W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

論客らいかーると×みぎの豪州徹底分析 「ガクッと落ちる75分以降はチャンス」

構成:飯尾篤史

ポイント3 サイドの攻防で主導権を握るのは?

最終予選4試合連続ゴール中。押し込まれる可能性があるなか、カウンターの急先鋒にもなれる伊東の存在は大きい 【写真:ロイター/アフロ】

――注目のマッチアップや、主導権争いにおいて重要なエリアはどこでしょうか?

みぎ 先ほど、「頑張ってスライドするしかない」という話がありましたが、第4戦では日本のプレッシングがハマらなかったとき、オーストラリアが日本の左サイドを突いてきたように見えました。日本の両サイドの仕組みが左右非対称で、特に後半、南野のプレスがハマらないと、長友が前に出ざるを得ず……。オーストラリアの右サイドバックはあの試合、フラン・カラチッチというブレシアの選手だったんですけど、彼を起点に日本のプレスがズラされて、冨安が引っ張り出されるシーンが散見された。だから、日本の左サイドとオーストラリアの右サイドの攻防はポイントのひとつだと思います。

らいかーると 僕も10月のオーストラリア戦を見ていて、長友のサイドを狙っているんだなというのは感じていて。なぜかと言えば、ひとつは酒井宏樹(※招集辞退)の方から攻めたくない、もうひとつは伊東にカウンターをされたくないのかなと。あと、冨安がすごいんですよね。日本のウイングが外切りで中にプレスをかけに行き、インサイドハーフの守田と田中も出て行く、サイドバックの長友も出て行く。状況によって判断していると思いますが、遠藤も含めてかなり動く。そこを冨安がカバーするというのが日本の長所ですけど、先ほども話したように、オーストラリアは冨安の前に人を置いてきた。面白い対策だなと。

 そう考えると、オーストラリアが今回も日本の左サイドを狙ってくることは十分考えられます。特に右サイドの伊東が覚醒しているので。逆にオーストラリアが伊東に対してどんな策を講じてくるのか。ボール保持の循環の仕方で対処するのか、それとも伊東を守備に追わせるのか。そのあたりも注目ポイントになると思います。

広範囲にカバーし、日本の守備陣を支えてきた冨安だが、負傷のためにオーストラリア戦を欠場する。その穴を埋めるのは谷口か、板倉か 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――日本の左サイドが狙われた場合、どんな対応が必要になりますか?

らいかーると 外切りプレスをやめて4-5-1で対応すればいいと思います。サイドハーフがちゃんと戻ってくれば、インサイドハーフが外に出て行く必要がなく、中に集中できますから。外切りのプレスをやめることでカウンターが遅れるということは、そんなにはないかなと。だから、ボールサイドは下がってもいいと思います。逆サイドはカウンターを狙って前に残すという手もありますが、メリット・デメリットの両方がある。日本代表のそのあたりの選択にも注目ですね。

みぎ もし、がっつり受けて立つつもりなら、南野ではなく、浅野拓磨とか原口元気とか、上下動してハードワークできる選手を左ウイングに置くのはどうでしょう?

らいかーると 左サイドの人選に関しては、長友と南野でいいかな、という感じです。ここで新しい選手を使うリスクは避けたい。南野・長友のコンビの場合、メリットはもちろん、デメリットもチームとして把握していると思うんです。こういうことは苦手とか、こういう状況が起きるかもしれないとか。でも、違う選手を使って、未知の事態が起きたときに、チームとして対処できないんじゃないかと。それなら、得手・不得手をチームとして理解しているコンビの方が、計算が立ちますよね。

みぎ デメリットに関して言うと、右サイドと比べて左サイドの攻撃は、やや連係に欠けるように感じます。

らいかーると 左の南野が大迫のサポートをして、右の伊東が大外に張るのが日本の基本ラインだと思いますが、サポートするといっても、南野が左のハーフスペースからいなくなると、長友は孤立してしまいます。だからといって、南野が大迫のそばに行かないと、今度は大迫が孤立してしまう。そうした状況の中でオーストラリア戦以降、南野がどんどん大迫のそばでプレーするようになり、長友が孤立しているように僕には見えます。南野は10月のオーストラリア戦までは窮屈そうにプレーしていましたが、今は伊東の方まで顔を出したり、大迫が右に流れて、南野が大迫の位置に入ったりするようになって、プレーがすごく良くなっています。

