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前週2ゴールのヒーローが味わった屈辱 三笘薫はアストン・ヴィラ戦でなぜ沈黙したのか

森昌利

選手層が薄いチーム事情を言い訳にしない

若くて経験値が低いコンビが中盤センターを務めたことも三笘のプレーに影響を及ぼした。守備での負担が増え、最終ラインまで下がって身体を張る場面も少なくなかった 【Photo by James Gill/Getty Images】

 システム変更だけが原因ではない。このアストン・ヴィラ戦、今夏にモイセス・カイセドがチェルシーに移籍したことでレギュラーに昇格した22歳のビリー・ギルモアと中盤中央でコンビを組んだのが、18歳のジャック・ヒンシェルウッド。2017年からブライトンを支え続け、32歳にして先月の日本代表との親善試合でドイツ代表に初招集されたパスカル・グロスは故障で欠場した。

 この試合、三笘が最終ラインまで下がって守備をするシーンが再三見られた。それは、昨季のブライトンの中盤の底を支えたカイセドとグロスのコンビとの比較でかなり守備のクオリティが劣る、ギルモア、ヒンシェルウッドのダブルボランチが原因だった。

 今季のブライトンはクラブ史上初となる歴史的なヨーロッパリーグ参戦を果たしたことで、過密日程をこなさなければならない。三笘が6日前のボーンマス戦でベンチスタートとなったのも、出ずっぱりの日本代表MFに休息を与えるためだった。

 大切な主軸選手に疲労を蓄積させて、怪我をさせては元も子もない。しかし先発メンバーを頻繁に変更すれば、プレーのクオリティを一定に保つことが難しくなる。

 それはグロスが欠けたスタメンについて聞かれた三笘が、「選手を代えながらやっている。ただしそれで同じ質を保っているかというと、そうでもないと思う」と苦しげに答えたことからも明らかだ。しかしながら、今季のブライトンで“エースとなった自覚”が芽生えた26歳のMFは、「ずっと出ている身としては、そこでいい形に引っ張っていかないといけないと思う」と続けて、選手層が薄いチーム事情を“言い訳にしない”という姿勢を健気に見せていた。

 こうしたチームの苦しい台所事情があって、先発メンバーとシステムが変更された試合で、ブライトンは前半14分から26分の12分間で3点を失った。

 立て続けに失点したことに関して三笘は「雰囲気にのまれたところもあります」と言って、1部リーグ優勝7回を誇り、1981-82シーズンには欧州王者にもなっている古豪アストン・ヴィラの本拠地ヴィラ・パークの凄まじい声援に畏敬の念を示した。そして大量失点については、「失点してから取り返しにいこうとしたところで、縦パスで(ボールを)失って、(そこから)ショートカウンターってやつで。うーん、なかなか立て直せなかったですね」と話して、前がかりになったところで強烈なカウンターパンチを続けざまに浴びせられた試合を振り返った。

 わずかなシステムの変更やメンバーチェンジで、前週に3-1の逆転勝利を飾ったチームが1-6の惨敗を喫してしまうのだから、プレミアリーグは本当に恐ろしい。けれどもそれが、日本円で300億円という豊潤なテレビ放映権料が各クラブに分配され、どのチームにもある程度のクオリティが保証されるリーグの特徴なのだ。

 それに加えてサッカーはやはり11人で戦うチームスポーツ。いくら三笘がスーパーでも1人で苦しい状況を打開するのはなかなか難しい。

遠藤は「最も誇りに思う」チームの一員として

トットナム戦の遠藤は、2人目の退場者を出した4分後の後半28分から出場。変則の5-3システムの中盤センターで勇敢にプレーした 【Photo by Visionhaus/Getty Images】

 一方、遠藤航のリバプールは、ブライトンがアストン・ヴィラに大差で敗れたのと同じ9月30日にトットナムと対戦。VAR担当レフェリーのミスでルイス・ディアスの先制点が幻に終わった上、2人の退場者を出し、9人での戦いを強いられた挙句、後半アディショナルタイムの土壇場にジョエル・マティプのオウンゴールで勝ち越しを許して敗戦を喫したが、この負けは今季の優勝争いに名乗りを挙げる大きなステートメントになったと思う。

 リバプールはこの試合のパフォーマンスで、欧州チャンピオンズリーグ復帰を果たし、強豪復活の狼煙を上げたニューカッスルを相手にアウェーで10人での戦いを強いられながらも1点ビハインドの劣勢を跳ね返し、試合終盤にサブのダルウィン・ヌニェスが2ゴールを立て続けに奪って逆転勝利した強さ(8月27日のプレミア第3節)が本物であることを証明した。

 今季アンジェ・ポステゴグルーをセルティックから新監督として迎え入れたトットナムは、アーセナルのエミレーツ・スタジアムで行われた先週の北ロンドンダービーで、2度先行されながらも2-2のドローに持ち込み、ここまで6戦4勝2分の無敗。そんな強いチームを相手に、リバプールはMFカーティス・ジョーンズが退場させられて10人になった段階では、互角以上の戦いを見せた。

 試合終了直後のテレビインタビューでユルゲン・クロップ監督は、最後の最後に勝ち以上の引き分けを逃した失望に瞳に涙を滲ませながら、「これほどこのチームを誇りに思ったことはない」と話して、9人となっても凄まじい執念で、隙あらば決勝点を奪うという姿勢を見せた選手たちを手放しで褒めた。

 その9人の中に我らが日本代表主将もいた。

 この3日前に行われたレスターとのリーグカップで遠藤は、“チームにしっかりとはまった”という絶対的な存在感を示して、90分フル出場を果たしていた。守りだけではなく、遠藤本人が「ああいうプレーが自分の一番の良さ。遡れば湘南の時から前へ前へ(パスを出す)という意識でやっていました」と話したように、ドミニク・ソボスライが豪快に決めた勝ち越し弾を見事なスルーパスでアシストした。

 そしてこのトットナム戦では、ディオゴ・ジョッタが退場した4分後の後半28分から、9人での戦いを強いられたリバプールの変則5-3システムのなか、中盤中央で雄々しくプレーして、クロップ監督が「最も誇りに思う」と語ったチームの一員としてピッチを降りた。

 こうした超絶的敗戦の後にこういうことを主張するのは少々気が引けるが、この試合で一発退場となったジョーンズは次戦10月8日のブライトン戦の出場停止が濃厚となった。ということは、遠藤が三笘ブライトンとの対決で先発復帰する可能性が高くなったと言える。

 ニューカッスル戦ではセンターバックのフィルジル・ファン・ダイクの早すぎた退場も影響して真価を発揮できなかったが、遠藤をアンカーにして、右にソボスライ、左にアレクシス・マック・アリスターというリバプールの中盤がもう一度見たくて仕方がなかった。その中盤が三笘ブライトンとの初対決で再現されそうだ。

 というわけで今度の週末は、ただでさえビッグクラブがひしめき、その真剣勝負が面白すぎるプレミアリーグから、日本人サッカーファンはますます目が離せない。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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