青木真也がONE参戦の10年間を振り返る「勝ち続けたり、作られたものよりも美しいものがあるはず」そして想う“格闘技の真髄”とは?

ONEチャンピオンシップ
チーム・協会

【ONE Championship】

世界各国から多くの強豪達が凌ぎを削るアジア最大の格闘技団体「ONEチャンピオンシップ」。参戦する多くの日本人選手達の中でも一際光を放ち続けているのは、他でもない、青木真也だ。青木は2012年にONEに初参戦すると、数々の名勝負を産み出し、第2代、第6代のONE世界ライト級王者の称号を手にした。そして、10周年を迎える現在もなおライト級タイトル戦線を占う重要なキーパーソンの一人として注目を集める存在だ。その青木に自身のONE参戦10周年について心境を尋ねた。
ー10月6日で、ONEに参戦して10周年ですね。おめでとうございます!
「おめでとうじゃないよ。まあ、こんな10年やると思わなかったし、いるとも思わなかったし。団体があるとも思わなかったから。10年続く格闘技団体って。PRIDEっていう団体が10年持たなかったので、10年団体を続けるってのは大変なことだから、それはすごいことだと思いますよ。ONE出てから10年っていうので、僕がやってきたのはテメェのことだからどうでもよくて、よくやってくれたなって気持ちが強いですよ。この業界に入って20年、その前にファンだった時から30年、見てきましたけど、出ては消えての繰り返し。プロレスだってそうじゃないですか。なかなかメジャーなものしか続かないですよね。そこはすごい、よくやってくれた、ありがとうという気持ちです。」

ー青木さん個人の感想をお伺いしたいのですが、ここまで来て思えば遠くにきたもんだ的な気持ちでしょうか、それともまだ志半ばという感じでしょうか。
「志なんかでいうと、ONEに来た時点でないですよ。僕だって29歳、30前にONEに来ましたから。ある程度見えて、力を得てからきたし、本当によくやってきたなっていうのと、良い思いさせてもらったなって思いますよ。」

【ONE Championship】

武藤敬司におけるシャイニングウィザードみたいなものが、自分の中で作れた

ーこの10年間、当時と比べて自分に変化っていうのはありましたか。
「僕自身、右肩上がりでは正直ないですよね。いまだに覚えていますけど、2018年かな、試合前のインタビューで2016年、2017年と負けて『もう青木は終わった』って声があるって言われて、大きなお世話だよ。勝敗でしか見られない寂しい奴らだなと。そこまで言われてひっくり返してきたりとか。怪我はないですけど、その時その時で自分の戦う技を作ってきたっていうのは、試行錯誤の中でよくやってきたなって思いますよ。最近、武藤敬司の話をよく出すんだけど、武藤敬司が膝を壊して、その後にシャイニングウィザードって命名も含めて天才だと思うんだけど、膝に大きな負担のかからない技でフィニッシュするっていう芸をやっていた。その武藤敬司におけるシャイニングウィザードみたいなものが、自分の中で作れたことは、この10年歩いて来られた理由の一つなんじゃないかなと思います。」

ー武藤さんのシャイニングウィザードっていうのは青木さんにとって?
「青木真也における組み合わせですね。組み合わせで緩急をつけたりとか、自分で持っているものの組み合わせ。よりシンプルにしていくっていう。自分の中での組み合わせの量を作れたっていうのは大きいですよね。試合の中で作っていくものもそうですし、試合以外で書くこともそうだし、しゃべることもそうだし。自分の試合をこうやって見るんですよっていう見え方を提案してあげられるっていうか。自分のパフォーマンスが圧倒的に落ちた時にカバーできたのは大きいんじゃないかなと。」

ー続けてこられたのは「格闘技が好きだから」ということですが、階級の中でも体が大きい方でもなく、試合では色々と工夫が必要だったかと思います。
「工夫はあるようでなくて自分のコンディションを常に良くしていくことと、相手が前に立ったらどうやって駆け引きをするか。どうやって揚げ足を取って相手の失敗を誘うかっていうゲームだと思うので、上手くなったのかなと思いますけどね。」

