【#経験者は語る】五十嵐亮太×糸井嘉男「移籍」のウラ話 電撃トレードから人的補償問題まで語り尽くす

中島大輔

二人が考えるより良い「FA制度」とは?

山川穂高FA移籍の人的補償問題はFA制度自体の見直しを考える上でも物議を醸した 【写真は共同】

 第3回は、FAの人的補償や仕組みに関して。
 今オフにはソフトバンクがFAで西武から山川を獲得した際、人的補償が物議を醸した。昨季チーム2位の8勝を挙げた和田が28人のプロテクトリストから外れ、西武が獲得に動くと報じられたからだ。
 五十嵐さんは「先発ローテーションに入るにもかかわらずプロテクトから外していると、矛盾していたことになる」と核心をついた一方、ソフトバンク、西武の狙いを推測した。
 結果的に甲斐野が西武に移籍したが、改めて人的補償という制度を見つめ直す必要性を二人は指摘した。

 糸井さんは2016年オフにFAでオリックスから阪神に移籍した際、右腕投手の金田和之が人的補償でチームを移り、「申し訳ないなという気持ちも芽生えました」と振り返った。金田には「悪かったな」と伝えたという。

 FAは高卒なら8年、大卒・社会人なら7年の一軍登録という長い期間でようやく取得できる権利の一方、人的補償で本人の意思にかかわらずチームを変更させられるという仕組みはどうなのか。五十嵐さんは、「人的補償は今の時代に合っているのか」と疑問を投げかけた。
 そこで五十嵐さんが提案したのは、移籍を希望する選手に「宣言」させるのではなく、メジャーリーグのように権利を取得した選手は自動的にFAとし、市場に出すことだ。現行の宣言制度について糸井さんは「裏切り者みたいなイメージもつけられる」としたが、自動FAにはその点を払拭する意味合いもある。

 事実、日本プロ野球選手会も以前は「自動FA」に変えるべきだと球団側に主張していた。ところが、ある時期から「宣言制度を変える必要はない」と意見を変えている。
 筆者がその理由を尋ねると、「自動FAにすると、行き場をなくす選手も出かねない」という回答だった。全員が自動的にFA(=自由契約)になると、一時的に所属球団から出る形になり、翌年の契約を更新してもらえなくなるケースを危惧しているのだ。

 果たして、こうした考え方は“実力社会”のプロ野球でどうなのか。五十嵐さんの指摘は的を射ており、FA制度の根本的な見直しを求めている選手会にも耳を傾けてほしい内容だった。
 そもそもプロ野球の移籍制度は、選手やチームのレベルアップにつなげ、球界全体を活性化するためにつくられている。その意味でも、もっと移籍が活発になればというのが二人の共通見解だ。

「移籍して良かったと心の底から思っています」
 糸井さんが電撃トレードも含めてそう語れば、五十嵐さんは「移籍を通じて心が豊かになる」と振り返った。
 現在、日本の移籍制度は過渡期にある。今後どのように改善していけば、球界全体の発展につながるのか。そうした点を考える意味でも、五十嵐さんと糸井さんの対談には大きな示唆が含まれていた。
(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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