【ヴィクトリアマイル】「家族とパーティーです(笑)」21年目で初GI津村騎手は涙から笑顔、14番人気テンハッピーローズが波乱の春女王に

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春のマイル女王決定戦・ヴィクトリアマイルは14番人気のテンハッピーローズが優勝、津村騎手はデビュー21年目にして嬉しい初GI制覇を飾った 【photo by Kazuhiro Kuramoto】

 春のマイル女王決定戦、第19回ヴィクトリアマイルが5月12日(日)、東京競馬場1600m芝で行われ、津村明秀騎手騎乗の14番人気テンハッピーローズ(牝6=栗東・高柳大厩舎、父エピファネイア)が優勝。中団やや後方の外を追走から最後の直線で鋭く突き抜け、GI初勝利を飾った。良馬場の勝ちタイムは1分31秒8。

 テンハッピーローズは今回の勝利でJRA通算24戦6勝、重賞は初勝利。騎乗した津村騎手はデビュー21年目、JRA・GI挑戦48戦目にして嬉しい初勝利となり、同馬を管理する高柳大輔調教師はヴィクトリアマイル初勝利となった。

 なお、1馬身1/4差の2着にはクリストフ・ルメール騎手騎乗の4番人気フィアスプライド(牝6=美浦・国枝厩舎)、さらにクビ差の3着にはジョアン・モレイラ騎手騎乗の1番人気マスクトディーヴァ(牝4=栗東・辻野厩舎)が入線。人気の一角を占めていた武豊騎手騎乗の2番人気ナミュール(牝5=栗東・高野厩舎)は直線不発に終わり8着に敗れた。

「自分の苦労が足りなかっただけ」

右手を掲げる津村騎手、ファンも大歓声で悲願の勝利を祝福した 【photo by Kazuhiro Kuramoto】

 最後の直線、緑のターフを豪快に伸びてくるのは人気を二分したマスクトディーヴァでもナミュールでもなく、なんと単勝208倍、ブービー14番人気のテンハッピーローズ。超伏兵が起こした波乱劇に場内はどよめくのかと思いきや、全く逆の反応。右手を大きく挙げたジョッキーに向けて、スタンドからは大きな声援と拍手が送られていた。この勝利は津村騎手がデビュー21年目にしてついにつかんだ初のGIタイトルであることを、ファンは知っていたからだ。

「無我夢中でした。直線がすごく長く感じて、必死に追っていました」

 開口一番、あふれ出る涙をこらえながら津村騎手がGI初制覇の喜びを語った。同期のリーディングジョッキー川田将雅騎手をはじめ藤岡佑介騎手、吉田隼人騎手がビッグレースを制していく中、自身もコンスタントに勝ち鞍を挙げて重賞も2010年からは毎年のように制するなど活躍をしてきたが、GIにはどうしても手が届かなかった。いや、届きかけたレースもあった。

「一番悔しかったのはジャパンカップでしたね」

 津村騎手がそう振り返ったのは2019年、カレンブーケドールとのコンビで3/4馬身差の2着に惜敗したレース。このJCをはじめカレンブーケドールとはオークス、秋華賞と合わせて3度、GI・2着の涙を飲んだ。

「ここまでが本当に長くて、自分でももう(GIは)勝てないのかもという思いもありましたけど、それでも諦めちゃダメだと毎年思っていました。何とかまたGIに乗れるように、小さいレースから何とかたどり着けるように頑張ってきました」

 “苦労人”という言葉で片付けるのは簡単だ。だが、当の本人は苦労人だとは微塵も思っていない。むしろ「苦労してきたとよく言われるのですが、僕の中ではただ自分の苦労が足りなかっただけ」と、この21年の歩みを振り返る。

3年かけて教え込んできた競馬と距離

「長い年月をかけて競馬と距離を教え込んできた」と振り返った高柳大輔調教師、その地道な努力が花開いた 【photo by Kazuhiro Kuramoto】

 そんな努力の人、津村にビッグタイトルをプレゼントすることになったのはエピファネイア産駒の6歳牝馬テンハッピーローズ。2歳時の東京マイル芝GIIIアルテミスステークスでソダシから0秒4差3着という実績はあるものの、3歳以降の重賞で複勝圏内の実績はない。まして、ここ1年の重賞では掲示板にすら入れず6着が最高着順。これではブービー人気でも仕方ないという成績ではあるが、高柳大調教師はとにかく馬の状態に関しては自信を持っていたという。