「スポーツ選手としては身体的な素質はないと思うんですよね。父の家系は野球で。父の兄が甲子園で2番だったんですよ。子供の頃にバットを振って見せたら、ダメだなってなって、じゃあ何やらせようってなって柔道を始めた。自分が好きだったからこうなったんですよね。身体的な素質がないのは自分でも分かっていますよね。子供の頃から工夫をし続けてきた。それは格闘技のことだけじゃなくて。ちょっと自信があるのは、揺るがないものがあると思っているのは、誰もがこれをここまで好きで追求できるものじゃないですから。好きになれることじゃないから、それは強いですよね。」

【ONE Championship】

賛否が分かれるものを作りたい

ー多くの人に見てもらうことは必要なんだけれども、自分の表現がわかってもらえる人だけにわかってもらえれば良いという。ある意味相反することではあるのですが。だからこそ青木さんのスタイルは他の選手と違うというか…
「そうですね。ONEで言うと、賛否を嫌うから、選手も若い子たちも面白いことを言わないじゃないですか。僕は賛否があるものこそ面白いと思う。僕は、青木のやっていることつまんねぇと言う人と、面白いって言う人、二つ欲しいというか。賛否が分かれる方が面白い。みんな賛否が分かれるものを嫌うというか、否定されることを嫌う。僕は賛否が分かれて、賛成してくれる人が圧倒的な熱量を持って支持してくれるっていうのが僕の子供の頃から魅了されてきたものではあるんですけど、賛否が分かれるものを作りたいって思っています。」

ー“毎日コツコツと生きていく”と。日々の変化を俯瞰しながらも競技者として対応していくって言うのはなかなかできることではないですよね。
「そうですね。中々できないのは、ずーっと同じことを淡々とやるっていう。39とか40にもなって。それは他に働いた方が安定するとか、利率が良いとか色々あるだろうし。身体のことを考えてもリスク背負ってやるってことがあんまり得だと思わないって言うのもすごくわかる。これをやるって言うのは、頭が悪い、非合理な生き方だって言うのは、当然理解できているんですよ。でも、だからこそ、だってお前たちできないじゃんって言うのは強く思っています。同世代もそうですし、一個上の先輩方も引退されて、業界の立ち位置を取っていますけど、同年代も先輩方も僕に何も言えないんですよ。それは僕が、お前らよりもやっているから、誰よりもやっていて、競技に対しては誰も文句言えないことを俺はやっているつもりだし。それだけは嘘をつかずにやってきた自負がありますよ。」

ONEを代表するチャンピオンを俺が作ったと思っている

ーこれまで特に記憶に残っている試合を5つ挙げるとしたら。
「マラット・ガフロフとのグラップリングですね。理由は、僕連敗していたんですよ。フォラヤンにやられて、ゲイリー・トノンに良い試合だったけどやられて、ベン・アスクレンにやられて。皆んなに、もう青木ダメなんじゃないって言われて。それでジャカルタでグラップリングマッチやって本当に競った試合で勝って、また出来るなって思いましたね。初めて(勝利者コールで)手を上げた時に、ONEでやってきて初めて上から光が差してきたなって思いましたね。自分に光が差してきたなって。あれが一番印象に残っていますね。もう一つは、クリスチャン・リー。あの時はチャンピオンになって、その時は一番強いやつにぶつかりたい、そして若い力から逃げない。35歳になって、みんなが若い力を無視して生きるのか、若いやつと争って戦って生きていくのかって。自分は若い奴にぶつかって生きて行きたいって。1ヶ月半で試合をやって、その時に自分の伝えたいメッセージだったり、自分がやりたかったこと、思いっきりぶつかったことに全く悔いはないですね。あの後に立派なチャンピオン。クリスチャン・リーっていうONEを代表するチャンピオンを俺が作ったと思っていますから。チャトリもわかっていないと思っていないかもしれないけど、俺がやりたいって言って、俺が引き上げて、俺がスイッチして、俺が作ったと思っていますから。そう言う意味では僕がやりたかった格闘技をできた。」

