日本のディフェンスが“消された”理由 ラグビー元日本代表・藤井淳が解説
ボールを良く動かしたが、孤立する場面も……
後半25分、日本はジョネ・ナイカブラのトライで追い上げた 【写真:ロイター/アフロ】
アタックではボールを良く動かしましたが、2つの「孤立」がありました。
ひとつ目は誰がボールを持って仕掛けるのかがわかりやすく、相手にビッグタックルを狙われた孤立。もうひとつはテンポ良くボールを散らす中で、コンタクトの後の2人目が遅くなってしまう孤立です。
15、19年大会の日本はフェイズ(攻撃の回数)を重ねる中で、誰が仕掛けるかわからない状況を作ってアタックを有利に進めました。
今大会は違う戦い方を選択したのか、何らかの理由でできなかったのかわかりませんが、わりとシンプルにわかりやすい形で攻めていたので狙われる場面ができたのだと思います。
2人目が遅くなるケースでは、SH斎藤直人選手がブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)に入ってボールを確保するのもひとつの方法でした。SHはパスをさばくのが仕事ですが、相手ボールになってしまう方が痛いので。
――チャンスで大きく展開しても、トライを取り切れないシーンもありました。
アルゼンチンはラインディフェンスで前に出てこなかったのですが、そこでライン際に飛ばしパスを出すと、ボールが浮いている間に対応されてしまいます。前に出てこないディフェンスに対してはタテに仕掛けるのが有効ですが、今日は広く攻めることを選んで、その結果としてトライにつながらないこともありました。スクラムが安定していたので、そこからタテに仕掛けて相手に圧力をかけて、展開する場合も1人ずつのパスでつないだ方が良かったと思います。
また、アルゼンチンのディフェンススキルも高かったです。人数が足りなくなっても落ち着いて見極めてパスの間に動く。そしてコンタクトの際には強く当たれるパワーと相手を倒すスキルがありました。
これはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのリーグ戦(ザ・ラグビーチャンピオンシップ)に、アルゼンチンも12年から参加しているのが大きいと思います。かつては情熱とパワーでがむしゃらに戦って、キックの名手が得点を重ねるスタイルでしたが、洗練されたスキルを持つチームに変わりました。
日本にしかできないアタックの確立を
日本代表にとってまた新たな戦いが始まる 【写真:ロイター/アフロ】
インパクトのあるプレーが多くて、すごく良かったですね。35歳になってもあれだけ動けるのはさすがだと思いました。
うまく言えないのですがオーラが出てきたような……。すごく存在感がありましたし、まだ燃え尽きていないように見えるので、これからのリーグワン、日本代表での活躍が楽しみです。
――日本は2勝2敗で決勝トーナメント進出を逃しましたが、この4試合をどう見ましたか? また、これからの日本に必要なものは?
フィジカルが成長して、19年大会の代表よりも強くなっていると思います。ただ、相手に的を絞らせないような、緩急を使った立体的な攻撃は見えづらくなりました。
シンプルな戦い方で世界のトップレベルと戦えているのは日本ラグビーの成長ですが、ここから上に行くには日本にしかできないアタックの確立が求められます。
19年大会に比べて今回は代表の活動期間が短かったですし、スーパーラグビー(南半球を中心にした世界最高峰リーグ)に参加していたサンウルブズがなくなり、コロナ問題があったことで国際試合の機会も減りました。
これからは日本ラグビー全体として代表強化のためのスケジュールを整理していかなければいけないですし、代表の少し下にいる選手たちが海外勢と対戦する機会も増やしてほしいと思います。
今大会はスクラムが良かったですが、ベテランが多いので次回に向けて新戦力の台頭に期待したいですし、松田選手に続くキッカーも必要です。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの退任も決まっているので、全国の選手たちはチャンスだと思って新指揮官にアピールして、4年後を目指してほしいと思います。
(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)
藤井淳/JunFujii
東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】
西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。