【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

ソシエダを苦しめる過密日程と選手層の薄さ 昨季の再現に必要な久保建英の“もうひと踏ん張り”

高橋智行

辛い現実を受け入れようと頭を抱えて

久保も絡んだ仕掛けからオヤルサバルが同点ゴール。しかし、決定力不足に苦しむソシエダはPK戦の末に国王杯準決勝で敗れ、“2つのご褒美”も逃した 【Photo by David S.Bustamante/Soccrates/Getty Images】

 嫌な空気を引きずったまま迎えた後半開始直後の50分、スローインをきっかけに得点を許したソシエダは、1点を追ってここから猛攻を仕掛ける。時間の経過とともに疲労の色が見え始めた久保も、54分にペナルティエリアの外からボレーを放ち、59分には右サイドから左足で弧を描いてゴールに向かう得意のクロスで際どいシーンを作った。

 マジョルカの堅守に阻まれ1点が遠く、徐々に焦りが募る展開となったが、それでも71分、久保が絡んだ攻撃からついに待望の同点弾が生まれる。久保との小さなワンツーで抜け出したB・メンデスが前線へスルーパス。これを、故障明けで63分から投入されていたミケル・オヤルサバルがゴールへ流し込んだ。

 試合はこのまま延長戦へ。93分には右足を蹴られ、ピッチに倒れ込んだ久保は、すでに疲労がピークに達していたはずだが、プレーを続行。そして最後の力を振り絞るかのように、そのわずか2分後、再び右からファーサイドのミケル・メリーノに正確なクロスを届ける。だが、メリーノのヘディングシュートも、こぼれ球を叩いたキーラン・ティアニーのシュートも、惜しくもゴールライン上でクリアされてしまう。

 そして104分、ついにフィジカル的な限界に達した久保は、サポーターの大きな拍手に包まれながらピッチを後にする。試合は延長戦でも決着がつかず、PK戦へ。久保はベンチからその結末を見届けるしかなかった。

 今になって思い返せば、PK戦直前の両陣営の雰囲気には大きな違いがあった。ソシエダのアルグアシル監督が緊張感を途切れさせないよう、円陣を組んでチームを鼓舞したのに対して、マジョルカのアギーレ監督は笑顔で選手たちに声を掛け、何よりもリラックスさせることを最優先していた。この小さな違いが、PK戦の結果に大きな影響を与えたと言えるかもしれない。

 ソシエダは一番手の“PK職人”オヤルサバルのシュートが、相手GKドミニク・グレイフに弾き出されると、その後はマジョルカが全員成功。結局2試合合計1-1、PK戦4-5のスコアでソシエダの敗退が決定した。

 すでに日付も変わり、時刻は深夜0時半。マジョルカの5人目のPKが決まった瞬間、ソシエダのベンチ前にはこの辛い現実を受け入れ、耐えようと頭を抱える久保の姿があった。そして頭を上げると、ロッカールームに引き上げることもせず、敗戦にも健闘を称えてくれるサポーターたちを、ただ静かに見つめていた──。

久保復帰後の公式戦は1勝2分け5敗

CLラウンド16第2レグでは、マジョルカ時代の僚友イ・ガンインと競り合うシーンも。万全なチーム状態でなければ、強豪パリSGの壁を破るのはやはり難しかった 【Photo by Ion Alcoba Beitia/Getty Images】

 プロキャリア初のタイトル獲得はならなかった久保だが、試合後に話したマジョルカの地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』のミゲル・チャカルテギ記者は、そのパフォーマンスを高く評価していた。

「タケのこの2年間の成長ぶりには目を見張るものがある。今日もレアル・ソシエダのベストプレーヤーの1人だったし、間違いなくこの試合で最も違いを生み出していた。最後は疲れから交代せざるをえなかったが、彼がボールを持つたびに何かが起こっていたよ」

 翌日のスペイン紙『ムンド・デポルティボ』は、「2024年2月27日はイマノル・アルグアシル時代のラ・レアルにとって最も悲しい夜となった」と記したが、最近のソシエダのパフォーマンスを見れば、これも必然の結果だったのかもしれない。

 マジョルカとの国王杯準決勝の2試合、延長戦も含めた計210分間でソシエダは38本のシュートを打ったが、決定的なチャンスはほとんどなく、奪ったゴールはオヤルサバルの1点のみ。もちろんマジョルカの守備が素晴らしかったとも言えるが、この“貧打”で勝ち切るのは難しい。

 頼れるセンターフォワードが不在で、現地では決定力不足が深刻な問題として以前から指摘されているが、昨年末から続くスランプの一番の原因は、やはり試合数増加によるフィジカルコンディションの低下だろう。

 国王杯敗退後の第27節・セビージャ戦を終えた時点で、ラ・リーガのチームで最多の公式戦41試合を戦っているソシエダは、選手層の薄さが影響し、レギュラー陣の出場時間の合計もリーグトップとなっている。久保とアマリ・トラオレ(マリ代表)が1月上旬に代表戦でチームを離脱した後は、1週間で2試合をこなす過密日程に突入したことで怪我人が急増。負傷離脱者はわずか3週間で今季最多の7人に達し、国王杯のマジョルカ戦でも5人が欠場していた。

 こうした状況が2カ月近く続いていることで無理が祟り、主力選手の多くが調子を崩している。アジアカップから復帰後、フル稼働を強いられている久保も、要所で違いを見せつけているとはいえ、勤続疲労の影響は否めない。

 国王杯優勝の夢を断たれたマジョルカ戦から1週間後の3月5日、ソシエダはパリ・サンジェルマンとのCLラウンド16第2レグに1-2で敗れ、欧州最高峰の戦いからも撤退を余儀なくされた(2戦合計1-4)。個の力で見劣りするソシエダが勝機を見出すには、とりもなおさずベストコンディションが絶対条件であったが、過密日程と選手層の薄さがそれを許さなかった。

 これで久保復帰後の公式戦8試合の成績は1勝2分け5敗(マジョルカとの国王杯準決勝第2レグは引き分けとしてカウント)。久保の孤軍奮闘も結果につながっていない。ちなみにホームでは昨年11月26日のセビージャ戦(2-1)を最後に、8試合連続で白星から遠ざかっている。

 シーズンも残り3カ月を切った。2つの大きな目標を短期間で失った今、このネガティブな状況をいかにして打破するか。終盤戦で状況を好転させ、CL出場権を掴み取った昨季のようなラストスパートを再現するには、やはり久保を筆頭とする攻撃陣のもうひと踏ん張りが不可欠だ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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