「あとは、エドゥアルド・フォラヤンとの一番最初。あの時は、自分の人生の苦しい時だったし。家庭がうまくいかなかったり、人生がうまくいかない時で、試合もモチベーションが少なかった時期。エドゥアルド・フォラヤンに負けて、フィリピンを代表する、ONEを、アジアを代表する選手で。ONEのグッて上がっていくのを加速させたのは、これまた俺だと思っているから。良い負け役だったと思うんですよ。2回目は、両国の時ですね。自分がなんとしてでも、日本で勝つっていう強い思いで勝つんですよ。お互いでONEを作ってきたよねっていう試合だった。3回目が一番印象強くて。2021年なんですけど。5年間で3回試合しているんですよね。あの時は、スクランブルで試合が決まった時で。リードカードで組まれていて、その時、フォラヤンはストライカーだし当時はコンディションも良くなかったです。彼は、フィリピンを代表する選手だからフィリピン大会を作るために厳しい試合をしてきた選手。フィリピン大会を作るために、イベントを支えるという役割をしてきたって意味で、僕の中では同じようなマインド、同じような意志がある選手だなと思っていたんです。3回目、対戦相手がスイッチして彼と戦うよってなった時、僕OKですって返して、彼も同じでした。スクランブルで。それってこのキャリアだと中々ないこと。どっちかが嫌だって言うんですけど、あぁこの人もイベントに対してちゃんと気持ちのある人なんだなって思いましたね。僕が勝たしてもらったんですけど、試合が終わってお互い大変だよね、分かるよなってリング上で少し話して。僕がワンモアって言ったんですよ。そしたら彼が笑っていたのを見て、あぁこれはすごく良い関係性だなって感じましたね。お互いワンモアって言うのはないのはわかっているんですよ。もしかしたらあるのかもしれないよ、ONEがもう一回組むのかもしれないけど、その時に何ヶ月後に想像できるワンモアって言うのはないんと思うけど、なんかお互いまた続けようね、続けていたらまたどっかで会えるよねって。またねって言うのがワンモアって言う気持ちでしたね。それが一番印象強いです。僕からそう見えているだけで、彼からどう見えているかはわからないんですけど。僕は彼に対して思い入れはありますね。5年で3回やっているからね。人生で苦しい時の3回なのよ。お互い勝って負けてを繰り返して、ありがとうねって言う。一緒に作ってきたという気持ちがありますね。」

【ONE Championship】

勝ち続けたり、作られたものよりも美しいものがあるはず。自分が現実のものでいたい。

ー5つ挙げた中で、ベストは?
「難しいね。誇りに思っているのは、クリスチャン・リーに負けた試合と、フォラヤンに負けた試合ですね。そのうちのどっちを決めろって言われたら難しいけど、俺がその二人のチャンピオンを作ったから。俺が作ったんだっていう意識が強いですよ。俺のベストはあの二つじゃないですかね。普通だったら勝った試合、チャンピオンになった試合を挙げますけど。チャンピオンになった試合っていうのは、人に作ってもらった試合なんですよ。両国での試合なんかも、朴さんとの試合も。作ってもらった試合ですよね。相手にっていうよりも、ONEだったり周りの人たちに。クリスチャン・リーもフォラヤンも、自分で作って、自分でパスしたっていう試合だから、良い仕事したなっていう気持ちが強いです。ただ、これはちょっと理解されないんだと思う。ONEの人たちは負けることも仕事っていう感覚は、やっぱり未だに共有できていなくて。そこら辺は毎回ちょっとモヤモヤするかな。彼らが言っているのは英雄伝説っていうか。僕が描きたかったのはちょっと違うというか。勝ち続けたり、作られたものよりも美しいものがあるはずって僕は思っている。」

ー誰の挑戦でも受けるっていうのも青木さんのマインドですよね。
「マインドで言うと。会長と直接関わったのは本当に数回しかないんですけど、僕の場合はイノキイズムっていうのは申し訳なさすぎて、僕はイノキにインスパイアされた人にインスパイアされた人で。厳密にイノキイズムではないけど、イノキに影響を受けた人に猛烈に憧れて格闘技をやっているから。そこら辺の影響は強いですね。」


ー勝利数もあまり気にされず、できるなら若いやつとやって行きたいと。それは青木さんの変わらない信念ですね。
「面白いものというか、リアルでいたい。自分が現実のものでいたい。作られた偽物感はいらない。負けたら仕方ない。って。単純に自分が求められたことに、自分が思ってちゃんと答えていくのが自分の使命だと思っています。」