「人気はなかったのですが、トレセンで取材を受けた時は『抜群の出来で出走させることができるから注目してほしい』と答えていました」

 一方、キャリア通算5勝のうち1400mで4勝、1200mで1勝。マイルでは勝利がない。それだけに今回も距離に不安を抱えてのチャレンジかと思いきや、綿密に計画を積み重ねた上でのマイル女王決定戦への挑戦だったと、トレーナーは語る。

「牝馬の短い距離のGIというと1600mのヴィクトリアマイルしかありませんので、長い年月をかけて進めてきました。この間に競馬と距離を教え込むことができたこと、そして調整がしっかりできたことが今回の勝因だと思います」

 高柳大調教師によれば、ヴィクトリアマイルを大目標に掲げた道のりは2021年6月の1勝クラスで初めて1400mを使った時からスタート。それから3年。種を植えて水をやり、地道に育ててきた月日の成果はテンハッピーローズの中で大きなつぼみとなり、今にも大輪を咲かせようとしていたわけだ。

最高ポジションの道中、4コーナーの手応えも抜群

道中は「最高のポジション。4コーナーも手応え抜群だった」と津村騎手、最後の直線は一気の伸び脚で突き抜けた 【photo by Kazuhiro Kuramoto】

 昨年6月からコンビを組み始めた津村騎手も愛馬の着実な成長を感じ取っていた。ここ2走、マイルの阪神牝馬ステークスと千四の京都牝馬ステークスとの比較から「これならマイルも大丈夫そうだな」と手応えをつかんでいたという。

 そしてレースもこの上ない形で進めることができた。

「しまいの脚は確実な馬なので、前半はリズム良く行こうと思っていました。前に人気馬がいて、かつあまりプレッシャーがかからない位置だったので、最高のポジションが取れたなという雰囲気で3コーナーまで行けました」

 内枠から出ムチを入れながらコンクシェルがハナを切り、外からフィールシンパシーが続いて、前半はやや速めの600m33秒8、800m45秒4。この流れの中、テンハッピーローズは中団よりやや後ろ、後方から数えて5番目の位置だったが、津村騎手が語ったとおり他馬にもまれることもなく3コーナーに差し掛かるころにはすぐ前方にマスクトディーヴァ。これをちょうど目標にするような形で先団との差をジワジワと縮めていく。

「もう本当に4コーナーの手応えは抜群。先頭を捉えられそうな手応えだったので、そこからは必死に追いました」

「家族のために頑張れるのが僕の生きがい」

感動と馬券のインパクトと……記憶にも記録にも残るレースだった 【photo by Kazuhiro Kuramoto】

 マスクトディーヴァ、もう1頭の有力馬ナミュールが思ったほどの伸びを見せられない中、テンハッピーローズは鞍上のステッキ一発に瞬時に反応。先に抜け出したルメール騎手のフィアスプライドをアッという間に捉えると、残り100mで堂々の先頭に立った。

「先頭に立ってからは『誰も来ないでくれ』という思いで追っていました。いつかGIを勝ちたい、勝ちたいと思い続けてきた中で、まして一番大きな東京競馬場で勝つことができて、本当に最高の瞬間でした」

 ゴールの瞬間、津村騎手の心に浮かんだのは妻と2人の息子、家族の顔だったか。

「何としてでも家族のために、大きなレースを勝つところを見せたいと思ってずっと乗ってきました。間違いなく家族の支えが一番大きかったです。家族のために頑張れるのが僕の生きがいでもあるので、本当に今日は最高ですね。(自宅に帰ったら)パーティーです(笑)」

 叩き上げの馬と騎手、人馬の努力がリンクしたような感動のフィナーレを迎えた2024年のヴィクトリアマイル。GIの単勝では史上4番目の高額配当、馬単30万3260円は同2番目という馬券のインパクトも相まって、記録にも記憶にも残る春のマイル女王決定戦となったのは間違いないだろう。(取材:森永淳洋)
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