喜びも口にした。

「コートに立った瞬間、ここでプレーできた喜び、今までにない感覚がありました。代表戦じゃないですけど、こういう雰囲気の中でできていることは僕のキャリアの中でも貴重なことだったので。負けはしましたけど、試合中は楽しみながらプレーできました」

 中学、高校時代から世代を代表する選手として活躍し、日本代表登録選手に名も連ねて来た。だがアウトサイドヒッターの層は厚く、日本代表選手として五輪予選や世界選手権といった主要大会に出場した経験はない。

 長年バレーボール選手として日本のトップで走り続けてきた藤中にとって、多くの観客と地上波で生中継され、「これほどの数が集まるのは見たことがなかった」というほど多くの取材陣が集まる中で試合をして、主将としてコメントする機会は初めて。2024/25シーズンのわずか1試合とはいえ、紛れもなく特別な1試合であったのは確かで、そこには勝ち負けを超えた楽しさがあった。

新たな変化の始まり

 藤中だけでなく、同様の経験、感情を抱いた選手は他にも多くいるはずだ。現に東京、パリと2大会の五輪に出場し、昨秋の五輪予選にも出場するなど、日本代表として多くの場数を踏んできたブルテオンの山本智大も「試合前から感情が昂っていた」と明かしている。

 熱狂も、観客の数も派手な演出も、日本代表戦には及ばない。海外での試合と比較して自然発生的に起こる声やブーイングもない会場を「物足りない」と感じる人もいたはずだ。だが、その場に立った選手はどうか。

 またこんな舞台に立ちたい、と願い、自分だけでなくもっと多くのバレーボール選手が同じように。入場前からスタンドを見渡せば多くの観客がいて、きらびやかなコートで披露するプレーに注目が集まる。その快感と喜びを味わってほしい、と願ったはずだ。

 もちろん一度きりでなく、この先もずっと、そんな環境が少しずつでもつくられていく未来を描き、己のプレーを磨く。日本代表としてプレーする機会がなくとも、日本でも十分強くなれる、と証明するために。

 これまでにない期待を持って迎えたSVリーグ開幕戦。ファイナルが行われる5月まで、どれほどの経験が積み重なり、新たな変化へとつながっていくのか。

 覚悟を持って臨む藤中主将のシーズンも、SVリーグも、まだまだここから。始まったばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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