書籍連載『THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント』

突出していたコービーの感性と学びの姿勢 NBA後のキャリアを特徴づける恩師との出会い

ダブドリ編集部

孤独な時間を過ごしていたコービー

 当時、マストリアーノはコービーの視点の鋭さやそれがもたらす影響や代償についてはっきりと理解していなかった。彼女は生徒にそれぞれ一幕の劇をフィラデルフィアの青少年劇作家フェスティバルに提出することを義務付けた。コービーが書いたものは『俺のダチへ』という題名で、もちろんバスケットボールに関する話だった。主人公のトラジャーはNBA行きが約束された高校生のスター選手で、親友のドムは麻薬の売人に射殺されてしまう。コービーが書く話はいつもバスケの話で、マストリアーノはそのことにずっと苛立っていた。ボールをつくことだけが人生ではないということがわからないのだろうか? 彼女はコービーがバスケットボールに没頭するあまり、本来の彼らしさがダメにされてしまうか消されてしまうのではないかと絶望的な気持ちになった。

「私には全体像がまったく見えていませんでした」と彼女は言った。

「プロを目指すことがいかに馬鹿げているかについて、彼とは何度か話したことがありました。しきりに『どれだけ望みが薄い話かわかっているの? ほかのことも考えてみなさい』と伝えていました。彼がどこへ向かっているのかを全く理解していませんでした」

 それでも彼女はコービーの助言者となり、二人の関係は続いた。生徒のほとんどは彼女を“マストリアーノ”と呼んだ。コービーは“ミセス・マストリアーノ”と呼ぶことでパムが念押ししていた礼儀正しさを保ちつつ、一番好きな先生の名前をイタリア風にrを巻き舌にして発音した。終業のチャイムがなったあとも彼女の教室に残ったり、自習時間の前に立ち寄ったりした。

 彼は同級生が一緒の授業中にはあまり発言しなかったものの、マストリアーノの記憶では「なぜこれについて習っているんですか?」「行き先が見えません」「個人的にはピンときません」「納得のいく理由を教えてくれますか?」と特に突っかかる風ではないが、質問することを躊躇するような生徒でもなかった。彼女はそういった意見は歓迎した。生意気な質問をし、異議を唱えるような尖った生徒は好きだった。成績でAを貰うためにごまをするおべっか使いにお世辞ばかり言われることに比べたら、余程ましだった。彼女はコービーがもっと授業中に発言すればいいのに、と思った。でもなぜ彼がそうしなかったのか、その理由には薄々気づいていた。

「彼は大勢がいるグループに属していたものの、居場所を見つけられていないようでした」と彼女は言った。

「彼は孤独な時間を過ごすことが多く、ドリブルを子守唄にしていると教えてくれました」

書籍紹介

【写真提供:ダブドリ】

 父ジョーからはバスケットボールを、母パムからは規律を学んだコービー・ブライアントは、幼い頃からコート上でその才能を輝かせていた。しかし、13歳でイタリアからフィラデルフィアに戻ったコービーは、バスケットボールという競技だけでなく、逆カルチャーショックやイタリアから来たよそ者というレッテルとも戦うことになってしまうのだった……。

 本書はNBAレジェンド、コービー・ブライアントがフィラデルフィアで州大会優勝を成し遂げ、レイカーズに入団するまでの軌跡を描いています。コート上の話だけでなく、アメリカの黒人文化や社会構造、また大学リクルートの過程などさまざまな要素が若きコービーに影響を与える様が綿密に描かれているファン必携の一冊です。

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著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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