試合前にもう『終わりなき旅』は聞いていなかった!? 進化する長谷部誠のルーティンとセカンドキャリア

ミムラユウスケ

現役最終戦で聞いたのは……

試合前に聞く曲も変遷をたどったが、現役最終戦では… 【写真:アフロ】

――音楽にまつわる話として、長谷部選手といえば試合前に『終わりなき旅』を聞くというルーティンが有名です。あの曲は今も大切な曲ではあるようですが、現役生活の晩年は必ずしも試合前に聞いていたわけではなかったんですよね?

 そうですね。Mr.Childrenも新しい曲をどんどん出していたので。もちろん、『終わりなき旅』を試合前に聞くときはありました。ただ、Mr.Childrenのみなさんも日本で活躍するバンドのなかでベテランのような、長いキャリアを持つ存在になってきましたよね。勝手な話ですけど、そういう立場が「自分と重なるようなところがあるかな」と感じていて。キャリアの終盤では『皮膚呼吸』や『Starting Over』などを試合前によく聴くようになりました。

――2018年の6月から7月にかけて開催されたロシアW杯期間中は、あの時点での最新のアルバム『REFLECTION』に収録されていた曲の中から『進化論』、『足音~Be Strong』、『Starting Over』という順番で聴いていたそうですね?

 はい。ただ、それはロシアW杯限定というわけではなくて。その後も、そのような順番で聞いた時もあったし、そこに(2018年10月に発表されたアルバムの)『皮膚呼吸』が入ってきたり。その時々で聴く曲を変えたり、あえてリラックスできる曲を聴くこともありました。

――というのは?

 たとえば、チャンピオンズリーグのような試合の前だと、「楽しみだなぁ」と気分がすごく上がってしまうんですね。緊張感とは違うものなんですけど。そういうときは逆に、ゆっくりしたテンポの曲を聴いたりもしていました。

――たとえばどのような曲を?

『SUNRISE』とか。あとは、『彩り』もよく聴いていました。そういうときはグワッと気持ちが上がる曲ではないものを、あえて聴いていて。だから、試合前に聴く曲は固定しなくなりました。Mr.Childrenだけではなく、洋楽を聴くこともありましたし。

――そういえば、今回の引退に合わせてさまざまなテレビ番組が特集を組み、長谷部さんが出演した番組も多かったですが、多くの場面で『終わりなき旅』が流されていました。ただ、内田篤人さんがホストを務めた『報道ステーション』出演時には『Starting Over』が流れていました。

 それは気づきませんでしたけど……。

――あの曲は内田さんの引退の時に、ねぎらいの言葉とともに、セカンドキャリアを進むのにふさわしい内容だと考えて贈った曲ですよね? それを番組でキチンと流すのは長谷部さんを尊敬する内田さんらしい心遣いだったような……。

 そういうのはあるかもしれないですね。でも、内田が引退したときに、「この曲を贈る」とメッセージを送ったとき、返ってきたのは「長谷部、やば」みたいな返信だけでしたから(笑)。彼にはそんな僕のことが、おかしかったらしくて……。

――ただ、選手もバンドも進化していくわけじゃないですか。そうやって聴く曲が変わっていくというのは素敵な変化ですね。

 僕はメロディーや歌詞に、自分なりの解釈をつけさせてもらうんですよ。おそらく、Mr.Childrenのみなさんも「絶対にこうやって聴いてほしい」と押しつけるようなことはなくて。聴く人がどう捉えるのかはそれぞれだと思われているような気もしています。だから僕は、自分らしく聴かせていただいているという感じですね。

――2012年にヴォルフスブルクでメンバーから外されて大変な時期には、自分の苦悩と世界で起こっている大変な出来事とを比較する内容がある『イミテーションの木』を聴いていましたよね?

 あぁ、そうでしたね。

――聴くタイミングによって解釈が変わった曲もありましたか?

『終わりなき旅』にしても、昔、聞いていた時と、最近聴くときの感覚は少し違っていて。若い頃は、心の中が盛り上がる曲、モチベーションが上がる曲という感じでした。今は、自分のなかでは、もっと落ち着いて聴く感じの曲になっていますね。

――ちなみに、5月18日のフランクフルトでの現役最終戦のときに聴いたのは?

 最終戦ではやはり、『終わりなき旅』を(笑)。フランクフルトのホームゲームの前は練習場からスタジアムまで、バスに乗っている時間が5分くらいしかないから『終わりなき旅』を1曲だけ聴きました。

――では、最後に。日本での記者会見や挨拶回りなどを終えてドイツに戻り、引退した実感は湧きましたか?

 やはりまだ、湧いていないんですよ。数日前にドイツに戻ってきて、時差ボケもあり、今朝も5時に起きたのですが、朝から10キロ走りましたから。しかも、ゆっくり走るのではなくて、インターバルをいれながらしっかり走って。心拍数が180とか185くらいまで上がるような感じで、「オレは何を目指しているんだろ?」と思ってみたり。今はまだ、例年通のりオフ期間に入ったような感覚です。お酒も飲んでいないですしね。ただ、一つだけ解禁したことがあって。それはサウナです。

――というと?

 サウナは元々すごく好きだったんです。でも、自分だけだと思うんですけど、サウナに入ったあとに、3回続けて風邪をひいてしまって。だから、現役時代には入るのをやめていました。引退して、サウナには何回か入りましたね。

――尊敬するカズさん(三浦知良)もサウナが好きなようですし、これからは裸の付き合いもできそうですね?

 いやぁ、カズさんにはサウナよりも、夜の街に連れて行っていただきたいですね(笑)。まぁでも、僕はしばらく休んで……。これからはEUROを楽しみますよ! 今回は自国開催というのもありますけど、ドイツではやはりEUROは盛り上がるから。

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著者プロフィール

ライター/インタビュアー/コメンテーター。2006年に活動をはじめ、2009年1月よりドイツへ。2016年9月22日、Bリーグ開幕日に再び日本に拠点を移して、活動中。著書(共著執筆含)武尊「光と影」、香川真司「心が震えるか、否か」、「千葉ジェッツふなばし熱い熱いDNA」、横浜ビー・コルセアーズ「海賊をプロデュース」、内田篤人「淡々黙々」、構成:岡崎慎司「鈍足バンザイ!」。Xアカウント ID:yusukeMimura

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