敵DFを嘆かせた三笘の超絶アシスト 逆境の遠藤が「4分間」で見せた存在感
頼もしさを感じた三笘の謙虚な言葉
ブライトンの勝ち越しゴールが生まれたのは後半アディショナルタイム。ホーム初戦を劇的な勝利で飾り、これで開幕2連勝と好スタートを切った 【Photo by Eddie Keogh/Getty Images】
ところがこのシュートに、ゴール前で滑り込んだヨシュア・ジルクゼーの右ひざが当たっていた。この接触により、VARの結果オフサイドとなった。触らずにそのままボールを見送れば、プレーに関与していないとみなされて逆転のゴールが認められていただけに、非常にもったいなかった。しかしこれもセンターフォワードの本能だったのだろう。触らずにはいられなかったのだ。一方、ブライトンにしてみればVARに感謝してもしきれない逆転弾の取り消しだった。
このオフサイド判定も、ブライトンの決勝ゴールに直結したと言える。三笘はベンチに下がっていたが、結果的にゴールが取り消されて、1-1のまま終盤までもつれ込んだことで、後半アディショナルタイム5分のホームチームの劇的な決勝弾が生まれた。
決めたのは先制点の起点となるクロスを放ったペドロ。後半45分に三笘の代わりにピッチに上がったシモン・アディングラが左寄りの位置からファーにピンポイントパスを送り、ペドロがこの千載一遇のボールにきっちりと頭を合わせて3ポイントを呼び込む2点目を奪取。ホーム開幕戦で大きな歓喜をもたらし、ブライトンが見事な開幕2連勝を飾った。
この決勝弾にはベンチに下がっていた三笘も大喜び。試合後のピッチ周回で観客に手を振るその顔には満面の笑みが浮かんでいたし、「まず勝利が一番。ベンチの選手を含めて流れを変えてくれました」と話して連勝を素直に喜んだ。しかし代役のアディングラがしっかり結果を出したことに対しては、「非常に(チームの)層も厚くなってきてるんで、毎試合、結果を出さないとという気持ちがあります」と語って、チーム内競争に気を引き締めていた。
この言葉を聞いて、こうした謙虚さがあれば今季の三笘が中途半端な成績で満足することはあり得ないと確信して、本当に頼もしく感じた。
一方、マンチェスター・Uは今季も優勝争いには加われないという印象だった。悪くはない。しかし全てが少しずつ足りないのだ。
そして昨夏にチェルシーから移籍してきたイングランド代表MFメイソン・マウントが背番号7をつけているのを見て、真の強豪復活にはまだまだ時間がかかりそうだと思った。
このチームの7番は、古くはジョージ・ベスト、1980年代のブライアン・ロブソン、90年代のエリック・カントナから貴公子デイビッド・ベッカム、そしてスーパースター・クリスティアーノ・ロナウドへと受け継がれてきた。やはり彼らのように、自らのプレーで勝利を呼び込む偉大な選手につけてもらいたい。
今のチームを見渡すと、その候補はガルナチョか。ともかく他のチームで名前が売れた選手にご褒美のように7番が与えられている近年の傾向に終止符を打たないと、マンチェスター・Uが強くなることはないのではないかと、ふと直感的に思ってしまった。
遠藤にも必ずチャンスが訪れる
遠藤はブレントフォードとのホーム初戦で今季初出場。プレータイムはわずか4分間だったが、動きにキレがありコンディションの良さが見て取れた 【写真:ロイター/アフロ】
ご存知のように、9年間にわたりリバプールを太陽のような人格で照らし、過激極まりないプレス殺法で、低迷が続いていたクラブを真の強豪に復活させたユルゲン・クロップが去って、クールなオランダ人のアルネ・スロットを監督としてアンフィールドに迎えた初の公式戦。まさに歴史的な試合だった。
