町田に立ちはだかる新国立のJ1優勝ジンクス 2度PKで地獄を見た男が挑む東京決戦

大島和人

昨年の天皇杯での準優勝 【(c) Kaz Photography/Getty Images】

 東洋大の後輩でもあるGK松本健太が川崎の5人目バフェティンビ・ゴミスのキックを止めて彼自身は救われたが、両チーム10人ずつがスポットに立ったPK戦は川崎が制することになった。

 本人が「問題はPKなんです」と苦笑するように、決勝戦のPKに限れば仙頭と国立の相性は最悪だ。それでも彼は国立の大舞台を心待ちにしている。

「もう絶対的に特別な場所です。高校サッカーは国立を目指してやっているようなものなので、国立でプレーできた幸せは今も覚えています。『国立だから』というプレッシャーより、サッカーを楽しむ思いを忘れずに戦いたいです」

 仙頭自身も2024年のシーズンの中で「壁を越えてきた」一人だ。彼の町田デビューは最悪で、開幕のガンバ大阪戦は60分に2枚目のイエローカードを受けて退場処分となった。優勢に試合を進めていた町田はG大阪に追いつかれて1-1で試合を終え、緒戦を飾れなかった。

「1-0で勝っている状況だったし、自分たちが主導権を握れていたので、これで1枚少なくなったら、相当チームに迷惑かけてしまうのは分かりきっていました。本当に申し訳ない気持ちでしたし、もう負けるのだけは避けてくれと願っていました」

開幕戦からゲームキャプテンとして先発するも退場という悔しい結果に 【(c) FCMZ】

 仙頭は出場停止明けの第3節・鹿島アントラーズ戦から先発に復帰した。

「次の試合への取り組みもそうですけど、誰よりも全力でやらないといけないなと思いました。1週間空いたときのメンバー外の練習も、自分がしっかりやらないといけなかったし、とにかく姿勢で示していくしかないと感じていました。鹿島戦は名古屋に勝った後で、スタメンになるか分からなかったですけど、そこで使ってもらえた。『勝たなかったら、次はもう自分にチャンスが無い』くらいの気持ちで戦ったことを覚えています」

 7月に白崎凌兵の加入もありボランチの定位置争いは熾烈だが、仙頭はそこからコンスタントなプレーを見せている。

 仙頭は高校サッカーの得点王に輝いたアタッカーで、Jリーグでもセカンドトップやサイドハーフの印象が強かった。ただ今はボランチとして、攻守に渋いプレーを見せている。彼は町田加入後の自身の変化をこう説明する。

今シーズンからボランチにコンバートされ、チームの躍進の中心に 【(c) FCMZ】

「ボランチをプロで、シーズンを通してやるのは初めてですが、守備に関する自分の考え方、試合中の意識に変化があったと思います。セカンドボールのところは特に集中するようになりましたし、攻めているときのリスクマネジメントもしないといけない。そこは自分の幅が広がった部分です」

 町田の優勝争いは間違いなくサプライズだが、立役者は誰を置いても黒田剛監督だろう。仙頭はその指導をこう言葉にする。

「1年間を通して、習慣になるように同じことを言い続けて、それが身についていく。どうしても緩んでしまう部分が出てきても、『気づき』が生まれる雰囲気作りをスタッフ含めてやってくれる。それが緊張感のあるトレーニングを常にできている要因です。あとサッカーをしている時間ではないところの言葉が、ミーティングも含めてすごく刺さってくる監督です。そこが頭に入った上でサッカーをするので、練習や試合でも出せる。それは今までに無い感覚です」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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