姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』

姫野和樹がコンプレックスを告白した夜「ずっと普通の家庭がうらやましくて」

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すべてを知る親友の存在「僕は彼のためなら何でもできる」

現在29歳の姫野和樹。良い指導者と良い仲間、ラグビーに出会えたからこそ「今の自分がいる」と語る 【スポーツナビ】

――姫野選手は中学生時代にラグビーに出会ったのが大きかったのですね。

 それまではサッカーや野球をやっていたのですが、サッカーは当たっただけですぐ反則を取られしまって……。ラグビーは相手を吹き飛ばしたら褒められるので「こんなスポーツは他にないな!」と思って一気にハマりましたね。当時から体は大きくて、中学では“無双状態”だったので。

 中学の同級生だった磯辺裕太(西陵高-東海大-豊田自動織機シャトルズ愛知)は親友で、彼には支えられてきました。僕の境遇も知っていましたし。彼がいたから切磋琢磨できました。
 彼は本当に強い男です。僕は彼のためなら何でもできると思っています。それぐらいの親友です。

 磯辺をはじめラグビーを始めたことで良い指導者、良い仲間に恵まれた。ラグビーに出会えたからこそ、いろいろ教わることができて、今の自分がいるのでみなさんには感謝してもしきれないです。

――帝京大の岩出雅之監督(当時)からの指導は厳しかったようですね。

 僕が育った地区は名古屋市内でも下町のほうで不良が多くて、裕福でない家が多いと言われていて。僕もそういう環境で育ったからやんちゃだったんですね。

 それが帝京大で岩出先生にしっかりと厳しさを教えていただきました。大学に入った後にケガをしたんですけど、僕はクソガキだったので「こんなリハビリやっても意味ないだろ」って言っちゃったんですよ。いま思うと、大学1年生にもなってるのに本当に恥ずかしいんですけど(笑)。

 その日の夜、今でも覚えてますけど23時ぐらいに岩出先生から電話がかかってきて「クラブハウスに来い」と……。そこでしっかりと怒られました。厳しさを教えていただいて、泣いて帰りました(笑)。

 岩出先生は人を育てるプロだと思います。部員一人一人の特性を本当に良く見ていらっしゃって、それぞれに対するアプローチも違います。
 僕みたいなやんちゃな人間には厳しさを徹底的に教えてくれて、それがあるからこそ僕は考えるようになって、受け入れる力も増えたので。
 岩出先生には人間としての基礎を教えていただいたので感謝しています。

姫野和樹を育ててきた小さな奇跡

 インタビューの間、姫野は何度も出会ってきた人々への感謝を口にした。「僕は運が良かったんです」とも言った。
 誰を信じて良いかわからないような暗闇の中にいた少年が、出会った人々とぶつかりながら、笑いながら、食らいつきながら成長したのは、小さな奇跡の連続だったのだと感じる。どこかで何かがひとつでもズレていれば、今の姫野和樹はいなかったかもしれないのだ。

 人生は不思議であり、だからこそ魅力的である。姫野の飾らない、正直な言葉は、僕らが日々を前に進むための力にもなったのではないかと思う。
 ラグビー界最大のイベントであるW杯がまもなく始まる。姫野が戦う姿を目に焼きつけよう。

(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)

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