【ウインターカップ特別企画】河村勇輝の高校時代…指揮官&ライバルの証言から“新スター誕生”を紐解く

日々の練習を“自分のものにする力”

福岡第一で河村を指導した井手口コーチ。河村在籍時にウインターカップ連覇を達成した 【(C)兼子愼一郎】

 井手口コーチが河村のプレーを初めて目の当たりしたのは、2016年に福井県で開催された全国中学校体育大会。福岡第一でチームメートとなる小川麻斗(千葉ジェッツ)を擁する西福岡中学校と、河村が所属する柳井中学校による決勝トーナメント1回戦だった。

「西福岡中は私の母校でもありますし、当時から練習に参加していた小川麻斗の応援に行っていたんです。河村に関しては、山口県の中学校の先生から『すごくいい選手がいますよ』と聞いていたくらいでした」

 試合は西福岡中が75−48で圧勝した。そのため、井手口コーチは接戦を繰り広げていた隣のコートに意識を向けていたようで、当時の印象は「ないんですよね」とキッパリ。ただ、こう付け加えた。

「ガードとして非常に光るものがあるな、とは思いました」

 井手口コーチが掲げるバスケットは、2ガードを軸にした堅守速攻である。小川と河村が自在にコートを駆け回る青写真を描いた指揮官は、「河村、小川の2ガードを考えていきたいと思っています」と、河村の父親に意向を伝え、ダイヤモンドの原石を福岡第一に迎え入れた。

 河村、小川を1年生の頃からベンチメンバーに入れた井手口コーチは、その年の冬に1つの決断を下す。直前の県予選まで控えガードだった河村を、ウインターカップ本戦では先発に抜擢したのだ。

 あの1年生ガードは誰だ――。会場のそんな空気をよそに、福岡第一の背番号8は圧巻のスピードを披露した。しかしチームは優勝に届かず、1年目の冬は全国ベスト4で敗退。準決勝での河村は、10本の3ポイントシュートを放ったものの、1本もリングをくぐらなかった。

チームメートへ指示を送る高校1年次の河村 【(C)大澤智子】

「あの頃はまだ3ポイントが得意なタイプではありませんでした」と振り返る井手口コーチ。屈辱を味わった河村は、ここから猛練習を積む日々がスタートした。河村が高校2年次から取り組んでいた個人練習について、井手口コーチは次のように語る。

「もちろん、個人練習ができる時間は、コーチ陣が設定します。その与えられた時間でもしっかりと“自分のものにする”というか、要するにすべて彼の意思で取り組んでいるんです。3ポイントの練習もスクリーンを使ったり、いろいろな障害物を置いたり。それをマネージャーの子がパス出しやリバウンドをずっと手伝ってくれていました。限られた時間の中で最大限の効果を上げるための工夫が素晴らしいですよね。質を落とさずに、それを継続して毎日やっていたわけです。本当にいろんなシチュエーションを作って打っていましたから、私では考えきれないですし、見ていても飽きませんでした」

得点力の源は小学校時代の“恐ろしい”シューティング

 高校時代と現在における河村の印象的な変化について、中村は「得点力」を挙げた。

「本当に得点力が上がったなと感じます。高校生の時からシュートやドライブもうまかったですけど、一番の持ち味はパスでしたし、彼の考えの中でもパスが1つ目の選択肢だったと思います。それが今は得点力が一番の持ち味になっている印象です」

 2023−24レギュラーシーズンの第12節終了時点において、河村は得点ランキングで首位に立つ。味方へのアシストから自身の得点に比重を置くようになった転機は、日本代表を率いるトム・ホーバスヘッドコーチからの助言というのはよく知られていることだろう。

 だが、ホーバスHCの期待にすぐさま応えられたのは、河村に得点能力が備わっていたからこそ。その源は高校時代に培ったものなのか。井手口コーチは言う。「それは小学生の時の“恐ろしい”シューティングですよ」。

 河村は小学5年生の時から「連続300本イン」のシュート練習に励んできた。その内容はリング下のシュート左右連続50本、フリースロー連続10本、ミドルシュート連続8本、3ポイントシュート連続5本などがあり、井手口コーチは「『努力』と一言で済ませてしまったら簡単ですけど、なかなかできない。連続ですからね」としみじみと語った。

 ワールドカップで見せた勝負強さ、横浜BCを勝利へ導くアンストッパブルなシュートを可能にさせているのは、誰も真似できない日々を積み重ねてきた賜物だった。

河村の進化は止まらない 【(C)B.LEAGUE】

取材=バスケットボールキング編集部
文=小沼克年

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