[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第27話 隠していた戦術の全貌
「プランA、すなわちベースとなる戦術は、メーメット・オラルがやろうとしていた戦術だ。守備時は1トップ以外がゴール前まで下がり、マンツーマンをベースにゴール前を固める。ボールを奪うことができたら、そこから状況を見てカウンターを狙う。君たちがずっと取り組んできた戦術を、このチームの土台とする」
プランCとプランBまでは手品の種明かしを聞くかのようで、みんな知的好奇心を刺激されていた。だが、プランAで前監督の名前が出ると、一気に選手たちの表情が曇った。
【(C)ツジトモ】
「君たちがメーメットのやり方に不満を持っていたのは知っている。だが現実を見よう。残念ながら日本人選手には、育成段階で守備の個人戦術がきちんと教えられていない。ボールを奪う技術も低い。とても90分間プレスをかけることはできない。君たちの力では、引いて守るしか手がないんだ。後ろに人数を割いてスペースを消し、なおかつマークを厳しくすれば、どんな強国と対戦しても簡単には失点しない」
演説台でスピーチをしているかのように、ノイマンは両手を広げた。
「もちろん引いて守るだけでは、得点は取れない。だから私はプランBとプランCを用意した。この2つのオプションを持つことで、メーメットの戦術がより強力になる」
説明が終わるのと同時に、18歳の小高有芯があぐらをかいたまま拍手を始めた。
「よくできてるなー。頭のいい人が考えることは違うなー。まさか3つの戦術を使い分けるとは想像してなかった。すっげぇ、おもしろいやり方じゃん。ちなみにシステムはどうなるんですか? オラルさん時代と同じ4−3−1−2?」
「ユーシン、いい質問だ。システムについては、私が導入した3−4−3を続ける。君は引き続き、アンカーの位置だ。忍者のように飛び跳ね、攻撃では味方のパスを引き出し、守備では相手のパスをカットしてくれ」
「ちょっと待った」
今関が割って入った。
「ってことは、引き続き俺が右サイドバックで、ジョーが左サイドバックってことですか?」
丈一は息をのんだ。自分が左サイドバックとして起用されていることに違和感しかない。このままではチームの足を引っ張ってしまうかもしれない。
ノイマンはしばらく黙り込んだ後、いきなり声を出して笑い始めた。出会って以来、最もテンションが高い。
「ハッハッハ、ゼキ、ものすごくいい質問だ。まさにジョーとゼキ、君たち2人が3つの戦術を切り替える上で大きな鍵を握っている。それを説明するために、今日はスペシャルゲストを用意した」
ゲスト? また新しく大学生のアシスタントでも雇ったのだろうか。それともモチベーションアップのために有名人でも呼んだのだろうか。
ノイマンがリモコンのスイッチを押すと、スクリーンに車椅子に座る男性が映し出された。座高からすると、背は180センチ以上あるだろう。骨格ががっちりしていて、おそらく日本人ではない。だが光量が足りず、暗くて顔までは見えない。
カメラがゆっくりとズームアップすると、徐々に顔の輪郭がはっきりしてきた。長い髪を後ろで束ねた髪型をしている。うっすらと口の周りにヒゲが生えているのが見えた。
「まさか!」
丈一は立ち上がって大声を出した。
車椅子に座っていたのは、オラル前監督だった。
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【(C)ツジトモ】
新章を加え、大幅加筆して、書籍化!
【講談社】
代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリストが、フィクションだから描き出せた「勝敗を超えた真相」――。
【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く
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