――南野が良さを出しながら、長友を孤立しないようにしたいですね。

らいかーると 南野も大迫も左に流れればいいんだと思います。そこに、長友が絡むくらいのイメージの方がいいんじゃないかと。今はちょっと右寄りなんですよね。理由は分からないです。もしかしたら、左インサイドハーフの田中がハーフスペースに出ていかなければ、その分スペースが空くので、そこを大迫が使うといいかもしれない。大迫は相手DFを背負うのもうまいですが、下りてきて味方を使うのもうまい。移動できる範囲が広ければ広いほど良さが出せるし、それを左サイドでやることも可能なはずなんですよね。あるいは、南野がサイドに張って、長友が内側のスペースを使うことも不可能ではない。マルセイユ時代に長友が内側のスペースにいるのを見たことがあるので、右サイドと同じようなことはできると思います。

ポイント4 ラスト15分をどう戦うのか?

プレーエリアが整理され、サウジアラビア戦で1ゴールを奪った南野。左サイドバックの長友との連係も深めたい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――ゲーム終盤は、どのように戦うべきでしょうか?

らいかーると オーストラリアは75分以降、ガクッとダメになる。ここまですべての試合でそうです。インテンシティを高く保ったサウジアラビア戦でも、残り10分はボコボコにされていましたから。原因は分からないんですけど必ず落ちるので、日本代表には間違いなくチャンスが訪れると思います。

 10月の日本戦以降、オーストラリアは1勝3分でしたけど、ゲーム終盤にPKを取られるなど、勝っていてもおかしくないゲームもあったんです。でも、原因を探るなら、強度が落ちるから。対戦相手としても「これはいけるぞ!」と勢いに乗った可能性がある。オーストラリアが終盤に落ちることがあらかじめ分かっているんだから、日本としては、この時間帯をどう過ごすのか、プランを持っておきたい。リードしていたら、ボールを持って逃げ切れるし、負けていても、攻め込むことができると思います。中国すら攻め込めていたので。

――リードされているなら三笘薫が投入されるシーンが、勝っているならプレス要員として前田大然(※招集辞退)や浅野が起用されるシーンが目に浮かびます。

みぎ オーストラリアが75分以降にパフォーマンスが落ちるのは、途中出場の選手の質にも問題があるんですか?

らいかーると というよりは、みんな疲れているという印象です。今のオーストラリアって配置でサッカーをしているんですけど、選手があまり守らないんですよ。疲れれば疲れるほど、みんなが正しい位置からいなくなって、ボールが回らなくなっていく。疲れてくると、ボールが欲しくないのかもしれない。もともと蹴ってどうにかするというスタンスが、良い意味で装備されているチームなので。ゲーム終盤は、つないだ方がいいのか、蹴った方がいいのか、その意思統一ができていないイメージがあります。

 前から追うことにも、あまり慣れてないんじゃないでしょうか。おそらく前からのプレスに体力を使うことが得意ではない。だから、結果として最後までもたないんだと思います。ただ、今回はホームで迎える大一番。ここで負けたらおしまいという状況と、大歓声の後押しが、この問題を劇的に改善する可能性もあります。

オーストラリアは75分を境に勢いを失う傾向がある。そこに三笘が投入されれば、ビッグチャンスを作れる可能性は少なくない 【写真:ロイター/アフロ】

――ここで走らないで、いつ走るんだ、という状況ですからね。

らいかーると それを踏まえると、日本がボールを持てば、オーストラリアは絶対に疲れるので、残り時間を味方につけるという点では「持つ」という選択肢も悪くないと思います。

