【女子ラグビー】なぜ日体大ユニコーンズは見る人々の魂を揺さぶるのか。

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なぜ日体大ユニコーンズは見る人々の魂を揺さぶるのかー太陽生命ウィメンズセブンズ・秩父宮大会準優勝

 これぞ学生クラブの美徳か。女子7人制ラグビーの日体大ユニコーンズがひたむきプレーで、スタンドを沸かせ続けた。最後まであきらめず、結束してチャレンジする。誰もがチームのためにからだを張った。決勝戦。劇的な幕切れに少なくない数の人々の感涙をも誘った。こちらも、ちょっぴり泣けてきた。
 大健闘の準優勝。それでも、教育実習の合間、大会初日朝に栃木から駆け付けた日本代表のエース、4年生の松田凛日(國學院栃木高出身)は小声を絞り出した。
 「悔し過ぎるなあ」
 古賀千尋監督はこうだ。トレードマークの濃紺の帽子の下の顔を少しゆがめて。
 「悔しい。本気で勝ちにいったんで、やっぱり悔しいです」
 素朴な疑問。なぜ日体大のひたむきなプレーは見る人の魂を揺さぶるのか。監督は少し考え、こう続けた。
 「私は、“組織は個に勝る”とずっと言ってきています。(日体大が)どこよりもチームだからじゃないですか」
 
 ◆ロスタイム、執念のトライ

 4日の東京・秩父宮ラグビー場。前日と違って、朝から青空が広がった。日中の最高気温が27度。初夏を思わせる日差しの中、日体大が快進撃をつづけた。数少ない伝統的な横縞ジャージ、スカイブルーと紺色のそれが陽射しにキラキラ輝く。社会人の強豪クラブとは違い、外国人選手はひとりもいない。ただ結束があった。相手に挑みかかる気概があった。
 国内最高峰の『太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ』第2戦、秩父宮大会。メインスタンドは約3千人の観客で埋まった。日体大は第1戦に続き、またも決勝に進出し、第1戦と同じく「ながとブルーエンジェルス」と対峙した。
 試合終了のホーンが鳴る。次がラストプレーで、ながとボールのスクラムとなった。日体大の7点(ワントライとワンゴール)のビハインド。万事休ス。おおきなため息がスタンドから漏れた。
 でも、日体大はあきらめない。このスクラムをぐいと押し込んだ。凄まじいプレッシャーで、大会MVPとなった南アフリカ代表のナディーン・ルイスのハンドリングミスを誘い、ターンオーバー(攻守逆転)とした。
 日体大が攻める。7人一体となって、攻めに攻めた。つなぐ。スペースを突く。タックルを受けると、素早く、激しい寄りでボールを生かす。回す。左から右へ、右から左へ、アングルチェンジを絡めて攻め続けた。もう執念だ。
 相手の反則を誘発する。一度、二度。その都度、すぐにアタックする。スタンドのファンは日体大に声援と拍手を送る。「ニッタイ! ニッタイ!」。ラックの右サイドを向來桜子が小刻みなステップで駆け抜け、ゴール直前までボールを運んだ。二つ目のラックの左サイドを主将の新野由里菜が突き、右中間に飛び込んだ。
 トライだ。新野も向來も両手を突き上げた。ともに顔はくしゃくしゃだ。電光掲示板の数字は試合時間の後半7分を大幅に超え、「9:10」だった。ゴールが決まれば、同点となる。延長にもつれ込む。

 ◆無情のゴール失敗、駆け寄るチームメイト

 しかし、簡単そうに映るが、実は中央右寄りのドロップゴールは右足キッカーには意外に蹴りづらい。案の定、新野が蹴り込んだドロップゴールは無情にも左ポストに当たって外れた。22-24のノーサイド。あと一息だった。
 新野主将は両手で顔を覆い、そのまま膝まづいて泣き崩れた。給水係が、そして東あかりがすぐに駆け寄り、他の選手も励ましに次々に集まった。いいチームだな。新野主将の述懐。
 「ああ、“やっちゃった”って思いました」
 表彰式後、もう涙は乾いている。主将の言葉には悔しさと満足感が混じる。
 「まあ、前回(熊谷大会)よりは自分たちの準備したことは出せました。ドロップゴールはもう、練習するしかありません。次に切り替えます」
 学生のプライドとは。
 「チャレンジすることです。いつも、チャレンジャーということを肝に銘じています」
 再び、松田。
 「点差以上に力の差を感じました。例えば、ブレイクダウンのところだったり、接点のところだったり。まだまだ、差はあるなあって。いいファイトではなく、自分たちはやっぱり優勝したいので。次はしっかり準備して試合に臨みたいと思います」

