連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

【工藤公康】チームを勝利に導くトラックマンの有効活用 監督時代に着目した「継投の根拠」となるデータとは?

工藤公康

次の登板までのコンディショニングに活用

2020年の日本シリーズ開幕戦、7回を投げ終えた先発投手の千賀とベンチで話す工藤監督 【写真は共同】

 しかし、トラックマンのデータは、試合中にリアルタイムで得られるわけではありません。試合後、あるいは次の日にしか、データとして見ることができないものでした。「それでは意味がないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

 では、実際にどう活かしていたのか。

 トラックマンで得られたデータを、次の登板までの調整に活用したのです。選手からもコメントをもらい、その上で、リリース位置の高さや長さの変化の様子、ばらつきや傾向をもとに、ケアが必要な場所があればアドバイスをしました。また、トレーナーに情報を共有して確認してもらい、コンディショニングやトレーニングが必要なのであれば調整のなかに組み込むなど、そのデータをもとに次の登板までの準備として活用してきました。

的確な継投のために首脳陣の「目を養う」

 そしてもうひとつは、監督やコーチの「目を養う」ために活用するということです。

 野球の采配においてもっとも難しいと言われていること、それは“投手の継投”です。どのタイミングで投手のメカニックが崩れてきたのか、どういったボールが出始めたら交代が必要なのか、データなどがリアルタイムで入ってくる状況ではない以上、自分たちの目でその判断をしなければいけません。

 その上で、実際に交代をしたタイミングと次の日に出てきたデータを見比べ、照らし合わせます。選手にもコメントをもらい、コーチにも試合中に感じたことや、データを踏まえたコメントをもらい、最終的に監督の私もコメントを書きます。

 毎試合その作業を繰り返すことで、自分たちの目を養い、よりベストなタイミングで投手の継投ができるようにデータを活用していました。

データについて深く「考える」ことが大切

「選手をケガから守る」「コンディションを維持する」「パフォーマンスを向上させる」ために、データを活かすことが何よりも大切になります。医科学が進歩し、多くのデータが得られるようになりましたが、現場での活用法はまだまだ手探りの部分が多いのが現状です。

 選手の現状とデータを結びつけるための方法論を追い求めることで、初めてデータや医科学を活かすことができます。目先のデータや数値に捉われず、「なぜその数値が出ているのか?」「どうしてそのようなデータになったのか?」を考えることが重要です。課題を改善するため、今後に活かすための方法論を考えていくことで、違った視点からデータを見ることもできると思いますし、新しい発見などもあるかもしれません。

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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