ジェフ・フレッチャー著『SHOーTIME2.0 大谷翔平 世界一への挑戦』

大谷が振り返った人生で最高の瞬間 栗山監督が「野球を謳歌していた」と回想したWBC決勝での姿

ジェフ・フレッチャー

日米が注目した頂上決戦は日本での視聴率がアメリカでのスーパーボウルに匹敵

「あれは完璧な投球だったよ」

 何カ月もたってから、トラウトはあらためて振り返った。

「考えてみれば、あいつと打席で対戦するのは初めてだったからね。スプリングトレーニング中でさえ、そんな機会はなかった。リーグの他球団の選手たちが言っていることがやっとわかったよ。あれは、本当にエグかった」

 あの1球を数値化すると──球速88マイル(約141キロ)で、横に19インチ(約48センチ)流れていた──大谷がメジャーリーグに加わって以降、客観的に見ても、大谷自身が投げた球のなかで最高の1球だった。メジャーリーグ公式戦で、彼は1,660球のスイーパーを投じているが、あれだけの球速と横の変化の大きさを誇るのは、そのなかでも4球だけだ。

「あんな球を打てる打者なんか、どこにもいないよ」

 ネビン監督もそう同調していた。

 大谷は叫び声をあげ、両腕を高く掲げてグラブと帽子を空中に投げ捨て、ダグアウトから飛び出してきたチームメイトたちの歓喜の輪に飛び込んでいった。

「間違いなく、僕の人生で最高の瞬間です」

 大谷はそう言い、直後に大会MVPにも選出された。

 大谷は、少年時代にイチローが、日本代表として2006年と2009年に優勝へ導いた場面を見たときの興奮を振り返った。

「僕は日本代表が優勝するのを見て、いつかここに加わりたいと願っていました。このような経験ができて本当に感謝しています。今度は次の世代が、この大会を通じて野球を始めてほしい、そして、もっと多くの人に野球をプレーしてほしいというのが僕の願いです。そうなれば僕は嬉しいです」

 大谷を18歳で北海道日本ハムファイターズに入団させて以来、もっともよき理解者である栗山監督は、この場面で大谷が歓喜する姿を見て、あらためて感慨深いものがあったようだ。

「翔平はここに至るまで、本当に長い道のりを歩んできたので、私も嬉しいです。マウンドに登ってからの動きをずっと細かく観察していましたが、とにかく野球を謳歌していましたね。みなさんが、ああいう彼の姿を見ることができて、私も本当に嬉しいです」

 日本人の大半が、この場面を見たようだった。WBCの日本代表戦は、全7試合のテレビ視聴率が、アメリカのスーパーボウル(NFLの優勝決定戦)に匹敵する数字に達した、と「スポーツビジネスジャーナル」が報じた。

 日本では平日の朝だったにもかかわらず、日本全国の視聴者のうち約40%がWBC決勝を映していたという。アメリカでも、アメリカ対日本の試合は450万人の視聴者をひきつけ、2017年のWBCよりも69%の増加が見られた。

 大谷自身も、この大会であらためて人気が急上昇し、インスタグラムのフォロワーが170万人から400万人にまで伸びた。

 大谷がWBC決勝で絶頂の興奮を味わった数日後、大谷はアリゾナに戻り、エンゼルスのユニフォームを着て、マイナーリーガーを相手に投球していた。

 大谷がWBCで味わった世界一の歓喜を、まだ味わっていないチームのために、シーズンへ向けた最終調整だった。

 大谷がWBCの大舞台で躍動する姿を見て、野球界の誰もが、大谷とトラウトがプレーオフに進出できれば、野球界全体にとって大きなプラスであるという認識を新たにした。

 ということは、2023年シーズン以降にエンゼルスとの契約が切れた大谷が他球団に移籍するのではないかという憶測も、あらためて力をもつようになった。

 大谷はFAに関する質問に対し、WBCで湧いてきた勝利への執念を、今はエンゼルスのためだけに振り向ける、とだけ答えた。

「ああいう一発勝負の試合を重ね、ぜひ、僕は同じ経験をこのチームで味わいたいと強く感じました」

書籍紹介

【写真提供:徳間書店】

エンゼルスの番記者のジェフ・フレッチャーが綴る、現在進行形の生きる伝説の舞台裏!

二刀流・大谷翔平のMLBの2022年シーズンから始まり、2023年シーズンとWBC優勝、そして新天地移籍までの舞台裏を追ったノンフィクション。

アーロン・ジャッジ、マイク・トラウトといった、強力なライバル&盟友らの背景や生い立ちなど、アメリカのベテラン記者ならではの視点で描かれた「大谷本」の決定版!!

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