大観衆の中で2冠達成、歴史を変えた上地結衣が繰り返した“感謝”
絶対女王を下し悲願の金メダル
女子シングルス決勝でオランダのデフロート(左)を破って金メダルを獲得し、健闘をたたえ合う上地 【写真は共同】
第1セットは上地がスタートから3連続でゲームを獲得する好調な滑り出しを見せた。しかし、デフロートが第4ゲームをブレークすると、1-4で迎えた第5ゲームから連続5ゲームを取り、6-4で第1セットを先制した。
第2セットは中盤からデフロートのサーブが乱れ始めた。前日のダブルス決勝でもサーブが安定しない場面が目立ったが、この日もダブルフォルトになる回数が増えていく。
「相手のサービスゲームで自分が先行していくことに加えて、サーブの立ち位置を変えることや、ここ最近取り組んでいたサーブの球種にバリエーションを付けていく部分が、(決勝の)キーになってくると思っていた」
上地がそう振り返ったように、第1ゲームから着実にブレークを続け、4-3で迎えた第8ゲームでついにキープに成功。第9ゲームもブレークして、第2セットを6-4で取り返した。
第3セットも上地は勢いをキープしながら試合を展開した。第1ゲームをブレークされるもそこから3ゲームを連取する。デフロートが2ゲームを奪い返して意地を見せるが、上地も第6、第7ゲームを奪い返して金メダルまであと1ゲームに迫った。
第8ゲームはブレークを許して5-4となるが、第9ゲームに迎えたマッチポイント、デフロートのダブルフォルトによって勝敗が決した。その瞬間、会場は割れんばかりの歓声とスタンディングオベーションに包まれた。
デフロートのサーブが外れていたかどうかの確信がなかった上地は、審判のコールで勝利を認識すると涙を流した。デフロートは上地のもとへ向かうと、互いの健闘を称えた。
この場面、上地は「本当に自分が出し切った」ことで「もう動けなかったっていうのが正直なところ」だったという。だからこそ、ネットを越えて、自分のもとに来てくれたデフロートに対して「来てくれてありがとうという気持ち」があったと話した。
準決勝の時点で上地は目に涙…
ダブルス決勝を終えた後にはこう語っていた。
「自分がこうして車いすテニスができていること、海外を転戦して、こういった生活ができていることは、本当にたくさんの方々のおかげですし、一緒に戦ってくれている人たちの存在があるから自分も頑張れています。(感謝の)気持ちは同じでも、負けてありがとうございましたというのと、勝ってありがとうございましたというのは違うと思うので、明日のシングルスも勝って、感謝の気持ちをこのパリにいる皆さん、日本で応援してくれている皆さんに伝えたいなと思います」
また、シングルス決勝後に金メダルの価値について尋ねられると「やっと(金メダルを)取れたことは、本当にこれまでやってきて良かったなと思いますし、諦めずにやってきた自分自身ももちろんそうなんですけど、信じてくれた周囲の方々や、自分を支えてくださっている方たちにも、本当に感謝の気持ちを伝えたいと思います」と話した。
この日の試合はローランギャロスのセンターコート「フィリップ・シャトリエ」で行われ、会場を埋め尽くす観客たちが大きな歓声を上げていた。上地もその盛り上がりに自らの声すら聞こえない場面もあったと振り返りつつ、デフロートを応援する声も含めて「お客さんのお陰で自分たちがいいプレーを引き出してもらっている部分がたくさんあった」と話し、続けて「本当に今日来てくださった方々、それからテレビの前で見てくださった方々に感謝の気持ちを(メディアに)伝えていただきたいです」とまたしても感謝の言葉を口にした。
高校3年生で出場したロンドンパラリンピックから12年。4大会目でついにつかんだ2つの頂点は感謝の思いで彩られていた。
(取材・文:山田遼/スポーツナビ)