確かにクロップが燦然(さんぜん)と輝き、巻き起こした熱狂は少し薄まっていた。2-0の完勝を飾っても、試合後に監督が、熱狂的サポーターがひしめくゴール裏のコップ・スタンドに向かって拳を三度突き上げて勝鬨(かちどき)を上げることはなくなり、選手をがっちりと抱きしめるシーンも消滅した。
しかしスロットのフットボールはいい意味で抑制がきいて、その新監督は歴史的試合にも重圧など感じないとでもいうように、当たり前のように勝利をもたらした。そこにはラファエル・ベニテス(2004~10年にリバプールを指揮)の好調時に似た、戦略に長けた監督のイメージ通りにフットボールを実践すれば勝利は向こうから自然に転がり込んでくるとでもいう、そんな安定感を感じた。
開幕戦で出番がなかった遠藤航は、この試合で5番目の交代選手として起用された。背番号3の我らが日本代表主将は、後半42分からピッチ脇に立っていた。そして時折、その場で2~3回鋭くジャンプして「早く来い!」というばかりに出番を待ったが、なかなかプレーが中断せず、遠藤が勢いよくピッチに走り出したのは「5分」と表示された後半アディショナルタイムの1分目だった。
すると体調の良さを誇示するように、きびきびとした素軽い動きでボールに体を寄せた。確かに試合の終盤に、疲れた選手のなかに混じったことでフレッシュな印象を強めたが、遠藤が入ると、リバプールの中盤にびしっと芯が通ったように見えた。
試合後、スロット監督に「遠藤の体調は良さそうに見えたが、どうすれば今季のプレー時間が増やせるのだろうか?」と聞いた。すると「リバプールには素晴らしいミッドフィルダーが大勢いる」と話し出し、要約すれば“現段階では他の中盤の選手を試合で使ってみたい”という返答をした。
しかし、この試合を見た限り、彼が「素晴らしかった」と言うほどリバプールの中盤が良かったとは思えない。
アレクシス・マック・アリスターは消えている時間が長かった。ドミニク・ソボスライはトップ下に入ると窮屈そうにプレーした。それにマック・アリスターと中盤の底でコンビを組むライアン・フラーフェンベルフは、ボールを持ってもパス先をすぐに見つけられず、バタバタとするシーンが多かったし、お世辞にも守備がうまい選手ではなく、イエローカードをもらった反則タックルは正直目をつむりたくなるほど酷かった。
もちろんスロット監督は1年目で、遠藤をレギュラーにしたクロップ前監督との違いを出したいのは分かるし、年齢的にも他のMFのほうに将来性を感じるのも分かる。しかも遠藤は、これもチーム内の他のMFとの比較で守備に特化した選手であり、スロット監督のポゼッション・フットボールには少々流動性が不足していると見られているのかもしれない。
しかし、この試合で筆者が見た遠藤の4分間にはそんなネガティブな理屈を吹っ飛ばす力強さがあった。昨季だってプレミアリーグでは通用しないという風評をひっくり返してレギュラーをつかんだ。今後の出場機会でしっかりと自分の良さを見せつけることができれば、アンカーを2人を起用する新体制で必ず遠藤にもチャンスが訪れる。
試合後1時間待ったが、遠藤が我々の前に姿を現すことはなかった。けれどもそれでいい。わずか4分間の出場で報道陣の前に出てきて、「移籍を考えているのか?」とか、「新監督とはどんな話をしているのか?」という質問に答える必要はない。雑音が増えるだけだ。
もちろん、フットボールの世界では明日何が起こるのかは分からない。もちろん、来週には遠藤がリバプールの選手でなくなっている可能性がゼロではないことは分かっている。
けれども現時点では、「長いシーズン中、必ず彼(遠藤)が重要な選手になる」という45歳のオランダ人新監督の発言を信じ、たった4分間ではあったが、キレのある動きを見せた日本代表主将を信じて、彼自身が“しっかり活躍できた”と思う試合後に報道陣の前に現れ、再び遠藤と言葉をかわす日が訪れることを信じて待つことにしたい。
(企画・編集/YOJI-GEN)