2025年春開業予定の神戸アリーナ キーマンが語る「次世代アリーナ」の意外な狙いと新機軸

大島和人

環境問題などの「社会課題」に取り組む

神戸アリーナのプロジェクトを主導する渋谷順氏 【提供:株式会社One Bright KOBE】

 アリーナ事業の大きな収入源となるものが「社会課題解決型」のソリューションだ。アリーナが社会課題を解決すると言われてもなかなかイメージしにくい話だが、アメリカには豊富な先行事例がある。渋谷氏はこのように説明する。

「シアトルにクライメット・プレッジ・アリーナ(気候誓約アリーナ)という施設があります。Amazonが命名権を獲得し『2040年までに自社の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする』という目標の一環で世界初の「CO2排出量ゼロアリーナ」を目指すとして名付けています。ごみ箱を設置せず、生ゴミを堆肥にする装置のコンポストとリサイクルボックスのみを置き、アリーナの使用電力を施設内外のソーラー発電でまかなうなど、新アリーナはこの理念を体現すべく二酸化炭素の排出ゼロを目指すように工夫されている施設です。そういう取り組みに対して、Amazonは1年間に二十数億円払っているんです」

 日本に1社で二十数億円も出す事業者はおそらくいない。ただCO2の排出権は既に取引が盛んに行われており、企業はSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)への関心を高めている。

「日本でも次世代アリーナにおいてサステナブルな文脈で水質改善や脱炭素、食品のロスゼロを一緒にやっていきましょうという事業者さんは必ずいると思います」

「アプリ」が街の活性化にも寄与

 もう一つの新機軸はスマートフォンなどにダウンロードされる「アプリ」だ。チケット、飲食の注文などアリーナに関わるものが集約されることになる。

 さらに地域の商業施設、観光施設、交通機関を巻き込んだマーケティングツールにできれば、街おこしの核にもなり得る。アメリカやヨーロッパのようなベッティングが解禁されれば、それも確実にニーズが高い機能になる。アメリカ、ヨーロッパでは複数の企業が「スタジアムアプリ」「アリーナアプリ」に関するソリューションを提供していて、普及が始まっている。

 当然ながら利用者側にメリットがなければ、アリーナアプリは普及しない。提供者と利用者がWin-Winの構造にならなければそこに価値は生まれない。

「利用者の利便性があってこそのアプリです。たとえば公共交通機関を利用して徒歩で来場いただいたお客様は、アプリ内で脱炭素に貢献されたことが可視化されますよね?その特典として神戸の都心・ウォーターフロントエリアで利用できるようなデジタル通貨が発行され、お得に利用いただけるようにするなど、神戸アリーナを基点にした新たな価値の体験やサービスの提供をしていきたいと思っています」

広がる「楽しみな未知数」

神戸アリーナはリアルとバーチャルの結節点として期待されている 【提供:株式会社One Bright KOBE】

 ただしアリーナアプリの導入、ITの利活用については良くも悪くもまだ全貌が見えない。30年前に世界で爆発的にインターネットが普及し始めた頃、それを介してこのような内容の経済圏が生まれると正確に想定できた人は皆無だろう。現時点で明確に言えるのは「アメリカやヨーロッパでも始まったばかりの取り組みが、日本でも神戸から始まろうとしている」こと。その先は日本のエンターテインメント産業にとって“楽しみな未知数”が広がっている。

 民間のアリーナは自治体の建てる体育館では不可能なチャレンジが可能だ。それが成功すれば納税者やチーム、観客が負担するコストは下がる。そして事業に関わったデベロッパー、運営者にまで利益が生まれるならば、永続性の高いビジネスとしてこの国に根付いていく。自治体や大企業ではない彼らがこのチャレンジで結果を出せば、今後のアリーナ建設にも弾みがつくだろう。そういう面でも、神戸アリーナの取り組みは楽しみだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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