書籍連載:ヤニス~無一文からNBAの頂点へ~

家族の絆を武器に手にしたMVP ヤニス~無一文からNBAの頂点へ~

ダブドリ編集部
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家族との絆が、MVP獲得の原動力となった 【Gettyi Images】

 授賞式が始まると、ヤニスは兄弟に囁いた。「なぁ、もし僕が受賞したら、一緒にステージに上がってほしい」。

 アレックスは驚いた。直感的な答えはノーだった。「僕たちには無理だと思ったんだ。僕は絶対に泣いちゃうと思った」とアレックスは言う。アレックスは黙っていたが、コスタスの答えはもっとはっきりしていた。「いいや」とコスタスは言った。「一緒には行けないよ」。

 アレックスは考え直し始めた。「一緒に行くべきなのかも?」。

 一番年上のサナシスが答えを出した。彼はヤニスを見て言った。「これはお前のものだ。自分で行くんだ」。

 「サナシスは、話しかけるのも憚られるぐらい、エモーショナルになっていた」とアレックスは言う。

 みんなそうだった。しかしサナシスが自分の考えを話すと、コスタスとアレックスは、もちろんサナシスが正しいことに気がついた。ヤニスは、一人でステージに上がるべきだった。「これは彼にとって一生忘れない出来事になるはずだから、それが彼自身のものであってほしいと思ったんだ」とアレックスは言う。「僕らもここまで一緒に来た。でも彼だけで、他に誰もいなくて独りぼっちだったこともある。そういうことも考えると、やっぱり彼一人でステージに上がるべきだと思ったんだ」。

 ヤニスは、もし受賞しても泣かないと誓った。兄弟は同じ約束をすることができなかった。

 彼らはしばらくの間、ずっと待っていた。そして、その瞬間はついに訪れた。アダム・シルバーが、2019年のMVPにヤニスの名前を発表したのだ。
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著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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