 ◆スーパー大学生たちの誇り

 このシリーズの第1戦の熊谷大会の決勝戦(5月21日)では、日体大はながとブルーエンジェルスに0-31で完敗していた。確かに松田が欠場していたことはある。だが、とくにキックオフのレシーブ(7人制ラグビーではトライを取ったチームのキックで再開される)でやられた。反撃の糸口をつかめなかった。
 だから、この2週間、キックオフのレシーブを徹底して練習してきた。男子選手にも手伝ってもらった。その効果だろう。布陣が安定し、向來らがナイスキャッチを重ね、何度も逆襲に転じたのだった。
 日体大のキックオフから先制トライを奪われたが、前回決勝のように連続トライは許さなかった。松田の60メートル独走トライ、敵陣ゴール前の相手スペースを突いた大内田夏月の連続トライで12-7と一時は逆転した。
 後半も連続トライを許したあと、東あかりのトライで追いすがった。
 松田は言った。
 「前回はキックオフの部分で“ながとさん”にやられていました。でも、今日は修正して、試合に臨めたのかな、と思います」
 攻守に活躍した堤ほの花(ディックソリューションエンジニアリング)もまた、チームの成長を実感する。25歳のOG。日本代表として、いぶし銀の光を放つ。言葉に充実感がにじむ。
 「熊谷では悔しい気持ちが強かったんですけど、今日はやり切ったなと思いました」
 学生チームのプライドを聞けば、「私は社会人のOG枠ですから」と笑った。
 「でも、気持ちは大学生。回復力がちょっと違いますけど。みんな、しっかり自分のやるべきことをやり切って、ちゃんと試合で出してくれます。スーパー大学生たちだなと思います。ほんと、誇らしいです」

 ◆学生のプライド、日体魂

 日本ラグビー協会の宮﨑善幸・女子セブンズ日本代表ナショナルチームディレクターは、「日体大の強さは“学生のプライド”」と表現した。
 「相手に外国人がいようがいまいが、自分たちのラグビーで勝つといった強い気持ちを感じます。外国人がいなくても言い訳なしで勝負しているんです。どのチームも、日体大と戦うのが一番嫌なんじゃないでしょうか」
 なるほど、激闘となった準決勝の東京山九フェニックス戦も、決勝のながとブルーエンジェルス戦も、組織ディフェンスで強力外国人を封じ込んでいった。ひとりでダメなら、二人のダブルタックル、三人のトリプルタックルで。
 倒れたら、すぐに立ち上がる。組織ディフェンスの持ち場に戻る。スペースをつぶす。そのためには相手を上回る運動量が求められる。タフな気持ちも。そこに厳しい毎日の鍛錬の跡がみえるのだった。

 ◆次こそ、ユニコーンズ、ナンバーワン!

 表彰式。
 準優勝のトロフィーをもらい、日体大選手は記念撮影では人差し指を突き上げて声をあげた。
 「次こそ、ユニコーンズ、ナンバーワン!」
 学生ならではの覇気が風にのる。笑顔がはじける。古賀監督はこう、しみじみと漏らした。
 「学生にほんと、“ありがとう”ですよ」
 グラウンドからの帰り際、4年生の松田と2年生の向來、髙橋夏未の三人が並んでスタンド下のコンコースを歩く。
 学生のプライド? いや日体大のプライド? そう日体魂を聞けば、なんだろう、と笑い合った。
 松田は言った。
 「負けん気」
 向來は笑いながら右手を頭にのせた。
 「ここに角が生えていることかな」
 日体大の愛称ユニコーンズのユニコーンは伝説上の動物「一角獣」である。額に魔力を持つ一本の角が生えているとされている。
 向來は言った。
 「私は、2年生だからまだ2本」
 髙橋も言葉を足した。
 「私も、2年生だから2本。4年生は4本」
 三人が口をそろえた。
 「次こそ、絶対、ユニコーンズ、ナンバーワン!」
 このポジティブさと明るさがいい。笑い声がコンコースに響きわたった。(松瀬学)

決勝のながとブルーエンジェルス戦で突進する日体大ユニコーンズの松田凛日(4日・秩父宮) 【撮影:善場教喜】

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著者プロフィール

本学は、「體育富強之基」を建学の精神とし、創設以来、一貫して、スポーツを通じ、心身の健康”を育み、あわせて世界レベルの優秀な競技者・指導 者の育成を追求し続けてきたことに鑑み、「真に豊かで持続可能な社会 の実現には、心身ともに健康で、体育スポーツの普及・発展を積極的に推進する人材の育 成が不可欠である。」と解釈し、科学的研究に裏付けされた競技力の向上を図りつつ、スポ ーツを文化として幅広く捉え、体育・スポーツを総合的・学際的に探究する大学を目指し、 各学部、各研究科がそれぞれ目的を掲げ、教育研究を行なっている。

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