みぎ オーストラリアにボールを持たせてカウンターで仕留めるというより、日本がボールを持ってオーストラリアを疲れさせて、75分以降に勝機を見出すか。

らいかーると 日本が持てそうなら持つでしょうし、無理だと思ったらプレッシングに切り替えるでしょう。そのあたりのバランスは、森保(一)監督が指示するのか、田中や守田あたりがピッチ上で仕切るのかは分かりませんが、非常に重要になってくると思います。

みぎ 日本としては引き分けでもオーケー。一方、オーストラリアは勝たないといけないという状況の違いが、この時間帯で一層浮き彫りになりますね。

ポイント5 似た者同士が真逆の状況で再戦する巡り合わせ

――あらためて、日本とオーストラリアの印象はいかがでしょうか?

らいかーると オーストラリアが11月の中国戦で3-2-5をやった理由はいまだに謎で、相手の対策はあまり考えていないのかなと思うんです。その後は4-2-3-1ないし4-3-3に戻して、自分たちなりに、より良くしていこうとする姿勢を見せている。その点では日本と似ているのかなと。日本もオマーン戦、中国戦、ベトナム戦と戦い方を多少変えたりしていますけど、僕が見る限り、少しずつ自分たちの良さを研ぎ澄ましている印象が強いです。大迫を孤立させないためにはどうするか、右サイドの連係をどうするか、田中と守田の役割をどう整理するか。そういう意味では、相手のことよりも自分たちのサッカーをより良くすることを重視しているチーム同士、似た者同士なのかなと。

 もっといろいろできたはずだけど、今はこれをやるんだという意志を感じます。日本が4-3-3を採用したのは、もしかしたらたまたまかもしれないですけど、自分たちを良くしていく、アップデートしていくということに意欲的に取り組んだ結果として今があり、その両チームがこのタイミングで対戦するのは、面白い巡り合わせだなと思いました。

キック&ラッシュではなくパスを繋ぐサッカーを志向してきたアーノルド監督。日本に負ければ、方向性について疑問の声が噴出するかもしれない 【写真:ロイター/アフロ】

みぎ 巡り合わせという点では、第4戦では日本は1勝2敗と追い込まれて、あそこで負けたらW杯に出られないかもしれない、オーストラリアに息の根を止められるかもしれないというシチュエーションでした。ところが、あの試合を制した日本はそこから5連勝を飾ったのに対して、敗れたオーストラリアは1勝3分と停滞している。完全に立場が逆転してこの一戦を迎えるというのは、試合の捉え方としては意義深いなと。

 日本がオーストラリア戦を境に自分たちの歩んでいく道を見つけつつあるのに対して、オーストラリアは自分たちのやることは最初からはっきりしているんですけど、不運もあって土俵際に追い込まれている状況。オーストラリアとしては、歩んできた道が正しかったのかが試されているというか。日本に2連敗を喫すれば、「結局、出足でつまずいたはずの日本の方が、底力があった」という声が出かねない中で、予選を通して進化してきた日本に対して、自分たちのやり方を貫きながら日本を上回れるのか。オーストラリアの将来を考えると、重要なターニングポイントになるかもしれない。そういう見方で見てみるのも面白いんじゃないかなと思います。

(編集部注:対談後に大迫、酒井、前田が今回のオーストラリア戦、ベトナム戦の辞退を表明)

(企画構成:YOJI-GEN)

らいかーると

1982年、浦和出身。とあるサッカーチームの監督。サッカー戦術分析ブログ「サッカーの面白い戦術分析を心がけます」主宰。海外サッカー、Jリーグ、日本代表戦など幅広い試合を取り上げ、ユニークな語り口で試合を分析する人気ブロガー。サッカーライターとは違う「戦術クラスタ」の最古参であり、『footballista』などに寄稿。著書に『アナリシス・アイ 〜サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます〜』がある。

みぎ

愛知県出身のサラリーマン。贔屓のクラブは名古屋グランパスだが、サガン鳥栖、徳島ヴォルティスなども追いかける。Jリーグから日本代表まで感情の赴くままに、膨大な文字数で執筆する「みぎブログ」がJリーグファンの間で好評を博している。
【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ
DAZNにて独占配信

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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