ネイサン・チェンが北京五輪のリンク上で突き上げた右拳 ショート世界最高得点を手に運命のフリーへ
フリープログラムへ向けて心は決まった
個人SP後の記者会見。ネイサン・チェンは大きなリードを得て2日後のFSに臨むことになった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
それで心が決まった。平昌のときは、ふたつのジャンプ構成を練習して心がぐらついていたせいで、どちらの構成も練習から安定感がなかった。北京では、予定構成をつらぬくのが正解だとわかっていた。だから公式練習でもずっと高難度の構成だけを練習し、うまくやってのける自信もついていた。
フリーは、ショートの順位の逆順で滑る。ぼくは、大嫌いな最終滑走だ。6分間練習が終わって氷からおりたあと待つのもいやだし、ほかのスケーターがどんな演技をするだろうとじりじりするのもいやだ。それもあって、ぼくは試合の様子をリアルタイムで追うようにしている。そのほうが、これからの展開について不安になったりはらはらしたりせずにすむからだ。パソコンやテレビの画面を見れば試合の展開はわかる。北京でも最終グループの動向を、直前に滑る優真のところまでチェックしていた。
カーテンで仕切られた待機場所で
滑走順が優真のつぎなので、優真のときはもうリンクのそばにいた。例のリンク脇の、カーテンで仕切られた、小さくて恐ろしい待機場所だ。カーテンの上にすき間があるので、目を上げると大スクリーンに映しだされる優真の姿が見えた。優真は4回転サルコウを決め、その瞬間に高得点が出るぞと思った。4回転ループはステップアウトしてしまったが、後半に4回転トウループからの3連続ジャンプを決めてきた。これはぼくもがんばらないといけない。
ぼくは自分のエネルギーを、もう一度心構えのほうへ振りむけた。カーテンで仕切られたこの場所はやはり恐ろしいけれど、望んでこの場所に来たのだ。来られたことに感謝しているし、思いきり楽しみたい。2度めのオリンピックで戦うためにきびしい練習を積んできたのだから。