“地方のJ2クラブ”が3年連続の試合を主催する意義…清水エスパルスと国立競技場

榊原拓海

オリジナル10対決となった昨年の千葉戦 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 ファン・サポーターのみなさんや、他のサッカー関係者の方も、きっと2022年の初開催時は驚かれたのではないでしょうか。シーズンを通して、地方のクラブが国立競技場でホームゲームを開催して、Jリーグのシーズン最多入場者数を集めるなんて、あり得ないことですから。

Q:首都圏のファン・サポーターも巻き込むことができたからこその過去2年間の成功だったと感じるのですが、普段のホームゲームと比較した際、地域別来場者数の変化はどのようなものがありましたか?

山室社長 アイスタ日本平でホームゲームを開催する場合、来場者の中で静岡県内に在住されている方の比率は75〜85%程度です。それが国立競技場での試合となると、1都3県在住者の来場者比率が65%程度に変化します。当然、来場者の分母が大きくなっている影響もあるのですが、過去2年間の開催では、首都圏のファン・サポーターを開拓することができたという実感を得られました。
Q:今年は【OLE FES2024 ~ようこそ、国立(ここ)は静岡~】と銘打った試合ですよね。過去の2年間と比較した時、静岡にルーツを持つ方々を意識されたテーマなのかなと感じます。

山室社長 まさにそこが今回の我々がターゲットとしている層です。これまではクラブの周年企画をメインテーマとして掲げてきましたが、今後は全国各地の静岡にルーツを持つ方々により興味を持っていただきたいと思っています。

 静岡県で生まれ、育ちながら、進学や就職を機に首都圏に転出される方はかなり多いです。そのような方々に、再び集まるきっかけとしてエスパルスの国立での試合を活用していただきたいと思っています。ちょっとしたグループの飲み会ついででも構いませんし、いずれは“同窓会プラン”のようなものを用意しても面白いと感じています。

今年のテーマは「静岡」と語る山室社長 【©S-PULSE】

 また、クラブとしても、今回の試合開催に際して、様々なイベントを用意しています。

 たとえば、ホームタウン・ファミリータウンの9市町(※静岡市、御殿場市、島田市、清水町、長泉町、富士市、富士宮市、三島市、焼津市)のPR活動を実施しており、選手が出演する各市町のPRビジュアルを展開していきます。

 静岡を感じていただくイベントとして、試合の2週間前から静岡県にルーツを持つ首都圏の飲食店舗の皆様とのコラボレーション企画も予定しています。首都圏でも静岡・エスパルスに関連するコミュニティを作ってもらいたいという思いから、エスパルスの国立開催を通じて、試合前から静岡県出身の首都圏在住者の皆様に交流いただく機会を計画しました。

9/1時点で11店舗が参加予定。試合前から静岡やエスパルスを感じられる場所を作り、試合につなげる取り組みを実施 【提供:清水エスパルス】

 静岡を出て現在東京で暮らす方々には、ぜひそのような部分にも注目していただき、生まれ育った土地を感じていただきたい。このような思いを込めて、今季の試合開催日は【OLE FES2024 ~ようこそ、国立(ここ)は静岡~】というコンセプトで打ち出しています。

Q:単なるサッカーの1試合にとどまらず、国立競技場から静岡を盛り上げる施策なのですね。継続的に実施していけば、クラブの文化の1つとして定着させていくことも可能だと感じます。

山室社長 あくまで願望ではございますが、年に1回は、サッカー王国・静岡のクラブが、国立競技場で試合を行うことを定着させていきたいですね。
 多くの方々にクラブへの興味関心を持ってもらうべく、今後も継続しなければならないという思いは強いです。その中には未来のファン・サポーターがいらっしゃいますし、仮にそこまで興味を持てなくとも、静岡県出身で首都圏に住む方々が、「年に1度ここで集まろう」というような流れになっていくこともあるかもしれません。

 今年で3年連続ということにはなりましたが、国立競技場でのホームゲーム開催は来年以降もやっていきたいと思っています。

Q:長期的に開催していくのであれば、リピーターを醸成するための工夫も欠かせませんよね。

山室社長 もちろんです。毎年、来場者特典としてオレンジ色のユニシャツをプレゼントしているのですが、昨季までは先着3万名までだったところ、今回は4万名に配布します。

 ファン・サポーターとは言えないライト層の方々であっても、オレンジ色のユニフォームを着て、オレンジ色に染まる国立競技場の一員となることは、特別な観戦体験になると思います。エスパルスサポーターが一体となって生み出す熱気というのは、サッカーにあまり興味のない方でも、スタジアムに行けば感じ取れるのではないでしょうか。
 心の中で1%だった興味関心が5%になるだけでも、こちらとしては嬉しいですよね。仲間内で同じユニフォームを持っているから、「来年も国立競技場に行こう」や「静岡に行った時、せっかくだからみんなでアイスタに行こう」となっていただけたらありがたいです。

Q.:今後も国立競技場で継続的に試合が実施できた場合、将来のエスパルスにとってどのような意味があると考えられていますか?

山室社長 エスパルスの全国的なプレゼンスを今以上に高めていくことにつながると考えています。おそらく、”オリジナル10”と呼ばれたJリーグ創設初期の頃は、何もしなくても圧倒的な知名度があったと思います。ですが、今は言葉を選ばずに申し上げると、“地方のJ2クラブ“というカテゴリーで括られてしまいますよね。我々がクラブとして持っている力はそんなものではないと思っていますし、単なる“静岡ナンバーワンのクラブ”を目指すのではなく、全国でも指折りのクラブを目指したい。というよりも、そこに辿り着かなければならないと思っています。いくら静岡の中で知名度があろうとも、人口約350万人の県です。1都3県と比較すると1/10程度なんですよね。県外での知名度を高めていく活動は、クラブとしても非常に重要視しています。国立競技場での試合開催が、幅広い層にアプローチできることを期待しています。

今年は国立をよりホーム(静岡)に近づける 【提供:清水エスパルス】

Q.最後に、この後、国立競技場での試合をきっかけに、清水エスパルスのファンになった方々へのインタビューを予定しております。社長からの質問をいただいてもよろしいでしょうか?

山室社長 私が気になっているのは非常にシンプルなところで、なぜ首都圏にはたくさんのクラブがあるのに、敢えて清水エスパルスの試合に足を運ぼうと思ったのか、ファンになっていただけたのかというところです。千差万別だとは思いますが、ぜひ聞いてみたいですね。

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著者プロフィール

神奈川県出身のフットボールライター。Jリーグを中心に取材活動を行っており、これまでサッカーキング、サッカー専門新聞ELGOLAZO+を中心に寄稿。2024シーズンよりELGOLAZO+にて清水エスパルスを担当している。

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