週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

なぜ大谷から本塁打が出なかったのか? 特有の「春先の課題」を読み解く【週刊MLBレポート2024】

丹羽政善

大谷特有の「春先の課題」とは?

3月30日のカージナルス戦、延長十回の満塁の好機で遊飛に倒れた大谷 【Photo by Kevork Djansezian/Getty Images】

 そのキーワードに沿って過去を辿ってみると、それがこの時期特有の課題であることがわかる。

 2020年2月23日のこと。ライブBPを行ったあと、オープン戦で確認したいことを問われた大谷は、「ボールの距離感と、ストライクゾーンの確認じゃないですか。一番は」と、初の実戦に臨むうえでのテーマを口にした。「(ライブBPでは)距離感はそんな悪くなかったですかね。微妙なコースっていうのは、審判がいないとキャッチャーもわかんないですし、そこの答え合わせというか、そこは実戦じゃないとできない」。

 大谷が、距離感という言葉を使って打撃を解説するようになったのは、この頃からではないかと記憶するが、2日後のオープン戦初打席は死球だった。すると、試合途中で交代して取材に応じた大谷は、「反応が遅かった。やっぱり距離がいまいち取れてない」と首を傾げた。

「距離感がちょっと遅い。(本来なら)全然よけられる球でした」

「距離感は打席を重ねるしかないのか?」の問いに大谷は、「縮まってもらわないと困るかなとは思うんですけど」と苦笑しながら続けている。

「春先はやはり差し込まれる方が多いんじゃないかなというか、泳ぐよりはいいですけどね。そっちの方がいいかなと思うので、そこをちょっとずつ、ちょっとずつ、調整するっていうのが大事かな」

 それからも1週間ほど、距離感が合わなかった。

「距離感がまあ、詰まってないというか、測れてないというか」(20年2月28日)

「だいたいの春先の傾向も同じですし、まあ、同じことで毎年なんでなんだ、と思う人もいるかもわかんないですけど、これはふつうのことなので。それをしっかり直せる引き出しを多く、毎年毎年、見つけられれば良いんじゃないかなと思います」(20年3月6日)

 しかしながら、その3月6日の試合あたりから、「振り出しの軌道がちょっとずれている」と、打撃が次のフェーズに入ったことを匂わせている。

「最後の打席は、距離感的には悪くない。軌道がちょっとずれているので、ああやって上に当たっている感じ」

 その最後の打席については、もう少し具体的に解説した。

「振り出しで(スイング軌道が)ずれた。タイミング、距離感、構えからそうですけど、まあまあ良かった。構えている段階で打てそうな雰囲気もあった。インパクトらへんまでは、ホームランいけるんじゃないかなぐらいの感じだったので、そこでずれてるっていうのは、(スイング)軌道がずれている」

 そこまでいけば、あとは紙一重。「上に当たるか、下に当たるかで、セカンドゴロになるか、センターにホームランになるか」。

 つまりはこの時点で距離感やタイミングがしっくり来るようになり、自分の通したいところにバットを通せるかどうかーーという段階に入っていた。

大谷から本塁打が出なかった理由

 翌21年は、3月1日が初の実戦だったが、「距離感はよかった」と手応えを口にしてから、こんな話をしている。

「2本目のヒットに関しては多少、差し込まれた分、打球が上がらないで単打になっているという感じですけど、ミスした中でもそういう(スイング)軌道に入っていけるというのは、距離がとれていると思いますし、1打席目に2つ、スライダーのインコースを見送っているのも、途中まで打ちにいって『打てそうだな』と思いつつ、ボールなので打たないという判断ができているので、そういう見え方ができているというのは、やっぱりいい結果が出るのかなと思います」

 一連のやり取りからは、必ずしも凡打やミスショットが、距離感やスイング軌道のズレの結果というわけではないということもわかる。

大谷の今季初本塁打に沸く、スタンドのファン 【Allen J. Schaben / Los Angeles Times via Getty Images】

 いずれにしても、こうやって言葉を整理すると、距離感、タイミングのズレは春先特有の課題であり、実戦を重ねることで解消されていくさまが読み解ける。その次がスイング軌道の修正だが、そこまでくれば構え、見え方はある程度安定しており、あとは微調整の世界か。

 ただ、今年はやや事情が異なる。右肘のリハビリを行っていた関係で、例年ならキャンプ前に始めるライブBPができなかった。開幕が早かったため、急仕上げを迫られた。また、韓国で開幕戦が行われた影響で、前後で時差調整を迫られ、さらには、元通訳の水原一平氏による違法賭博事件もあった。

 ホームランが出るかどうかは時間の問題だったはずだが、一つ一つの過程をショートカットすることはできない。彼がコンスタントに反対方向へ放物線を描けるようになるには、もう少し時間を要するかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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