高津臣吾「明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと」

高津監督就任初年度の屈辱と、そこで得たもの。手応えがなくても、信じて進むしかない

高津臣吾

手応えがなくても信じて進むこと

 先にも述べたように、かつて野村克也さんは「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目に花を咲かす」と宣言し、見事に就任3年目に優勝した。

 正直言えば、手探り状態で進んだ1年目だった。「こういうときは何をすればいいのか?」「こんなときはどんな手を打てばいいのか?」を手探りで探している感じだった。野村さんの言うような「種をまく」ということがきちんとできたのかどうかは、この時点ではまだ自分ではわからなかった。

 このとき、自分が現役だった頃、プロ1年目のオフのことをふと思い出した。

 プロ1年目、僕はリリーフをやったり、先発を任されてみたり、いろいろなことを経験した。その年のオフの秋季キャンプで野村さんと面談があった。そこで、「この1年どうだった?」と聞かれて、僕は「選手としてうまくいくかどうかはまだわからないけど、プロ野球の世界というのは大体こんな感じなんだなということが理解できました」と言った。

 初めて1軍監督として過ごした1年を終えたとき、まさにプロ1年目が終わった心境と一緒だった。1軍監督のやるべきこと、あり方というのがかなり見えてきた気がしたのだ。もちろん、たった1年では深いことはまだわからないかもしれない。「10」あるうちの、せいぜい「1」か「2」程度の理解かもしれない。

 それでも、まったくの「0」から始まった開幕時期を思えば、確実に「1」か「2」かはわからないけれど、理解できることが増えていた。

 野球は生き物だから、今年の野球と来年の野球は決して同じものではない。それはわかっているけれど、初年度に経験したこと、感じたことは絶対に翌年に活かさなければいけない。それは強く思っていた。

 「今年、つかんだこと」とは、具体的にはこんなことだ。例えば、1軍と2軍の連携である。自分も2軍監督だったから、その点は理解していたつもりだったけれど、いざ自分が1軍監督になってみると、2軍にかなりの負担を掛けてしまうこともあった。選手たちに迷惑を掛けることもあった。

 その点はしっかり反省して、2021年シーズンに備えたい。

 やるべきことはまだまだある。しかし、監督に就任したばかりの1年前と比べれば、わずかながらも進歩したこと、一歩前に進んだこともあった。

 選手たちは本当によく頑張ってくれた。しかし、まだまだ足りないところも多い。もちろん、それは首脳陣たちも同様であり、監督である僕のことでもある。それでも、何も希望の光がなかったわけではない。やるべきことがわかっているのならば、あとは一つずつそれをクリアしていけばいい。

 道は遠く険しいかもしれない。けれども、一歩ずつ歩んで行けば、必ずその先には明るい未来が待っている。僕はそう、信じていた。

 2020年はファンの皆さんに悔しい思いをさせてしまった。その責任を強く感じることとなった。我々はまだまだやるべきことの多いチームだ。だからこそ、この悔しさを決して忘れずに、来季こそはファンの皆さんと喜べるように選手一丸となって頑張るしかないのだ。

 そんな思いとともに、2021年シーズンを迎える決意を固めていた。

 この時点ではまだ、「日本一」の予感など、微塵もなかった――

「明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと」

【写真提供:株式会社アルファポリス】

 2021年、東京ヤクルトスワローズ髙津臣吾監督は前年最下位だったチームをセ・リーグ優勝、さらに20年ぶりの日本一へと導いた。若手選手が次々と台頭し、主力・ベテランが思う存分力を発揮するそのチーム力は、スワローズの新黄金時代の到来すら予感させる。全ての選手が明るく楽しく野球を楽しみ、かつ勝負にも負けない。髙津監督はこの理想のチームをどのようにつくり上げたのか――


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著者プロフィール

1968年広島県生まれ。広島工業高校卒業後、亜細亜大学に進学。90年ドラフト3位でスワローズに入団。93年ストッパーに転向し、20セーブを挙げチームの日本一に貢献。その後、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年シカゴ・ホワイトソックスへ移籍、クローザーを務める。開幕から24試合連続無失点を続け、「ミスターゼロ」のニックネームでファンを熱狂させた。日本プロ野球、メジャーリーグ、韓国プロ野球、台湾プロ野球を経験した初の日本人選手。14年スワローズ一軍投手コーチに就任。15年セ・リーグ優勝。17年に2軍監督に就任、2020年より東京ヤクルトスワローズ監督。

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