僕がレジェンドっていうのはまだ恥ずかしい

ー新しい世代の選手が出てくる。伝統を踏襲しつつも新しいものに向き合っていかないとと思いますか。
「試合として向き合っていくし、争っていくっていう考え方かな。雑な言い方だけど、頑張ってやっていくしかないですよね。逃げることはしないなっていう。」

ー2019年にベルトを渡して、クリスチャンは一度ベルトを獲られるも獲り返しました。
「オク・レユンが勝っているけど、一番追い詰めたのは俺だよ。って思っていますよ。そのくらいは、おじさんは酒のつまみに話していますよ」

ーレジェンドって言われるじゃないですか。それについては、どう思っていますか。
「なんかね、くすぐったい。俺別にまだ好きでやっているだけで、レジェンドって言われて、馬鹿にしないでよって思っちゃいますよね。まあ好きでやっているだけですから、本当に。日本人でレジェンドって言ってもらえるのは俺くらいなのかな。秋山さんとかもそうなのかな。その意味でもレジェンドって言われるのはありがたいことだけど、ちょっと恥ずかしいですよね。(この歳で)この熱量でやっているのは確かにレジェンドなのかもしれないんですけど、僕が思うレジェンドっているのは一段上ですね。拝める対象だから。日本で言うとアントニオ猪木になっちゃうだろうし、ヒクソンとか、ヘンゾとか。ムエタイでいうとシットヨートンの会長とか。そう言うレベルの人じゃないですか。そこに僕がレジェンドっていうのはまだ恥ずかしいですね。」

ー若い奴には気持ちを見せたいってコメントもよくされますが。
「自分のやってきたこととか、自分のやってきた主義主張、信念をぶつけるっていうのは大事にして行きたい。」

【ONE Championship】

どんな苦境でも生き抜くっていうのが本当の意味での強さ

ーご自身が格闘技の真髄とは。
「生命力じゃないですかね。生き抜く力だと思うよ。どんな状況でも、どんなに苦境でも、食うものがなくても、生き抜く力っていうのだと思いますよ。」

ー世界一になりたい、強いやつを倒したいっていうのは、よくファイターから聞く言葉ですが。
「世界一になりたいとかは外的要因。それだったら、世界一に誰もやっていないことを作って、自分だけがやれば良いんですよ。でも、自分がやりたいこと、伝えたいことはそこじゃなくて、どんな苦境でも生き抜くっていうのが本当の意味での強さだと思うから、それを伝えたいですね。」

ーONEで10年やってきていますが、まだまだ成し遂げていないと思うことはありますか。
「成し遂げたいことは特にないですよ。試合が来れば元気にやって行きたい。世界を変えたいとかは思っていないです。自分が好きなことを自分が思うようにやっていくことです。」

ー戦いたい相手はいますか。
「本当にいないのよ。試合が来たら元気にやって。相手がいないから組む側も困っていて。でも来たら元気にやりますよ。」

ー青木さんが考える終わりの美学とは?
「もうついていけなくなったから、辞めたって言いたいですね。素直に。もう今の格闘技をやれなくなったから、精神的にも体力的にも情熱も無くなったから辞めたって言いたいですね。カッコつけたくないです。需要が無くなったから辞めたって言いたいですね。学ぼうっていう欲求がなくなったらできないですからね。自分をアップデートする作業ができないから辞めたって言いたい。俺は本質である、諦めた、嫌だ、付いていけいないって言いたいです。まだ楽しいですよ。まだ見えてくるし。練習の体力も衰えているけど、貴重で面白い。昔何回もできたことを今は一回しかできない。だから貴重で面白いんです。毎回、練習は楽しいですね。好きでやっているから。頼まれてやっていないしやったことないから。本当に昔できたことが今できなくなっているから、本当にこれ楽しくやろうって思うんですよ。だから、楽しくできないならやめようって思いますね。とにかく楽しんで良いものをやりたい。」
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著者プロフィール

シンガポール発、アジアで絶大な人気を誇る格闘技団体「ONEチャンピオンシップ」! 世界トップクラスの選手や日本人注目選手の最新情報をお届けいたします。

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